進撃 | ナノ


「りばいへーいちょ」
「誰だ、こいつに酒飲ませたやつは」

今日はハンジの考案で兵団内の飲み会が開催される日だった。もちろんそこにはリヴァイも出席し、彼の恋人であるナマエの姿もあった。他にはエルヴィンを始めモブリット、ミケ、ナナバ、ゲルガーらもいた。
皆、仕事ではなくオフということでハメを外しワイワイ盛り上がっており、酒のペースも心做しか早かった。そのせいか、まだ始まって1時間も経っていないのにナマエは顔を真っ赤にして既にべろべろに酔っていたのだ。べったりと寄り添ってくるナマエにリヴァイは舌打ちをしながら、他の参加メンバーらを睨み付ける。

「いいじゃん、久しぶりの飲み会なんだから!たまにはパーッとしようよ、パーッとさ!」
「このクソメガネが……ナマエが酒に弱いこと知っててわざと強い酒飲ませやがったろ」

リヴァイは酒に強いがナマエはあまり強くはない。元から好んで酒を飲むタイプではなくアルコール度数が低いカクテルなどを多くても2〜3杯が限度。それはハンジらも周知の事実だ。過去に一度、付き合い始めてすぐにリヴァイの部屋で晩酌を交わした時、つい気分が上がって度数が高めのワインやカクテルを飲み過ぎたことがある。頬を真っ赤に染め、好きだの愛してるだの普段は恥ずかしがってなかなか口にしない言葉をつらつら並べた上にべったりと肌も密着させてきたのだ。その後はお察しのように2人で甘い夜を過ごした。

「それにさ、普段真面目なナマエが酔うとどんなことしでかすか気にならない?」
「既にリヴァイにべったりだから、甘えたなんだってことはわかったな」
「ギャップ萌えだな」
「テメェら……」

キッ、と眉間にいつもより多めの皺を刻んでハンジやナナバ、ミケを睨み付けるが、酒が入っている彼らにそんなものは通用するはずもなく。ハンジは今も陽気にグラスを掲げてゲラゲラ笑っている。モブリットの冷静な突っ込みを受けても最早ハンジの耳には届いていない。

「リヴァイ、たまの飲み会くらい楽しんだらどうだ」
「ほらぁ、エルヴィンもそう言ってることだしさ」
「そーだそーだぁ」
「ナマエもこう言ってるけど?リヴァイ」
「………」

更にはエルヴィンと張本人のナマエまでもが悪ノリしてきて、リヴァイは心底嫌そうな顔をした。2人きりならまだしもこれ以上他の人らに大切なナマエの酔った姿なんて見せたくない、自分だけのものだと独占欲と嫉妬心が湧き上がる。

「チッ……おいナマエ、帰るぞ」
「え〜、もう?まだのみたいよぉ」
「ダメだ」
「ぶー!」

まだいたい、と駄々をこねるナマエを無理やり担いで歩いて行くリヴァイ。エルヴィンやハンジはそれをニヤリと怪しい笑みを浮べて見送った。





辿り着いた先はリヴァイの私室。簡易的なクローゼットにシングルベッド、机などの最低限の家具だけが置かれたシンプルで綺麗な部屋だ。もちろん掃除や手入れも行き届いている。
皺一つない整えられたシーツが張られたベッドに担いでいたナマエを少し乱暴に放り投げた。

「りばいへーちょお、おんなのこにはもっとやさしく、してくらさい!」

放り投げられた体勢から上体を起こして、ベッドに腰掛ける形になるナマエ。ぷりぷりと怒る彼女の隣に同じようにリヴァイも腰掛けた。ギシッと軋んだ音がやけにやらしく響く。

「おい」
「へーちょ?」
「リヴァイ、だ」
「りばい」
「そうだ。今は2人きりだからな」

なんだかんだで、ナマエと2人きりになることが出来たリヴァイは嬉しそうに口角を上げている。密室に親しい男女が2人きり、薄暗い灯り、お酒、ベッド───それらから醸し出される雰囲気はリヴァイの理性を崩壊されるのには十分だった。

「んんッ?!」

リヴァイは噛み付くようにナマエの唇にキスをした。最初は触れるだけの、そこから角度を変えて何度も啄むようなキスをして、リヴァイの舌がナマエの唇をなぞってから唇を甘噛みする。それは口を開けろという2人にしかわからない合図。おずおずと開かれた隙間から容赦なく舌を突っ込んで口内を犯す。

「ん、はッ……は、ぁ…」
「はッ……ん、」

ちゅく、といやらしい水音がやけに大きく聞こえて更に気持ちは高ぶり、落ち着くことを忘れてしまう。ようやく離れた唇からはつうっと銀色に光る糸が2人を繋いでいた。

「ナマエ…」
「りばい…」
「ッ!?」

リヴァイがナマエを押し倒そうと肩に手をかけた時。彼女はそれを振り払って逆にリヴァイが押し倒される形となってしまった。まさか自分が押し倒されるとは夢にも思っていなかった彼はあまりの出来事に目を見開いた。

「おい、ナマエ…」
「うごいちゃだめ…」

身体を起こそうと力を入れるも、呆気なくナマエに押し返されてしまい逆戻りに。何度も2人で身体を重ねてきたが、自分が下になるのは初めてでどうも落ち着かない。初めてお酒を飲み過ぎた日もそうでない日も基本的に行為の主導権はリヴァイにあり、ナマエはいつもされるがままだったから。自分がそうしたくてしているだけで、お互いに気持ち良くなっているし彼女に頑張ってほしいとかあまり考えたことがなかったがナマエはナマエでそれを気にしていたのだと知る。

「たまには、わたしもがんばりたい」
「……」
「ね、りばい……だめ?」

お酒が入っているせいでほんのりと紅に染められた頬、潤んだ瞳、ぷっくりとした唇、あまり呂律が回ってない話し方。一度崩壊した理性が更に音を立てて崩れていく。

「いいだろう。精々頑張ってみろよ、ナマエ?」
「んふ。そーいってくれるとおもってた」

リヴァイが挑発するようにナマエの髪の毛を人差し指に巻きながら言えば、彼女は嬉しそうに笑って舌なめずりをした。

「りばい」
「ナマエ」
「あのね、だいすき、なの」
「ああ、知ってる」
「わたし、りばいしか、あいせないの」
「それも知ってる」
「ね。りばいは?わたしのこと、すき?」
「好きじゃねぇ」
「えっ…」
「愛してる」
「…うん!」

リヴァイはナマエの後頭部に手を当てて引き寄せ、またキスをした。今度は彼女の方から遠慮なしに舌が入ってきてリヴァイの口内で暴れる。たまには主導権を渡してみるのも悪くない、と考えながら少しだけぎこちない動きに笑ってしまいそうになった。それさえも愛おしくてただナマエの愛情表現を受け入れる。

「(こんなナマエの姿、知ってんのは俺だけでいい。他のやつに知られてたまるか…)」

誰も知らないナマエの本当の姿を独り占め出来る喜びを噛み締め、リヴァイは笑った。


2019 0605


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