コンコン、と無機質な音が響く。ナマエはドキッと胸を弾ませて扉を開けばそこには思い描いていた人物が立っていた。彼はベルトとジャケットは着用していないもののまだカチッとした兵団服を身に付けていた。
「…兵長。お疲れ様です」
「着いて来い」
「はい…」
リヴァイはナマエが湯浴みを済ませていることを確認すると顎をしゃくって自室へ向かって歩いて行く。ナマエはいつもの兵団服ではなくラフな部屋着のまま小柄な男の後を追った。
時間帯のお陰もあり、誰にも見つからずにリヴァイの部屋へ辿り着くことが出来た。初めて入るそこは埃や髪の毛一本すら見つからないシンプルな潔癖症の彼らしい空間だった。
「…し、失礼します」
緊張しながらリヴァイに続いて入室し、扉を閉めた。くん、と匂えば汗臭くない爽やかな香りがナマエの鼻を擽る。部屋だけでなく匂いまで綺麗だなんて本当にリヴァイらしい。
「そこに座れ」
「えっ…」
リヴァイに座るよう促された場所は、ピンと皺なく張られたシーツ───ベッドの上だった。もう少し余裕を持たせてくれるとばかり思っていたが、展開が急過ぎてナマエは追い付けていない。躊躇っていると背中を強く押され、その力に押されるままベッドに顔から沈みこんだ。
「ぶっ?!」
「は……色気のねぇ声しやがって」
「これは兵長の…ッ!」
「…俺の、何だって?」
「ッ……」
兵長のせいだ、そう言ってやろうとナマエはベッドに手を着いて上体を起こしたのに、既に手遅れでナマエの背後から覆い被さっていた。行動の速さと色気満載な声にナマエの心臓はまたしても跳ねてしまう。
「や、あ、あのっ……急すぎません、か?」
「急も何も、こういうことするってわかっててここに来たんだろうが」
「でもでも、もう少し、その…紅茶かお酒かを飲み交わしてから、でも…」
「んなもんよりテメェを食う方が先だ」
「ひぁッ…!?」
べろん、と首筋をいきなり舐められて思わず甘ったるい声を上げてしまった。恥ずかしくなって手で口を防ぐもバッチリ聞かれてしまった声。
「…色っぽい声も出せるんじゃねぇか」
「ううう…」
「大丈夫だ、優しくしてやる」
「あっ、待って…!や…ッ」
多分な、と低い声で言うとナマエの制止も構わず服、ズボン、下着を剥ぎ取って裸にさせてうつ伏せから仰向けに態勢を変えさせた。一糸まとわぬ姿になり、恥ずかしいところも隠せなくなったが必死の抵抗で股の部分を手で覆う。
「…見せろよ、ナマエの全部」
「だ、だめ……兵長ッ、そんな、とこ…!」
グイッと強い力でナマエの足を広げさせると、大切なところを覆っていた手も退けさせた。露になるソコにナマエの羞恥心は更に高ぶる。そんな彼女を余所にリヴァイの舌がワレメをべろっとなぞった。
「あぁッ…!そこ、汚…いッ、からぁ…!」
ナマエは生理的な涙か、はたまた嫌悪の涙かを瞳に溜めてリヴァイの頭を押すがビクともせずに敏感なソコを舌で責められ続ける。まるで舌が別の生き物みたいで、的確に彼女のイイところを舐めて来る。
「…濡れてきたな」
「ぁ……は、やだ………ッ」
「……ナマエ」
「んむッ…」
乾いていたソコがテラテラとやらしく光る液体で濡れてきたことがわかると、リヴァイは一旦下から顔を離してぐいっと腕で口元を拭った。その仕草がやはり潔癖症な彼だから舐めるのはあまり気乗りしなかったのでは、とネガティブに考えたナマエだったが、すぐにそれは払拭された。リヴァイから優しいキスが降ってきたのだ。
「ん、ふッ、んん…」
「は……ン、」
リヴァイのキスは気持ちの良いものだった。ワレメを舐められた時も気持ち良さは感じたが急だったこともあり羞恥心や僅かな嫌悪感があった。けれどキスは食べられてしまいそうではあるが、ねっとりとした舌の動きがふわふわと熱を浮かせナマエを夢中にさせた。
「ぷぁ…!ぁ、」
「…”もっと”って、顔してんな」
「ッ…」
「キス、そんなに良かったか?」
「………聞か、ないで…」
「…!」
離れた唇には名残惜しさからぽってりと熱が乗り、一本の糸が引いていた。ナマエは涙をぽろぽろ零しながらリヴァイに手を伸ばして抱き着いた。恋人同士ではないのに、本当はだめなことだと理解しているのに、一度気持ち良くなった身体は理性を抑え込み、もっともっとと男を求めた。一方リヴァイもナマエの方から求めて来るとは思っておらず、ほんの少しだけ動揺したがすぐにニタリと普段はしないような怪しい笑みを浮かべた。
「……リヴァイ兵長」
「何だ」
「…処女を捧げる前に、一つ聞いてもいいですか」
リヴァイの首に回した腕をそのままに、ナマエは恥ずかしげに問うた。
「…どうして、わたしの処女をもらってくれようと思ったんですか?」
「あ?どうして、だと…」
「だって、接点なんてあんまりないし、理由を言えばって言ってたから…その理由を知りたくて」
正直、理由を聞くのが怖かった。リヴァイ程の男なら女に困らないと思っているしただの暇潰しか、はたまた彼は処女厨か、それとも性欲処理が出来れば誰でもいいのか。どうしても悪い方に考えてしまう。けれど処女をこの男に捧げるのであれば聞いておきたかった。
「…一度しか言わねぇ」
「………」
何を言われても受け入れて、さっさと処女を捧げてしまおう。ここさえ乗り越えれればきっと恋愛に億劫な気持ちは多少はマシになるだろうとナマエは覚悟を決めていた。しかしリヴァイは優しい声色で紡いだ。
「………お前が、ナマエのことが、好きだと思ったからだ」
「………ッ?!」
「(きっかけは、忘れちまったがな…)」
考えてもみなかった返事にナマエは腕の力を緩めて、マットレスに体重を預けてリヴァイの顔を見上げた。彼は眉間にシワを寄せて目付きは声いが、どこかすっきりしたような嬉しそうな、そんな表情をしていた。
「(だから、優しくするなんて言ったの…)」
好意を寄せられていたことを行為が始まってから知り、何とも言えない気持ちもあるが身体の関係から始まる恋だってあるはずだ。そう、ドキドキと脈を強く打ち続ける心臓を鎮めさせる為に思い込んだ。そうでもしないと簡単にリヴァイのことを好きになってしまいそうだったから。それでも抑え切れない思いは涙となって溢れる。
「……じゃあ、優しくしてくれますか?」
「…ああ」
善処はする、とリヴァイらしい答えが返って来たところでナマエは自ら彼の頬に触れるだけのキスをした。
「…テメェ、」
「いつからわたしのことを好いてくれていたかはわからないですけど、わたしの心を落として見せてくださいね?」
「ハッ!処女が重いだの恋愛に踏み出せないだの言ってた割にでけぇ口叩くじゃねぇか。おもしれぇ……絶対好きだと言わせてやる」
リヴァイのプライドにも火が付き、様々な欲望が掻き立てられる。こうなった彼はもう誰にも止められないかもしれない。ナマエの流す涙をぺろっと舐め取ってやり、再びキスをする。そのキスは甘じょっぱい味がした。
次の日。狭いベッドの中で目を覚ましたナマエは隣にいるリヴァイに視線を移した。
「…起きたか」
「…あ、お、おはようございます、」
「おはよう」
既に起きていたリヴァイを凝視出来ず、スっと視線を下げれば布団は被っているものの自分も彼も下着すら付けていないことに気付き、昨日のセックスを思い出した。ピロートークも出来ぬままナマエは気を失ったことも。
「…ッッ、」
「…昨日は激しかったな」
「い、言わないでくださいよ…」
「身体、平気か?」
「……ちょっと、痛いです」
「だろうな」
リヴァイの一言で更に鮮明に思い出される昨晩の情事。初めての行為で、優しくするだの言っていた癖に激しく何度も求められ、ナマエの身体は悲鳴を上げていた。痛む腰を摩りながら少し悔しいがぴっとりとリヴァイに引っ付いてみる。
「……」
「どうした」
「…リヴァイ兵長。処女、もらってくれてありがとうございます」
「好きな女の初めてをもらったんだ。礼を言うのは俺だろう」
「それでも、です。それにこのゲームはわたしの負け…ですから」
「あ?」
ナマエはリヴァイの胸に顔を埋めながら、言ってやった。
「好きです、兵長」
「……そうだな。俺の勝ちだ」
「チョロい女だと思いますか?」
「いや、俺が勝つのはお前を抱くと決めた時から確信していたからな」
リヴァイの大きな手のひらがナマエの頭を優しく撫でる。それが心地好くて猫のように顔を擦り寄せた。
「流石、兵長」
「……まだ時間はある。もう一眠りか」
「??」
「もう1ラウンドか」
「は!?」
ようやく、ゆったりとした時間を過ごしているというのにとんでもないことを言い出したリヴァイに、ナマエは驚きを隠せない。処女を捧げ、優しくすると言った割には手加減なくめちゃくちゃに何度も抱かれた昨晩。そのせいで腰や身体のあちこちが痛いのに、この男はまだヤる気満々なのだ。
「選べ」
こんな状況じゃなければ、かっこいいセリフなのに今は絶望を感じさせる選択でしかない。しかも選べと言う割にリヴァイは既に臨戦態勢でベッドから起き上がりナマエの手首を掴んでいる。最早彼女に選択肢はないようだ。
「や、わたし、昨日のであちこち痛いし…!仕事に支障しか出ないんですけど…?!」
「安心しろ。ナマエの分の休暇申請は昨日に済ませてある」
「なんて人…!!」
これではもう誰もリヴァイを止める人もきっかけもない。ナマエは痛みを我慢しながらまた抱かれてしまうのだった。
「(痛いけど………幸せの痛みなら、消えてほしくないかも)」
声が枯れる程抱かれ、無理をさせられたナマエは深い眠りに落ちる中、ぼんやりと思った。この痛みは女として花が開いた証とリヴァイに愛された証拠だと。
2020 0414
mae tugi 29 / 60