どんぞこでであえたよ



ハンジと賭けを約束してから早くも5日が経った。この間、ハンジとナマエはあまり会うことがなく、時々すれ違って挨拶を交わす程度。てっきりもっと仕掛けられると思っていたナマエは拍子抜けだった。

「(……ま、明後日から壁外調査だしな)」

明後日に控えている年内最後の壁外調査。ハンジは分隊長を務めているので準備や会議等で下級兵士とは比べ物にならないくらい忙しいのだろう。壁外調査を控えたタイミングでの告白はするべきではなかったのかもしれないと、少し後悔と反省をした。

「(でも、死んだらそれまでだし……)」

青く澄んだ空を見上げて心の中で愚痴を零す。調査兵団に所属している以上、いつも隣には“死”が付き纏う。けれど残酷な世界の中でも幸せを求めてしまうのが人間の本能である以上仕方がない。

「今回は生きて帰れるかなぁ」







そして壁外調査当日。調査兵団は各々愛馬に乗り、門を目指す。
結局、今日までハンジからのアプローチは何もなく、会話らしい会話もすることなく、壁外調査当日を迎えた。今回の索敵陣形もハンジとは離れた位置に配属となってしまった。

「ナマエ、頑張ろうね」
「……うん。絶対生きて帰ろう」

訓練兵時代から仲が良い同期の女兵士とお互いを激励し合う。門が少しずつ開いていくに連れ、胸の鼓動がドクン、ドクンと強く打った。調査前に一目でもハンジの姿を見たくて、周囲を見回すが姿は見当たらない。死ぬつもりはないが、何が起こるかわからないのが壁外調査。最悪の事態も考えておかなければならない。だったら好きになった人の顔くらい見ておきたかった。なんて考えていたら───

「ナマエ、ここにいたの」
「……ッ!」

一目顔を見たいと焦がれたハンジが、馬に乗って隣にいた。

「ハンジ分隊長……」
「なかなか会いに来れなくて悪いね」

壁外調査を目前にして呑気に笑うハンジに少しだけ緊張感が和らいだ気がして、ナマエも肩の力を抜いて薄ら笑い返す。するとハンジは馬ごとナマエの方へ寄って目線を合わせた。

「ナマエ」
「……?」
「死ぬなよ」
「ッ……!」

ポン、とハンジの温かい手のひらがナマエの頭を撫でて、耳元でそう囁く。最後にニコリと笑ったハンジはそのまま馬を走らせて前の方へと姿を消してしまった。一方残されたナマエは頬が熱くなるのを感じて、そっと手のひらを頬へ当てる。

「(何あれずるい……)」

なんて余韻に浸る間もなく、門が開く。

「これより壁外調査を開始する!前進せよ!!」

調査兵団団長──エルヴィンの野太く大きな声が響き、調査兵らは一斉に馬で壁外へと駆け出した。ナマエは死んでたまるもんか、と独りごちった。










壁外調査もいよいよ大詰めへ。やるべきことをこなして後は壁内を目指すだけだというのに、そういう時に限って空気を読まずに現れる巨人。ズシン、ズシンと巨人が歩く度に大地が揺れる。

「総員撤退!真っ直ぐ壁内を目指せ!!」

皆、必死で馬を走らせて壁内を目指す。後ろには4〜10メートル級の巨人が三体。木々や建物がない拓けた場所は戦うには不利だということは痛いくらいに理解している。ここで巨人と戦おうものなら、命を捨てるようなものだ。ナマエも必死になって馬を走らせる。そんな時───

「きゃあッ!?」
「!?」

後ろから迫っていた巨人がたまたま蹴り上げた大きめの岩が砕け、その砕けた破片がナマエの少し前を走っていた女兵士の馬に掠ったのだ。それに驚いた馬は急停止し、前足を上げて驚いた。必然的にその馬に乗っていた女兵士はバランスを失い、落馬してしまった。

「あッ……!」

馬はそのまま逃げてしまい、女兵士だけが取り残される。後ろには巨人が迫っていた。

「あ、嘘、どうしたらっ……」
「無理だ、今戻ったら俺らも死ぬ!」
「でもっ……」
「残念だが諦めろ…!」
「そんな……」

落馬の衝撃で頭を強く打ったのか、気を失っているようだった。
逃げなければ、助けなければ、この二つの思いがナマエの頭の中を占領する。男兵士の言う通り、今戻ったとしても女兵士を守りながら戦えるはずがない。二人して死んでしまうだけ。わかっているけれどナマエは馬の綱を思い切り引いた。

「ナマエ!?」
「すみません……!」

まだ生きている仲間を見殺しにするなんてナマエには出来なかった。仲間の制止を聞かずに来た道を戻り、女兵士の元へ馬を走らせた。

「ッ、やってやる!」

迫る巨人を迎え撃とうとアンカーを巨人に向かって飛ばす。巨人の胸に刺さったのを確認するとガスを噴かして一気に馬から飛び立った。

「はぁあああ!!!」

ナマエを捕らえようとする巨人の右手を切り落とし、遠心力を使って巨人の後ろへ回り込む。一旦アンカーを離して再度巨人の背中へ打ち込み、項に斬撃を入れれば巨人は膝から崩れ落ちていく。

「まずは一匹!次!!」

残りの巨人は二体。すぐ後ろにいた巨人にアンカーを打ち込んで距離を詰める。先程同様、手を切り落としてから巨人の股をくぐり抜けて後ろへ回る算段だったのだが───

「なッ……!?」

もう一体が思ったよりも近くにいたのだ。巨人の股をくぐり抜けた先に待ち構えていた別の巨人がニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべて手を振り翳す。しかし巨人の手はナマエを捕らえることなく空を切った。ナマエはギリギリのところで身体を捻り、避けたのだ。だが、そのせいでバランスを崩し、地面に思い切り打ち付けられる。

「痛ッ……あ、待って!!」

二体目の巨人が気を失っている女兵士を視界に捉えたようで、ターゲットをナマエから女兵士に移したのだ。ナマエはそれだけはさせない、と身体を起こそうとしたが地面に強く打ち付けた身体は言うことを聞いてくれない。女兵士にも己にも迫り来る巨人。先程ナマエを捕らえ損ねた巨人が今度こそはと手を伸ばす。

「(嘘……守れなかった……このまま死ぬの…?)」

男兵士の制止を振り解き、女兵士を助ける為に戻ったのに二人とももう袋のねずみ。周りに調査兵は見当たらない。ナマエが死を覚悟した時───

ザンッ!!!とブレードが身を斬る音が響いて二体の巨人が倒れていく。ナマエを狙っていた巨人が地面に横たわるナマエの上に倒れ込む直前に誰かの手により救出された。

「あ……」
「やー、ギリギリだったねぇ」
「は……ハンジ、分隊長……」

ナマエを助けたのはハンジだった。所謂お姫様抱っこで助け出され、そのままハンジの愛馬へ二人で乗ることに。

「もう一体の巨人は……」
「それなら、私の優秀な部下が殺ったよ」
「……あ、よか……た…、」

馬に揺られながらハンジが指さす方向を見れば、彼女の部下であるモブリットやニファがいて、先程の女兵士も無事に救出されていた。その事実にすごく安堵してナマエは気を失ってしまった。

「……よく頑張ったね」

気を失ったナマエの頬を撫で、優しく微笑むハンジ。ナマエの身体を強く抱き締め、壁内へと向かった。


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