進撃 | ナノ


※No nameパロ




「お兄さん、No nameのLに似てるって言われたりしません?」
「一回でいいので”跪け、豚共が”って言ってくれせんか〜!?」
「あっ、すみませ〜ん。ぶつかったお詫びにLINE交換しませんかぁ?」
「雰囲気めっちゃL〜!写真撮らせてもらってもいいですか?」

ネオンが光る繁華街。リヴァイはいろんな女性にあれやこれやと言い寄られるも全て無視して歩き続けた。後ろからは声を掛けてきた女性たちからの悪口が聞こえる。あんな無愛想なのはLじゃないだとか、他人の空似なのに芸能人ぶるな等酷い言われようだが当の本人は振り返ることもなく歩みを止めない。

「…チッ、いい加減にしろクソが」

リヴァイは吐き捨てるように呟いた。リヴァイは今話題の覆面バンドNo nameのボーカルであるLに雰囲気が酷似していることから、上記のようにファン、特に女性から言い寄られることが多々あった。しかし実際はリヴァイはLとして活躍している本人だった。顔を隠しているお陰で今までバレたことはないが醸し出される雰囲気やオーラまでは隠し切れないのだろう。かろうじて覆面でよかったと心底思う。顔を公開していたらこの程度じゃ済まないとリヴァイは独りごちった。

「………」

やり場のない憤りを感じながら、リヴァイはパタリと足を止めた。見上げた先には今まで何もなかったはずの土地に新しく店がオープンしていた。しかもいろいろな紅茶の茶葉が売っている店で紅茶を愛して止まないリヴァイの足は自然に店内へと進んでいた。この通りに来るのは久しぶりの為、店の情報などもわからなかったが今日はほんの少しだけツイているかもしれないと思った。

「いらっしゃいませー」

店内はとある童話をイメージしたようなメルヘンな作りをしていて、自分の雰囲気とは全く逆だと思い知らされる。しかし店内には一人で来店している男性客も見掛けられたので気にせず茶葉を物色した。普段から気に入って飲んでいるフレーバーとあまり自分では買わないような珍しいもの、この店限定のオリジナルフレーバー等いくつか籠に入れ、レジに持って行く。レジのお姉さんが驚いたように二度見してジロジロと全身を見てくるのが鬱陶しいと思いながら、ジーンズの後ろポケットから黒い革製の財布を取り出した。

「合計で2860円になります」

細かい小銭がなくお札を3枚トレーに乗せて店員からのお釣りとレシートを待っていると、控えめに後ろから声が掛かった。

「あ、あの、すみません…」
「………」

小さな声だったのでこのまま聞こえないふりを決め込もうとしたが、次の瞬間くいっと軽く袖を掴まれてしまった。本当に鬱陶しい、そう思って睨み付けるように振り返った。

「……」
「ひっ?!」

リヴァイの悪人面に声を掛けてきた小柄な女性は顔を引き攣らせて小さな悲鳴を上げる。これだけ睨みを利かせれば女性は去っていくだろうと思ったが、その女性はふるふると怯えながら何かを差し出した。もしかしてこの女性はリヴァイをLだと気付いているのかと思ったが、どんな物でも受け取らないと決めたリヴァイはいらない、と口にしようとした。

「あ…の、これ」
「いらね「落としました、よ?」
「……」

女性の手のひらにはリヴァイの物と見られるキーケース。そこには家の鍵や車の鍵など大切なものが付いている。同じポケットに入れていたせいできっと財布を取り出す時に落としてしまったのだろう。落とし物を拾ってくれた女性の厚意をもう少しで無下にするところだった。

「……悪い」
「いえ、わたしはこれで…」

女性は会釈をするとそそくさと店を出て行ってしまった。怖がらせてしまったのだから当然だ。もしもファンであろうがなかろうが、まともに礼も言えず去ってしまった女性に申し訳ないと思いながら、店員からお釣りを受け取ってリヴァイも店を後にした。
店を出てすぐのことだった。何やら目の前でガラの悪い男たちが数人群がっていて、隙間から女性がいるのが見える。面倒なことには関わらないでおこうとリヴァイが歩き出した時。

「やめてください…!」
「…!」

確かに聞こえたか細い声。リヴァイは振り返り、男たちの方を見るとそこには先程キーケースを拾ってくれた女性がいた。見たところ嫌がる女性を無理やり連れて行こうとしていて、女性は涙目になりながら抵抗しているが他の通行人は見て見ぬふりをして通り過ぎていく。本来なら自分には何の関係もない相手だがリヴァイの足は勝手に動いていた。

「いいじゃねぇか、ちょっと一緒にお茶しようって言ってるだけだぜ?」
「…だ、だから……やめて、くだ、さい……お願い、します…」
「おい。女一人相手に複数人で群がってんじゃねぇぞクソ野郎共が」
「…!?」
「あぁ?何だ、チビ」
「文句あるのかぁ?」

リヴァイが憎たらしく声を掛ければ、まんまと釣られて振り返る。そんな男らの口から出てくるのはチンピラの大名詞とも言えるかっこ悪い言葉ばかり。リヴァイのことが気に入らない男は指の骨をボキボキ鳴らしながら近づいていく。

「チビは黙ってな」
「ハッ、クソみてぇなテメェに指図されたくねぇな」
「んだとこのチビッ!!!」
「兄貴!!」

その一言で頭の筋が切れたリーダー格の男がリヴァイに殴り掛かる。女性は見ていられないと目を瞑った。

「ぐっ…!?」

鈍い音と共に人が地面に倒れ込む。倒れ込んだ男は殴られた腹を押さえて浅い呼吸を繰り返していた。

「その程度かよ」
「つ、強ぇ…」
「チッ…ずらかるぞ!」

リーダー格の男がやられたことに焦った他の男は、倒れた男を担いでさっさと逃げていった。

「あの…!」
「あ?」
「すみません、助けていただいて…」
「気にするな」
「あなたは…さっきの…」
「落とし物拾ってくれた礼だ」

女性の無事を確認したリヴァイは去ろうと踵を返すがそれは袖を引っ張られて阻止された。けれど不思議と苛立ちは感じなかった。

「……まだ何か用か」
「あ、ごめんなさい……助けてくれたお礼に、何かしたくて…」
「それならキーケース拾ってくれたのでおあいこでいいだろ」
「ぁ……そ、う…ですね」

と言いつつ、袖を掴む手は離れなくて俯いたままの女性にリヴァイはどうしたものかと考える。第一印象は控えめかと思ったが実は頑固な一面があるんだと頭の隅っこで思う。

「………リヴァイ」
「え…」
「俺の名前だ。お前は?」
「あ……ナマエ、です」
「ナマエか。いい名前だな」
「へっ…あ、ありがとうございます」

頬を染めながら薄く笑うナマエと名乗った女性。先程まではファンに言い寄られて苛立ちを感じていたが彼女に対してはそんな気持ちは芽生えなかった。

「お前、No nameは知ってるか?」
「のー……ねーむ?」
「芸能……音楽関連だ」
「どこかで聞いたことはあるような……すみません、わたし歌手とか芸能人とかに疎くて」
「そうか、ならいい」

ほんの好奇心で確かめたかったこと。ナマエがNo nameを知っていてファンなのだとしたら今後の付き合いは面倒なことになる。が、様子を見ているとファンどころかバンド名すらあまりわかっていないようだった。それに酷く安心感を覚えた。一方でリヴァイの質問の意図がわからないナマエは首を傾げている。出会った直後から小動物みたいな仕草に素直に可愛いと思ってしまった。

「……ナマエ」
「は、はい」

リヴァイは袖を掴んでいるナマエの手を優しく離してやる。

「…紅茶、好きか?」
「え、あ、はい!」
「なら付き合え」
「…え、と」
「俺に礼がしたいんだろ?この先に俺の行きつけの紅茶が美味いカフェがある。そこに付き合え」

出会ったばかりの女性にとんでもないことを言っている自覚はあった。けれどナマエという女性は一緒にいて嫌な気持ちにはならなかった。

「…行くのか行かねぇのか、選べ」
「い、行きます!!」
「…でけぇ声も出せるじゃねぇか」
「あっ、ごめんなさい…」
「いやいい。モジモジしてねぇでシャキッとしてろ。その方がお前に似合う」

リヴァイはナマエの腕を引いて歩き出す。戸惑いながらもナマエも必死に歩幅を合わせた。



2020 0504


mae tugi 58 / 60

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