「クソがッ…!」
力いっぱいの蹴りを繰り出すも目の前の扉はビクともしない。
遡ること10分前。リヴァイとナマエは偶然資料室の前で鉢合わせた。古い資料を探しに来たリヴァイと使用した資料を戻しに来たナマエ、目的地が同じだった2人は扉を開けて中に入ったのだがそこには1枚の紙切れすらない見知らぬ場所になっていた。部屋は真っ白で家具もなければ窓もない、不思議な空間で知らぬ間に扉は固く閉ざされていて出ることも叶わない。
「開かないですね…」
「チッ…一体どうなってんだ」
いくらドアノブを捻っても、体当たりしても、叩いても扉は1ミリも開かないどころか傷1つ付けることが出来なかった。窓もないこの部屋から一体どうすれば脱出出来るのか、幾度と危険な壁外調査を乗り越えてきた2人にも全く検討がつかず途方に暮れる。
「一生出られなかったらどうしましょう。このまま何もない部屋で飢え死に…?」
「そんなクソみてぇな死に方してたまるか。絶対ここから出る方法を探し出す。いいな?」
「…はい」
苛立つリヴァイと戸惑うナマエ。一旦扉から出ることを諦めて他に何かここから出る手掛かりがないか探すことにした。特に会話もなく進められる作業にナマエは気まずさを感じる。上司と部下、それ以上でも以下でもない関係であり、ましてやその上司は人類最強と兵士長の肩書きを持っているリヴァイなのだ。気を使わない方がおかしい話である。
「…あ」
「どうした」
「紙が…」
ナマエがたまたま振り返った先に、先程までは何もなかったはずの場所に1枚の紙切れが落ちていた。それを拾い上げると何やら文字が書かれている。
「"キスを3分以上しないと出られません"」
「………」
「え…?」
書かれた文字は理解出来るが意味がわからないと思わず紙を持つ指に力が入る。
「その文面だとキスすりゃ出られるってことだろ」
「……そう、だと思う…んですけど、」
「じゃあしないなんて選択肢はねぇよな」
「えっ!?」
さらりと言ってのけるリヴァイにナマエは思わず距離を取った。出る為の手段がこれしかないのだとしても付き合ってもいない、ましてや恋愛感情の欠片すらない人と3分以上のキスをするなど躊躇ってしまう。
「逃げるな。これしか手段がねぇ。やるしかねぇだろ」
「ッ……」
「俺とするのは嫌か?」
「え、いや……その、でも、」
「キスするたったそれだけのことだ。お前も兵士なら覚悟を決めろ」
「……わかり、ました」
キス以上のことは求められていない。それならばもう腹を括るしか方法はない。ナマエは既に羞恥心で泣きそうになりながらも同意の言葉を口にして距離を取った分を埋めるようにリヴァイに近づいた。
「お前、名前は?」
「ナマエ…です」
「ナマエ、か」
「………」
「大丈夫だ、優しくしてやる」
「え……んっ、」
リヴァイの言葉を聞き返す間もなく身体を引き寄せられて塞がれた唇。少しカサついてるが薄くて温かいそれが自分のものとくっ付いていると思うと体温が一気に上がりそうだった。ナマエは目も唇も固く閉じてただ時間が過ぎるのを待った。
「ッ、ッ……」
「……」
「ッ…!」
触れた唇が、引き寄せられる為に掴まれた肩が、ものすごく熱を持っているように感じる。恥ずかしくて堪らないはずなのに、嫌な気持ちにはならないのが不思議だった。相手がリヴァイだからだろうか。
「ッ、ッ…!」
「…おい、息継ぎしろ」
「…ふ、ぁッ…、」
恥ずかしくて息をすることを忘れていたナマエはリヴァイに言われ、息継ぎをする為に唇を開いた瞬間。
「んんッ?!」
「ッ…」
リヴァイの舌が容赦なくナマエの口内へと侵入して来たのだ。触れるだけだと思っていたのに突然のことに驚いて身体を捩るもがっちりリヴァイの腕にホールドされていて身動きが取れずにされるがままだ。舌を逃がそうにも執拗に追い掛けて絡めてくる彼の舌からは逃げられそうにない。
「ん、ふ、ッ、ぁ…ふぅ…!」
「は……ッ」
舌を絡められ、吸われ、やがてナマエは声が勝手に漏れてしまっていた。激しさもありながら優しいキスに気持ち良さを感じる。それがまた羞恥心を煽り、ナマエは縋るようにリヴァイのジャケットを掴めば彼はナマエの腰と後頭部に手を回して更に深く口付けをする態勢になる。これは流石にダメだとナマエは僅かながら抵抗をして見せた。
「…ッ、ぁ…だ、め…!」
「ふ……お前、かわいいな…」
「はッ…、んんうッ…?!」
そんな抵抗も虚しく、リヴァイにがっちり押さえられながらキスが繰り返される。そんな中で聞いた台詞に戸惑いながらも激しいキスを受け入れるしかないナマエは早くも抵抗を諦めて、されるがままになっていた。長いキスのせいで息は少し上がり、気持ちは高揚し、赤く染まる頬に涙が溜まる瞳。ナマエのそれらはリヴァイの欲を掻き立てるのには容易なものだった。
「あ…ふ、ん…ッッ、りば、い……へ、ちょ…」
「は……ッ…ナマエ、」
ちゅ、ちゅく、と舌が絡み付くいやらしい音が殺風景な部屋に響く。まるで恋人同士のような甘くて激しいキスをお互いに楽しんでいるようだった。と、その時、扉の方からガチャリと鍵が開いた音がしたのでナマエはパッとそちらへ顔を向けた。そうすれば2人の唇は離れることになる。
「…!」
「…おい、逸らすな」
「や、だって、鍵が…!」
「今は俺だけを見てろ」
「ひゃ…?!」
ようやく扉が開いたのにも関わらずリヴァイの手によって顔を固定され、再び唇が重なる。いつの間にか壁際に追い込まれてナマエの背後は冷たい白い壁が。舌だけでなく唇さえも吸われたり啄まれたり、濃厚なキスにとうとうナマエの足が力を失ってしまい、その場に崩れ落ちかける。しかしリヴァイが彼女の足の間に己の足を滑り込ませて阻止し、ナマエは顎を上げられたままキスを受け止める。
「ッ、ぁ…ふ、んん…ッ、」
「ふ……ナマエ…」
「あ…!や、やらッ…!」
「黙ってろ」
「んんんッ…!」
呂律が回らなくなっているナマエなんてお構いなしに、リヴァイはシャツ越しから胸を揉んだ。流石に抵抗を見せる彼女だったが噛み付くようなキスに壁に押し付けれる態勢な為、それは叶わない。もちろんそれだけでなく相手が上司だから激しく抵抗出来ないこともあるが、それをいいことにリヴァイの手は更に際どいところにまで伸びる。
「や…あッ…、んッ」
胸を揉んでいた手が下へ下へと行き、太ももを撫でる。鍛えられているとは言え程よく肉が付いた女のそれは触り心地が良く、堪能するようにリヴァイの手のひらや指が伝う。くすぐったいような気持ち良いような感覚にナマエは羞恥心と共に快感を少し感じ始める。リヴァイの指先がズボン越しに秘部に触れたところでナマエはハッと我に返った。
「ぷぁ……ッ、それ、以上は……だめ、ですぅ…!」
「あ?そんなに気持ち良さげに縋っておきながらどの口が言ってんだ」
顔を固定する手が離れたことに気づいて、横に逸らしてキスから逃れる。これ以上はダメだと訴えたがリヴァイの瞳は珍しく熱く燃えたぎっているように見えた。
「だ、って……ほんとに、これ以上はッ…!それに、鍵も開いてます…!」
「ほう……じゃあここでなければいいと?」
「ち、ちが……そういうことでは…!」
と、その瞬間。ガチャッと外から扉が開いたのだ。
「ッ?!」
「…チッ、」
まさかこのタイミングで扉が開くとは思わなかった2人は咄嗟に距離を取る。部屋に入って来たのは新兵のエレンやミカサたちだった。
「あれ…兵長にナマエさん。こんなところで何してるんですか?」
「ったく、空気読みやがれクソガキ…」
「え?」
「あ、ち、違うの!わたしたちも資料室で探し物してたの!」
「そうだったんですね。俺らもハンジさんに言われた資料を探しに来たんです」
「そ、そうなんだ。たくさんあるから頑張って探してね?」
「あ、はい。どうも」
頭を下げた新兵らはそのまま目的の資料を探す為に資料室の奥へと進んで行く。不信がられずに済んで良かったと安堵し、ふと周りを見ると先程まで真っ白で何もなかったはずの部屋はいつもの資料室へといつの間にか戻っていた。
「…おい」
「はい?!」
「……今夜、俺の部屋に来い」
「へ…」
「わかったな?」
「あの、でも…」
「お前に拒否権はない。必ず来い」
「ん…!?」
リヴァイはいつものしかめっ面だが、どこか楽しげな声色で耳打ちし、ナマエの頬にキスを落としてさっさと資料室を出て行った。ぽつんと残されたナマエは無造作に閉まった扉を見つめた。
「……何だったんだろう、」
キスの最中に言われた言葉を思い出し、一度は冷めた頬がもう一度熱くなる。きっと今夜はキス以上のことをされるとわかっていながらもナマエは行ってしまうのだろうと、ほんのり熱が残る唇に指を当ててリヴァイの顔を思い出した。
2019 1009
mae tugi 20 / 60