星の瞬きよりも深い物



暗い部屋をサイドテーブルに置かれた小さな灯りがぼんやりと照らす。リヴァイとナマエはベッドの上にいた。お互いに汗ばんだ身体、熱い吐息を吐き、彼女のナカに入っていたリヴァイのモノがずるりと引き抜かれると擦れた快感と喪失感が一気にナマエを襲った。

「ぁ、」
「はッ…」

今朝の予告通り、仕事を終えて食事も風呂も済ませた後にナマエはリヴァイにきっちり抱かれたのだ。ベッドに腰掛けて己の白い液体が入ったゴムの入口を固く結びサイドテーブルにあるティッシュを手繰り寄せて後処理をするリヴァイの背中は、行為の後だと言うのにどこか寂しげというか切なく感じた。ナマエは全身の倦怠感からベッドに横になったまま動けない。全ては今隣にいるリヴァイのせいだと少し恨めしく思った。何故なら彼とする行為はもちろん気持ちいいものだが、それに合わせて激しく、悪く言えばねちっこい求め方をする。嫌いではないしむしろ快感に浮かされるので好きではあるが体力に差がある為かいつもどろどろになるまでされてしまい、行為後の倦怠感がすごいのだ。

「ねぇ、リヴァイ」
「どうした」

後処理を終わらせたタイミングを見計らい声を掛ければ、酷く優しげな声色で返事が来る。やっぱり好きだなと改めて感じながら、座るリヴァイの腕を引っ張って自分の隣に寝転べと訴えた。1枚の布団を2人で被り、リヴァイもごろんと横になる。

「いつもすぐ寝ちまうのに、今日はまだ起きてんだな」
「そっ…れは、リヴァイのせいでしょ!今日は起きてたかったの」
「元気そうなら、もう1発ヤッとくか?」
「しません」
「チッ…」

リヴァイのペースに飲まれつつもナマエは彼の逞しい胸板に額を預け、寄り添う形になる。

「わたしたちさ、出会って3年経つよね」
「そうだな……もう3年も経つんだな」
「あのね、わたしリヴァイのこと大好きなんだけど、まだまだリヴァイの知らないことがあるような気がしてて。もっと知りたいなって…」

強請るようにぐりぐり額を胸板に押し付ければ、ふわりと大きな手のひらがナマエの後頭部を撫でる。リヴァイの表情こそ見えないがきっとその撫でる手付きと同じように優しい顔をしているに違いないと思った。

「そう思うなら、少しずつ新しいこと知っていけばいいんじゃねぇか?焦らずとも俺たちには時間がある」

そうだろ?と優しい問い掛けにナマエは緩む口元にきゅっと力を入れて頷いた。今朝何だかリヴァイが遠く感じたのは杞憂だったと安堵の溜め息をつく。

「…じゃあ、今日は1個だけ聞いていい?」
「何だ」
「わたしが改名した時、どうして”ナマエ”って名前をくれたの?」

少しだけリヴァイから離れ、顔と顔とが見える位置で問うた。この名前をもらった時は忌々しい過去の名前を捨てることが出来た喜びと開放感で特に気にしていなかった。それにこの名前を聞いた時、今まで出会った人や芸能人にこの名前の人はおらず、初めて聞いたはずなのに何故か自分の中にストンと落ちたのだ。リヴァイが何を思って今の名前を付けてくれたのか最近になって気になって仕方がなかった。

「………勘」
「なにそれ、もっと他の理由ないの?」
「お前の顔見て、真っ先に思い付いたのがソレだっただけだ」
「ふーん?何かもっとこう……ちゃんと由来があるのかなって思ってた」
「…そんなもんねぇよ。ナマエだと思ったからナマエ、でいいだろ」
「うん。いいよ。だってわたし、今の名前気に入ってるもん」

一度は聞いてみたかった名前の由来と理由。リヴァイらしい答えにナマエはそんなものどうでも良くなった。だってこの名前を気に入っているのは本心で、大好きなリヴァイが付けてくれたことに意味があるのだから、と。

「安心したら、すごく眠たくなってきちゃった…」
「さっさと寝ろ。明日は休みだろ」
「…う、ん」
「おやすみ」
「………」

仕事の疲労も相まってナマエはリヴァイの挨拶に返事をすることなく、そのまま眠りに就いてしまった。

「………」

眠るナマエの顔を覗き込むとすやすやと安らかな表情をしていた。長い睫毛に薄い唇、まだ赤らんだままの頬。先程抱かれていた時は女の顔をしていたクセに今はあどけない子どものようだと思う。リヴァイはそっと髪を撫でてやると汗ばんでベタベタした身体をさっぱりさせる為にベッドを抜け出し、浴室へ向かった。きゅ、とシャワーコックを捻れば出てきた冷たい水が徐々にお湯へ変わり、汗で冷えた身体を温めた。

「……ナマエ」

シャワーを浴びながら小さく呟いた愛しい名前は浴室に響いた。

「どうか、前の記憶は思い出すな」

寝室で眠るナマエに向けて放った言葉。けれど届くはずもなく、リヴァイはシャワーを止めて浴室を出た。バスタオルで髪や身体を拭き、下着にラフなシャツとスウェットパンツを履く。ドライヤーで完璧に髪を乾かしたがすぐに寝室に行く気持ちになれずにリビングのソファーに腰を下ろした。

グラスに入った氷と麦茶。それを飲みながらナマエはいつまでも今のままでいてほしいと自分勝手な願いを掲げた。以前の辛い記憶に縛られず、思い出すこともなく、ただ笑顔でいてほしい。リヴァイの願いはそれだけだった。
しばらくして寝室に戻ると仰向けで寝ていたはずのナマエは横を向いてリヴァイに背を向け、猫のような丸まった態勢になっていた。ナマエの癖だった。リヴァイは彼女を起こさないように布団に入ると丸まったナマエを背後から包み込むようにして抱き締め、自分も眠りに就く。時計は午前2時を指していた。






次の日。ナマエが目を覚ますと既に隣にはリヴァイの姿はなく、昨日セックスを始める前に着用していた下着や服とは別の新しいものが着せられていて、リヴァイがしてくれたんだと寝起きのボケた頭で考える。

「……今日で1週間くらいだなぁ」

ぐい、と伸びをしながら呟いた。昨日の朝も見た夢を今日も見たのだ。寝惚けた頭でもわかるくらい同じ夢をもう1週間以上見続けている。けれど内容を思い出そうとしても誰に何処で等細かいことは全くでやっぱり殺されるという大まかなことしか思い出せず、この夢が一体何を意味するのかわからなかった。流石に、と思ったナマエは少しずつ覚醒してきた頭で夢の意味を調べようとスマホを手に取った。ポチポチと『殺される 夢 意味』と打ち込み検索を掛ける。すると出て来た検索結果は────

“他者から恩恵を受けられる意味をもつ”

そう書かれていた。更に細かく見ていけば恋人に殺される夢の意味や、ナイフで刺されて殺される夢の意味など殺される夢だけでもいくつもの意味が載っていて、適当に読み進めた。殺される夢は見た当人には後味の悪い気持ち悪い夢かも知れないが、夢占いで言えば吉夢とのこと。

「わたしが今この夢を見てるのは、リヴァイに愛されてるからなのかなぁ」

リヴァイと出会って、恋人になって、新しい名前を授けてもらって、同棲をして、とリヴァイにはもらってばかりだと思う。いつか愛想を尽かされぬよう自分も精一杯リヴァイに何かの形で返せたらいいな、と夢占いの検索結果のウィンドウを閉じながら思った。
スマホを閉じてベッドから降りる。リビングへ通じる扉を開けると今からキッチンに立とうとするリヴァイの姿が見えた。

「おはよう、リヴァイ」
「ああ」
「今から朝ごはん?」
「そうだ。もう少し寝ててもいいぞ」
「ううん、今日はわたしが作る!」

そう言えばリヴァイは無表情で着替えてからなと言った。ナマエは適当な服に着替えて身支度を整えるとエプロンを付けてキッチンに立つ。

「リヴァイは何もしなくていいよ」
「急にどうした?」
「わたしもやりたいなって思っただけ」
「そうか」

リヴァイをぐいぐい押してキッチンから追い出すと冷蔵庫から卵とベーコン、ウィンナーを取り出す。昨晩に炊いた白米の残りを小分けにして冷凍保存してあるから、それを2つ解凍してといろいろ考えながら作業を進めて行く。いつも朝食は朝に強いリヴァイが作っていたがたまには朝食を作ってあげたいとそう思った。

「目玉焼き、半熟に出来なかった…」

完成した朝食をトレーに乗せて持ってきたナマエが申し訳なさそうに言う。リヴァイもナマエも目玉焼きは半熟派なのだ。

「たまには固いのも悪くねぇだろ」

しょぼくれるナマエにリヴァイは相変わらずの無表情で言うが、それは彼なりの優しさだと知っているからナマエは笑顔を取り戻す。

「ありがとう、リヴァイ」
「何もしてねぇよ」
「それでも、だよ」
「早く食うぞ。せっかくの飯が冷めちまう」
「うん。リヴァイは目玉焼きに何かける?」
「塩」
「オッケー。わたしは醤油にしよ」

2人で朝食を囲む幸せな時間。今日は土曜日でお互いに仕事も休み。今だけは辛かった過去を忘れることが出来るとナマエは固い目玉焼きを頬張った。



prev next

back


×
「#オメガバース」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -