独占欲や嫉妬心など、自分には関係のないものだと思っていた。けれど実際には目の前の状況を見てしまった瞬間、腹の底から湧き上がってくるどす黒い感情がリヴァイの心を支配した。
彼が見たものは恋人であるナマエが後輩にあたるジャンやエレン、コニーらと仲良く椅子に座って談笑している姿。もちろん男だけでなくミカサやサシャたち女もいる。それだけならまだいい───問題はジャンの手がナマエの肩に置かれているということ。
「…チッ、おもしろくねぇ」
リヴァイがそれを見て見ぬふりなどするはずもなく、ずんずん彼女らの元へ向かい、ただならぬ不機嫌オーラを纏わせて仁王立ちする。穏やかな雰囲気を壊してしまうなど、どうでもいい。
「あれ?リヴァイさん」
「ひっ…!?」
「り、リヴァイ兵長…!」
リヴァイに気づいたナマエは呑気に笑うが、周囲にいるミカサ以外の新兵は彼を見た瞬間に顔を真っ青にした。ジャンの手もそれと同時にナマエの肩から離れ、それを確認したが一度湧き上がってしまったこの感情は簡単に収まってなどくれなかった。リヴァイは感情を抑えることなく剥き出しのまま彼らを睨み付け、ナマエの腕を引いて立ち上がらせる。
「おい、ガキ共。入りたての新兵のクセしてこんなとこでくっちゃべってるとはいい度胸だな」
いつもに増して恐怖心を煽るリヴァイに怯えまくる新兵。これだけ怖がらせても彼の心にはまだ黒いモヤがかかったままだ。
「リヴァイさん、この子たち怖がってますよ?落ち着いてくださいな」
「俺は至って冷静だ。…おい馬面のガキ」
「はッ、はひ?!」
「今度指一本でもこいつに触れてみろ。腕ごと削ぎ落としてやる」
そう言い残すとリヴァイはナマエの手を引いてその場を去る。残されたジャンらはただただ恐怖に戦き、もう二度とナマエに気安く触れようなんて思わないと誓った。その中でただ一人、普段通りのミカサは呆れたように溜息をついた。
ナマエが連れられて来たのはリヴァイの私室。中に入って扉を閉めるなり、そこに手首を縫い付けられて押し付けられてしまった。
「リヴァイさん?怒ってます…?」
「…ああ。最高に気分が悪い」
「わたし……何かいけないことをしたんでしょうか?」
リヴァイが何に対して怒っているかがわからないナマエは、不安そうに眉毛を下げて小さく震えていた。悪いのは彼女ではなく、はたまた2人の関係を知らなかったジャンでもないことはリヴァイは理解している。勝手に独占欲と嫉妬心を歳下相手に剥き出しにした自分だとわかっているのに、どす黒い感情はそんな理性でさえ黒く染めてしまう。
「……俺以外の男に触らせるんじゃねぇよ」
「あ…」
「お前は俺のもんだろ」
「んんっ?!」
ここで漸くリヴァイが怒っている理由を理解出来たナマエだが、その瞬間に唇を奪われてしまった。扉とリヴァイに挟まれながら口内を犯される。ちゅく、ちゅく、といやらしい水音が室内に響いて恥ずかしくなった。
「ぷはッ……は、は…」
「俺はナマエの全部が欲しい」
「り、ばい、さん…」
「身も心も俺に捧げろ」
「あッ…!」
もう一度、今度は顎を掴まれて上を向かされながらキスをされる。余裕のないキスだが確かにそこには愛があると感じられた。長くねっとりしたキスが終われば2人の唇を銀色の糸が繋いでいた。
「お前のもん全部もらう代わりに、俺の全部をくれてやる」
そう言って3度目のキスをしようとリヴァイが顔を近付けたが、ナマエの手のひらが彼の口を覆ってそれを制した。まさか拒否されると思っていなかったリヴァイは更に不機嫌な表情になり、彼女の手を払い除けた。
「おいコラ、何拒否してやがる。俺が嫌か」
「ち、違うんです…!」
「何が違う」
「…心配しなくても、わたしはもうリヴァイさんのもの、です。もちろんリヴァイさんは、わたしのものだから…ッ!?」
ナマエの言葉が言い終わらないうちに先程は叶わなかった3度目のキスが交わされる。今回のキスも舌を絡め合い、ねっとりとした長いものだった。
「かわいいこと言うんじゃねぇよ。我慢出来なくなるだろうが」
「ま、まだお昼です…!」
「わかってる。今出来ねぇ分、夜しっかりかわいがってやるよ」
「ん…」
4度目のキスは触れるだけのフレンチなものだった。唇を離すとリヴァイは満足そうにナマエから離れていく。漸くリヴァイと扉との板挟みから解放されたナマエは赤く火照った頬に手を当てて、小さく溜息をついた。
「リヴァイさんって……意外と嫉妬深いんですね」
「…お前にだけだ」
「ふふ、嬉しいって思うのは変ですか?」
「…変じゃねぇだろ」
「よかった」
ナマエが笑うのに釣られてリヴァイも少しだけ笑う。今夜は寝かせられないな、なんて考えながらリヴァイは部屋から出て行く彼女を見送った。
2019 0801
mae tugi 15 / 60