久しぶりに休暇が重なり、リヴァイとナマエは市民街へと来ていた。わいわいと大勢の人で溢れる街はとても賑やかで兵団内とは全く違った雰囲気だ。
「やっぱり人が多いですね」
「そりゃあな」
「あ、兵長!あそこのお店かわいいです!」
小さなカフェやかわいらしいアクセサリー類が並ぶ雑貨屋など、街には目を引くものがたくさんありナマエはいろんな店に目移りしては、その瞳は楽しそうにキラキラと輝かせていた。しかし、一方でリヴァイは面白くなさそうに眉間にシワを寄せている。
「兵長?」
「こんな時くらい名前で呼んだらどうだ」
「あっ…そうでしたね。つい癖で…」
うっかり、とナマエは申し訳なさそな表情で笑う。ここは本部の外でしかも2人は休暇であるのに普段の癖というのは一度染み付いてしまうと厄介だ。
「リヴァイさん」
「………」
「………何か反応してくださいよ」
「いや、悪くねぇと思ってな」
「変なリヴァイさん」
兵長ではなく名前で呼ばれることが嬉しくてリヴァイは少しだけ表情を緩めた。
「最初はどこに行きたい?」
「えーっと……とりあえず紅茶の美味しいお店でしょ?そのあと雑貨屋さんで髪飾りも見たいし、それからそれからっ…!」
左手の指を一つずつ折りながら行きたい場所を次々に言えば、その夢中さにリヴァイはふ、と小さく笑った。普段は激務の最中であまり街に出ることがないナマエにとってはこれが貴重な機会であり以前から目星を付けているところはなるべく回りたいと、このデートが決まった時から言っていた。今日はその望みを叶えてやろうとリヴァイも数日前から準備はばっちりだ。
「そんなに慌てなくても全部叶えてやるよ」
「だって、1日しかないんですよ?リヴァイさんとやりたいこと行きたいところ、たくさんあるのに。1日じゃ全然足りない…」
楽しそうに輝いていた瞳が次は悲しみに染まる。からころ表情がすぐに変わって忙しいやつだ、なんてリヴァイは思いながらナマエの頭を撫でてやる。
生まれついたこの世界は残酷だ。ましてや調査兵団に所属していれば"死"に一番近い。少しでも長く生きられればいいと思いながら毎日を過ごしている人も少なくはない。1日1日がとても大切で貴重なのだ。
「"今日"は今日しかねぇが、"これから"があるだろう。ナマエは俺が守ってやる。やりたいことを一緒にする為にな」
「……ッはい!」
そう言うリヴァイの口調と表情はとても穏やかで。ナマエの表情もみるみるうちに輝きを取り戻し、強く頷いた。
「最初は紅茶の店、だったな?」
「それならこの道を曲がった先です!」
下調べはばっちりなナマエはリヴァイの手を引いて足早に歩き出す。とても楽しそうに嬉しそうに歩いていく小さな背中を見つめながらリヴァイも釣られて歩幅を広げた。
「あっ、ありました!ここで───」
目当ての店が見え、ナマエが指をさしながら振り返った瞬間。この時を狙っていたかのようにリヴァイがナマエの手を己の方向へ引き、よろめいた彼女の唇に触れるだけのキスを落とした。ナマエは何とか足で踏ん張り、倒れこそしなかったものの不意打ちのキスで唖然としている。
「ッ……」
「なんて間抜けな面してやがる」
ククッと乾いた笑いと共に普段では絶対に見ることのできないリヴァイの楽しそうな笑顔に、ナマエは頬を赤く染めて魚のように口をパクパク動かしている。そしてリヴァイは追い討ちをかけるようにナマエの後頭部に手を当てて頭を引き寄せた。そして耳元で甘く囁いたのだ。
「もっと過激な方が良かったか?」
「〜〜ッ!!」
「ナマエは破廉恥だな?」
「もう!人前ではやめてください!!」
ぷりぷりと怒るその姿ですらリヴァイには愛おしくて、恥ずかしさから涙を溜めるナマエの手を握り直す。怒っていたくせに握られた手を見て眉尻を下げ、上目遣いで彼を見やる。行くぞ、と呟いた言葉を合図に今度はリヴァイがナマエを引く形になり、目当ての店へと入って行った。
2019 0718
mae tugi 14 / 60