じわじわと距離を詰めていたつもりだった。今まで積み重ねてきたモノを崩さないように、そっと、ゆっくりと、まるであと少しで崩れてしまいそうなジェンガをどこの棒を抜こうか必死に考えて、つつくように。
なのに、それが崩れてしまう時は一瞬で───
「ッ…」
「リヴァイ兵長?」
ここは古い書類ばかりが並ぶ資料室。窓が小さい為陽の光も入って来ず、あまり人も来ないここでナマエはリヴァイに押し倒されていた。どうしてそうなったのか、考えても無駄なようが気がするが恋人関係ではない男にどうして押し倒されているのか…ぐちゃぐちゃになった頭で必死に考えあぐねる。
「…どうしてこんなこと、するのですか?」
ナマエはあくまで冷静を装って尋ねるが、リヴァイは何も答えない。前から好意を寄せていた女を押し倒してしまった罪悪感と勢いで襲ってしまいたい気持ちの狭間で心が揺れ動いている。ほんの僅かな理性がリヴァイを思い留まらせていた。
「ッ、こんなはずじゃ、なかったんだ…」
「え?」
低く、小さな声で発せられた言葉はナマエの耳には半分も入って来なかった。
「兵長…?」
押し倒された体勢は変わらないまま、リヴァイは短く息を繰り返す。ナマエも冷静を装っているだけなので心臓は今にも張り裂けそうなくらいにドクン、ドクンと脈打っている。
そんな中で今まで2人で過ごしてきた思い出がナマエの頭の中を駆け巡る。掃除が終わった後には必ず頭を撫でてくれたこと。仕事終わりに一緒に紅茶を飲んだこと。誕生日には兵団内では食べることの出来ない豪華なディナーをご馳走してくれたこと。上司と部下という関係だったが一つひとつが楽しい思い出だったと、そう思った。
「……」
「ッ!?」
ナマエはそっとリヴァイの頬に手を伸ばし、優しく包み込む。彼はビクッと少しだけ驚きながらもそれを受け入れた。
「あ…!」
が、受け入れたのはたった数秒だけで。ナマエが伸ばした手を頬から剥がすと細い手首をぐっと掴んだ。
「お前、俺を煽ってんのか?」
「や…そんな、つもりでは…」
ふるふると首を横に振って否定するも、それすら今のリヴァイには欲情する一つの材料でしかなくて。そのままぐいっと腕を引かれて手首にキスを落とされる。ちょっぴりかさついた唇が触れ、思わずドキッと心臓が跳ねた。
「なぁ、知ってるか?」
「何を…?」
れろ、とやらしく手首を舐められた後にリヴァイに問い掛けられるが内容がわからずに問い返せば彼はニヤリと笑う。
「手首にキスするのは、そいつのことをめちゃくちゃに抱きたいって意味なんだと」
「ッ…!?」
リヴァイの言葉を理解するのに時間はかからなかった。薄々気づいていた彼の自分への気持ちにこの状況。恋人関係でないのに今の状況を心の底から嫌だと思わない自分がはしたないと、ナマエは恥ずかしくなった。
「悪いが、もう無理だ…」
「あっ…!」
とうとう理性が切れてしまったリヴァイは手首を床に押し付けて、覆いかぶさるようにナマエの首筋に唇を寄せた。これからどんなことをされるのか、子どもではないのだから嫌でもわかってしまう。
「ナマエ……ナマエ……」
「へ、へい、ちょう…」
「お前がほしい…」
「…もう、好きに、して…!」
「!?」
「ぁ…!」
「…言ったな?前言撤回は、聞かねぇぞ」
うわ言のように何度も囁かれる名前にうっとりし、思わず自分が発した言葉に口を噤んだが遅かった。キラリと怪しく瞳を光らせたリヴァイにナマエはこれからされる行為に覚悟をするしかなかった。
2人の気持ちが繋がるのは、もう少しだけ後のこと。
2020 0323
mae tugi 27 / 60