※巨人を駆逐し尽くした先の、未来のもしものお話。捏造に捏造を盛り込んでいるのでストーリー改変や原作の内容からだいぶ離れている上、管理人の好きなように妄想を詰め込んでいます。また原作29巻までしか読んでいない状態で書いたものになります。矛盾しているところや設定と違う箇所がたくさんあるかと思いますので苦手な方は閲覧をオススメしません。
ひゅうっと穏やかな風が吹き抜けた。調査兵団の宿舎の、とある部屋の窓からリヴァイとナマエは青い空を見上げる。その先には人々を守る為の大きな壁はなかった。
「……本当に終わったんですね」
「ああ」
つい先日のことだ。人々を恐怖に陥れていた脅威───巨人を全て殲滅することが叶った。巨人化の薬などは調査兵団が皆押収し、もう人間が巨人にされてしまうこともないよう廃棄処分となった。忌々しい壁は取り壊され、草原のそのまた先まで見渡せるように。巨人を受け継いでいるエレンやアルミンらはリヴァイの監視下でしか動きを取れないことになっていて、普段は調査兵団が所有する屋敷に軟禁される形になっている。ライナーやアニも同様で、敵対していたマーレとの協定が結ばれたことによりそれが叶っている。
「じゃあ、もうこれもただのゴミになっちゃいますね」
部屋の端に追いやられた随分と使い込まれた立体機動装置や雷槍など巨人を駆逐する為に人類の知恵が詰め込まれた対巨人用武器は最早ただの鉄クズと化していた。それだけではなく、巨人が絶滅したことにより調査兵団の存在意義も危うくなり、事実上の解散になるのも時間の問題だと言われている。それも仕方がない。調査兵団の古株で残っているのは現在団長を務めるハンジ、リヴァイ、ナマエ、エレン、ミカサ、アルミン、コニー、ジャンの8名だからだ。
「…それを使う日が来ることは二度とないと思いたいな」
「そうですね」
「………」
「やっと自由を手に入れましたもんね」
やっと手にした本当の自由。これを手に入れる為に何千、何万もの犠牲者を出してしまった。同じ目的や意思を抱き、共に心臓を捧げて戦い散っていった仲間たち。綺麗事を言うならば全員一緒に自由を掴みたかった。けれど今の自由がその犠牲があってこそだとも思う。
「……諸々落ち着いたら、お墓参りに行ってみんなに報告しましょうね。きっと喜んでくれます」
「ああ。エルヴィンの野郎がどんな反応をするのか見たかったところだが…」
「団長は……絶対笑ってくれますよ。よくやったなって」
今は亡き団長エルヴィンを思い返す。リヴァイはあの時───薬を使って助ける時、迷いに迷ってこの地獄から解放してやりたいとエルヴィンではなくアルミンを選んだことを今でも正しかったのか思い出すことがあった。あの選択があったからこそ今の自由があるのも事実だが、エルヴィンと共にこの景色を見てみたかったというのもリヴァイの本音。
「……!」
考えることに夢中になり、不意にパタンと窓が閉まる音で我に返った。それはナマエの手によって閉められていた。
「そろそろ仕事に戻りましょう。じゃないとハンジ団長がまただらけちゃいます」
そう言ってナマエは踵を返すが、リヴァイによって呼び止められてしまう。
「ナマエ」
「はい」
「………」
「あ、ちょ…!?」
リヴァイに腕を引かれ、僅かな抵抗も虚しくすっぽりと彼の腕の中に沈んだ。まるで甘えているようなその行動にナマエは少し焦りながらも自らの腕をリヴァイの背中に回した。
「…ナマエ」
「はい」
「ナマエ」
「ふふ、どうしたんですか?」
「生き残ってくれて、ありがとうな」
「…!」
ぎゅ、と抱き締める腕に力が込められる。リヴァイの右手がナマエの後頭部に添えられた。そこからは嫌でも指が足りないことを思い知らされ、巨人や人間との戦いはそれ程過酷なものだったことを如実に語っている。ナマエは運も良かったのか生傷だらけだが身体は欠損せずに生き残ることが出来た。
「……守れなくてすみません」
「何故お前が謝る」
「わたしは……リヴァイ班の一員として、あなたを守れなかった」
「俺は生きてる。お前や仲間のお陰でな。自分の指がなくなろうと俺はナマエが五体満足で生き残ってくれたことが一番だ」
優しすぎる声にナマエは泣きそうになるのをグッと堪えた。少しでも気を抜けばきっと涙が溢れてしまう。
「…リヴァイ兵長」
「ずっとわからなかった。俺の選択が正しいかどうか……それで仲間を死なせたこともあったからだ。だがお前は生き残ってくれた」
ぽつり、ぽつりと言葉を零すリヴァイ。地下からの仲間だったファーランもイザベルも、リヴァイを引き抜いたエルヴィンも、特別作戦班として組まれた班員も、皆死んでしまった。仲間の親族には死神とまで言われたこともあった。表情には出さないが仲間の死が怖くて辛くてたまらなかった。それを今やっとこうして言葉にしているリヴァイが堪らなく愛おしくて、ナマエも抱き締める力を強めた。
「わたしはちゃんと生きてます。これからも生きて、死ぬまでリヴァイ兵長の隣にいます。だから安心してください」
そう言えば、リヴァイから安心したような溜息が聞こえた。腕が解かれる気配がなかったのでナマエもそのまま抱き締められる状態で、彼の胸に頬を擦り寄せた。
なかなか仕事に戻って来ない2人に痺れを切らしたハンジがやって来るのは3分後のこと。何やってるの、といつかのふざけた面持ちに戻ったハンジに茶化されるのだった。
2020 0729
mae tugi 37 / 60