最後の時までご一緒に



酒場を飛び出してどれくらい走っただろう。市街地から少し離れた人気のない場所でリヴァイはようやく横抱きにしていたナマエを降ろした。開けた広場のような場所からは満点に輝く星空が見える。

「…すみません。重たかったでしょう?」
「重たいどころかその逆だ。ちゃんと食ってんのか?」
「………ここ最近リヴァイさんが会いに来てくれなかったせいですよ」
「それは………悪かった」
「ふふ、冗談です。ちゃんと食べてますよ」

冗談を交えたやり取りにお互いの表情が柔らかくなる。こうして会話することが久しぶり過ぎて嬉しいような、少し小っ恥ずかしいようなそんな気になったがリヴァイは珍しく素直な感想を口にした。

「…その衣装、一番ナマエに似合ってる」
「ありがとうございます。実は今日の舞いはリヴァイさんの為に作ったものなんですよ」

その言葉を聞いてリヴァイの切れ長の瞳が僅かに大きくなった。ナマエはするっと衣装から出ている腕を撫でながら恥ずかしそうに俯いた。その仕草にステージ衣装のままだったことを思い出す。ベアトップの衣装は首元も腕も外気に晒されているので容易に冷えてしまう。リヴァイが己のジャケットを掛けてやるとナマエはお礼の言葉を口にした。

「…温かい」
「それだけじゃ冷えちまうだろ。近くの宿屋を手配しよう」
「はい…」

このままだと露出度の高い衣装を身に纏うナマエの身体は夜風に晒されて冷え切ってしまう。そうなる前にリヴァイは再度市街地へ戻りどこかの宿屋を手配しようと考えた。本当は宿屋なんて下心丸出しだと思われてしまうかもという思いもあったが、この時間帯的にカフェ等は閉まっているだろうし彼女のこの格好では目立ってしまう。開いているのは酒場か宿屋───この二択なら後者だろう。リヴァイはナマエの手を引いて近くの宿屋に向かった。宿屋までの道のりは何故かお互いに無言だったがそれさえも心地好いと感じた。

「空いててラッキーでしたね」
「ああ」

部屋を取った宿屋は少し古びているがそれが逆にレトロ感を醸し出し、手入れが行き届いている為かそこまで古さを感じさせず潔癖症のリヴァイも納得出来る宿だった。鍵を渡されてそこに書かれてある番号と同じ部屋番号を探して部屋に入る。シングルベッドが2つ並んだ少し狭めの部屋だった。

「ナマエ、先に湯浴みして来い」
「えっ!?」
「冷えた身体を温める為だ」
「あ、はい…」
「…やらしい意味だと思ったか?」
「なッ…!そんなことないです…!」
「ふ、冗談だ」
「リヴァイさんの意地悪…」
「さっきの仕返しってやつだな」

ナマエはぷく、と頬を膨らませて怒ったフリをしていたがそれすらも愛おしく感じた。ナマエは備え付けのタオルとバスローブを持って浴室へと向かう。残されたリヴァイは古い木製の椅子に腰掛けて彼女が出るのを待った。

ナマエが風呂を済ませると入れ替わりでリヴァイも湯浴みをした。浴室を出るとベッドに腰掛けながら長い髪の毛をタオルドライするナマエの姿。同じバスローブを身に纏い、同じ石鹸の香りがする、それだけで何とも言えない気持ちになった。

「…ナマエ」
「リヴァイさん……」
「どうした?」
「いや、あの、何でもない、です…」

ナマエに話し掛けるが彼女の反応がぎこちなく感じた。それが何だか寂しくてリヴァイは隣に腰掛ける。重みが増してベッドのスプリングが悲鳴を上げた。

「り、リヴァイさん…?」
「ナマエ。お前は俺をいい奴だと言ったな」
「…はい」

リヴァイは俯いたまま話を続けた。

「俺は……地下に生まれ、罪を重ねた汚ぇ野郎だ。調査兵団に属していることもお前にちゃんと伝えていなかった。そんな俺が綺麗なナマエとなんて釣り合わねぇ、触れてはいけない…そう思ったんだがな。一度欲しいと思っちまったら、欲しくて仕方ねぇんだ。お前のことが好きで堪らねぇんだよ」
「………」

ぽつり、ぽつりと話すリヴァイが何だか小さく弱く見えてナマエは手にしていたフェイスタオルを投げ捨てて思わず抱き締めた。ぎゅっと、強く、力を込めて。

「ナマエ…」
「汚くなんかない!リヴァイさんがわたしを想ってくれる気持ちは汚れてなんかない!その罪も生きる為にやったんでしょう?エルヴィン団長様から聞きました」
「エルヴィン…だと?」
「お昼頃、わたしを訪ねて来られて。その時にリヴァイさんが調査兵団にいることも過去のことも聞きました。それでもわたしはリヴァイさんを信じてます、いいところをたくさん知ってますからと伝えました。そしたら団長様はわたしがリヴァイさんの支えになってほしいと言って下さったんです」
「……チッ、エルヴィンの野郎」

自分の知らないところでまさか長い付き合いのエルヴィンが絡んでいるとは思わず、舌を打ったが何にせよ彼に僅かながら助けられたとリヴァイは思った。本当は彼より先に己の口で真実を伝えたかったが。

「………わたし、リヴァイさんが大好きなんです。リヴァイさんもわたしが好きだと言ってくれましたよね?」

ナマエの問いにようやく2人の視線が絡み合う。

「その言葉に偽りがないなら、今から、その、わたしを……抱いて、ほしい…です…」
「…!」

先程まで言葉を強く発していたのにだんだん尻すぼみになっていく。絡んだ視線もふいっと外されてしまったが顔を赤くしていて可愛らしい。想いを伝えに来ただけで今夜は抱かないでおこうと決めていたリヴァイの決心も簡単に揺らいでしまい、気付いたらナマエを押し倒していた。

「あ、リヴァイさん…」
「俺がナマエをどれだけ好いているか、嫌って程身体に刻んでやる」
「ゃ…!?」

バスローブをはだけさせるとすぐにナマエの白い身体が露になる。自分から誘っておいてぷるぷる小刻みに震える姿はまるでオオカミに狙われた小動物のよう。

「もう躊躇わねぇ。ナマエ、愛してる」
「ンッ…!」

触れるだけのキスはすぐにお互いの舌を絡め合う深いものに変わり、貪欲に求め続ける。時折漏れる声がエッセンスになり、更に激しく求め合う。キスをする傍らでリヴァイの指先はナマエの乳首をくりくり抓ったり押し込んだりして弄んでやる。そうすれば一層甘い声がナマエから零れた。やっと離れた唇はどちらのものかわからない唾液塗れになり、てらてらといやらしく光っていた。

「はッ、ぁ、りばい、さぁ…んッ」
「クソ…加減出来そうにねぇ…」
「ああッ…や、だ…ッッ、ひぅ…!」
「初めてだってのに、悪い」
「大丈夫です…好き、に、して…」
「は……煽ったのはナマエだからな」

やっと好きな女を手に入れた喜び、やっと好きな男に抱かれる悦び。もう躊躇うことはないと2人は時間も忘れてただただ求め合った。



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────────




次の日。身体の痛みで目を覚ましたナマエ。隣を見るとシングルベッドの右側だけが不自然に空いていてリヴァイの姿はそこになく一気に不安になった。

「り、リヴァイさん…どこ…?」

もしかして昨日のことは夢だったのではないか、そう思ったがあちこち痛む身体が昨日のことは夢ではないと如実に語っている。では何故彼の姿がないのか。もしかして身体の相性が良くなかったと呆れられたのかと不安ばかりがぐるぐると回る。痛む身体に鞭を打ちベッドから起き上がったところでハタリと気付いたことが一つ。裸で眠ったはずなのにきちんとバスローブが着せられていたのだ。それは他でもないきっとリヴァイがしてくれたことで、思わず胸がきゅんと疼く。

「………」

すると扉が開き、兵団服ではなくラフな服装をしたリヴァイが紙袋を抱えて入ってきた。

「リヴァイさん…!」
「ナマエ」
「ひ、一人にしないでくださいよ〜」
「…泣くなよ」
「泣いてません〜」

紙袋をローテーブルに置くとリヴァイは優しくナマエの頭を撫でてやった。それが心地好くて心がほっこり温まっていくのがわかった。

「起きたらリヴァイさんいないから、昨日は夢だったのかなとか…やっぱりわたしのこと好きじゃなかったのかなとか……考えちゃったじゃないですか」
「夢にされてたまるかよ、やっと好きな手に入れたってのに。昨日は手加減してやれなかったからな……起こさずにそっとしてたんだが、寂しくさせたなら悪い」
「…ううん。大丈夫です。ちょっと身体は痛むけど……リヴァイさんの優しさだって気付いたから。ありがとうございます」

にこり、と泣きそうな表情から一変、微笑むナマエにリヴァイは気持ちを抑えられずキスを落とした。本当は激しく求めたかったが昨日の今日で無理をさせてしまったので彼なりに配慮し、啄むようなキスを3回。

「……そう言えば何を買ってきたんですか?」
「ああ、ナマエの服だ。衣装のまま連れ出しちまったから帰る時に困るだろうと思ってな」

リヴァイは紙袋の中から購入したふわりとしたワンピースを取り出した。爽やかなミントカラーで袖はアイボリーのレース生地になっている可愛らしいそれ。着て帰るだけではもったいなさすぎるワンピースに目を輝かせた。きっとリヴァイの服もそこで調達したのだろう。

「とってもかわいい…!素敵です!よく朝早くから洋服屋さん開いてましたね?」
「……今は昼だろ」
「え?」

リヴァイに言われ壁掛け時計を見やると針は既に12時半過ぎを指していて、自分がどれだけ寝過ごしたのかがわかった。一瞬何が起こったのか理解出来なかったナマエだがだんだんそれを実感し、思わず頭を抱えた。

「嘘……お昼!?わたしめちゃくちゃ寝ちゃった…!?」

昨夜は激しかったとは言え、こんなにも寝過ごしたのは初めてで項垂れる。仕事は元々酒場自体が定休日なので大丈夫だがせっかくリヴァイといられる時間を睡眠に使ってしまったことが悔やまれる。

「昨日は俺のせいで無理させたから仕方ねぇだろ。もう少しだけここで休め。その後は送ってやる」

ぐい、と押し付けられるように渡されたワンピース。嬉しくて堪らずそれを抱き締めた。

「…こんなに素敵なもの、もらちゃっていいんでしょうか?」
「ナマエに似合うと思って選んだんだ。もらってくれねぇと困る」
「わたしばっかりもらってばっかりで……でも、わたし、本当に幸せ者です」
「それを言うなら俺だってそうだ。ありがとうな、ナマエ」

そうして、また啄むようなキス。自然にキスを交わせることが知人から恋人になったという証。

「…次、リヴァイさんがお店に来てくれたら、これを着てリヴァイさんの為に踊りますね」
「おいおい、仕事だろ。一人の客を贔屓して大丈夫なのかよ」

なんて言いつつ、自分がプレゼントした洋服で、自分の為だけに踊ってくれることが嬉しくて、それを隠すようにまたキスをした。

「…いつかは仕事を辞めて俺の元へ来い。その時に俺の為だけに踊って見せろ」
「ふふ、リヴァイさん、それプロポーズに聞こえちゃいます」
「いい。ナマエのことは俺が予約してあるからな。大丈夫だ、その時が来たらもう一回ちゃんと伝えてやる」
「じゃあ、その時はまたわたしと一緒に踊ってくださいますか?」
「ああ」
「嬉しい…!」

お互いの指を絡めて誓った未来。それが現実になるのはそう遠くないお話。





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あとがき

こんにちは、葵桜です。
現パロ、転生パロ以外では初めて描いたリヴァイ兵長と調査兵ではないヒロインのお話でした。調査兵ヒロインも好きなのですが一般設定も良いな…と思ったのであまり設定が被らなさそうな踊り子ちゃん設定で書いてみましたが、個人的には気に入っているお話です^^*
9ヶ月程かかりましたが無事に完結することが出来てよかったです。ここまで読んで下さった方、ありがとうございました!

2020 0420


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