進撃 | ナノ


※現パロ




「ねぇ、ナマエの恋人ってどんな人?」

大学の講義の合間の僅かな休み時間。友人のクリスタの口から飛び出した質問にナマエは彼の姿を思い浮かべた。

「歳はわたしより8こ上。見た目は怖そうだけど優しい人だよ」
「へぇ、じゃあ社会人なんだ!学生と社会人のカップルって素敵だよね」

楽しそうな笑顔を浮かべるクリスタにナマエは少し気恥ずかしくなった。付き合って半年程経つが親しい友人にはあまり彼の話はしたことがなかったからだ。最も、ナマエの友人らは恋愛の類いには疎かったり興味がなかったりする人間が多いことも理由の一つ。

「きっとかっこいいんだろうなぁ」
「うん、仕事も家事もサクサクこなしちゃうし、何でも出来ちゃうし。余裕があってわたしみたいにくだらないヤキモチを妬かない大人な人」
「ふふふ、ナマエったらよっぽど大好きなんだね。彼氏さんの話してる時のナマエ、とっても幸せそうなオーラ出てるよ」
「えっ!?わたしそんな顔してた?」
「うん、してたよ」
「わぁ……恥ずかしい」

本当のことを言っただけだが、クリスタにはそういう風に見えていたのだと知り顔に熱が集まるのがわかる。

「それに、好きだから妬いちゃうんでしょ?それは当たり前のことじゃないかな」
「そうなんだけど……わたしばっかりで、向こうはそういうのがなくて寂しい気もする」
「もしかしたら我慢してるだけで、彼氏さんもナマエと同じこと思ってるかも知れないじゃない」
「我慢かぁ……そういう風には見えないけど、少しでも妬いてくれたら嬉しいなぁ」
「じゃあそんなナマエにちょっぴりいいこと教えてあげる!」

ちょいちょい、とクリスタに手招きをされそれに従うまま身体を傾けるとリンと鈴のような可愛らしい声が耳元で“ちょっぴりいいこと”を囁いた。







時刻は19時前。様々な人が行き来する駅の改札口でナマエは今か今かと腕時計を何度も確認して、誰かを待っているようだった。ちらちらと先程から視線を送ってくる赤の他人の男性2人組を煩わしく思いながら肩に掛けているトートバッグの手持ち部分を両手でぎゅっと握った。

「ナマエ」
「…!」

後ろから声が掛かり、振り向けば会いたいと焦がれていた人物が。

「リヴァイさん!」
「悪い、待たせたか」
「ううん、大丈夫です」

ワイシャツとスラックスを着こなしたリヴァイを見てナマエは1週間ぶりに会えた嬉しさから笑顔を綻ばせる。煩わしく思っていた視線のことなんて一瞬にして忘れてしまう程、彼女にとってリヴァイの存在は大きかった。

「お仕事お疲れ様です」
「ああ」
「今日はね、こないだ一緒に雑誌で見つけた美味しいお店予約してみたの!」

早く行きましょう!と目を輝かせているナマエにリヴァイは愛おしさからふ、と声を漏らす。

「そうはしゃぐな」
「だって!」
「せっかく会ってんだ。もっとこっちへ来い」
「ひゃ…!?」

ぐい、とリヴァイはナマエの腰に手を回して己の方へ引き寄せた。ナマエは突然のことに驚いて思わず彼に寄りかかる形になった。

「手ェ繋ぐのも悪くねぇが、俺はこっちの方が好きなんだ」
「あ……」
「行くぞ」
「はい…!」

リヴァイの大きな手のひらがナマエの腰にしっかりと添えられ、それだけでドキドキと心臓が脈打った。彼の言う通り会った時は手を繋いで歩くこともあるがこうして腰に手を回されることが多かった。添えられた手のひらの温かさが伝わるのと肩が密着出来る体勢であり、ナマエも好きだがクリスタから言われた“ちょっぴりいいこと”を思い出して頬を染めた。

「(クリスタが言ってたのって、これのことだよね…?)」

あの時、クリスタが耳打ちしたのは───
『一緒に歩いてる時にね、腰に手を回して来るのは他の人に“俺の女は渡さない”って意味なんだって。言葉では言わなくても、もしかしたら行動で表してるかも知れないよ』という言葉だった。

現に腰に添えられている手。いつも大人で余裕のある歳上のリヴァイはヤキモチを妬かないと思っていたが、実際はこうして周りの男性に俺の女だと言うことを見せ付けていたのだと知り口下手な彼を更に愛おしく思った。先程はしゃぐナマエを一旦宥めたのもきっとちらちらと視線を送ってくる2人組の男らに気付いて牽制する為なんだと理解した。だから自分も同じことをしたくなっていつもなら腕に手を回すがナマエもリヴァイの腰にそっと手を添えた。

「…どうした」
「リヴァイさんと同じことがしたくなったの」
「そうか」

リヴァイは満更でもなさそうにそれを受け入れ、ナマエの腰に回す手のひらに力を込めた。

「(リヴァイさんはわたしのだもん)」

情けない、くだらないと思っていた歳下である自分のヤキモチ。けれど歳上のリヴァイも少なからず同じ想いだったんだと気づいた今日。彼の自由を奪わない程度にならヤキモチを妬いてやろうとナマエは小さく思った。気付かせてくれたクリスタには今度ランチでも奢ってあげようと考えながら。


2020 0812


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