流星群は金平糖になる



食事を終えた後、すぐに部屋へ通された。セミダブルのベッドと必要最低限の家具だけが置かれたシンプルな部屋だったが清潔感があり、潔癖症であるリヴァイは悪くないと心の中で呟いた。2人してベッドに腰掛ければ、ギシリと軋むスプリング。

「……怖いか」
「え…」

待ち合わせていた時とは打って変わり、緊張からガチガチに固まるナマエに言葉を投げ掛ければ眉尻を下げて不安そうにリヴァイの顔を見た。

「こ、わくは……ない、です…」
「そうか」
「……でも、わたし、どうしたらいいか…」

言葉を途切れ途切れ必死に繕うナマエ。余程緊張しているのだろう、その様子がリヴァイにも伝わって来て思わずゴクリと息を飲む。どうしたらいいかわからないと言いながらも、緊張や不安でどうにかなりそうでも、拒否しないで逃げ出さないでいてくれるナマエがしょうがなく愛おしかった。

「どうもしなくていい。俺に全て委ねろ」
「ぁ…」
「ナマエ。好きだ、俺のものになれ」
「り、ばい…さん…」

そうして2人の唇が重なる。
出会って3ヶ月───最初は見てるだけで良かったはずなのに気が付けばもっと近付きたくて触れたくて、堪らなかった。神様が与えてくれたであろう偶然を逃してたまるかと必死に距離を詰めた。少女一人に振り回されるなんて思ってもみなかったが今日は前々から告白することを決めていたリヴァイ。断れないようなムードを作り、気持ちを伝えればナマエの瞳からはぼろぼろと涙が零れ落ちる。それはきっとイエスだ。

「きゃ…!?」

涙を拭われたかと思えば柔らかいベッドに押し倒される形になり、ナマエは思わず身構えた。しかし上に跨る形でリヴァイがいる為、どうしようも出来ない。

「ナマエ…」
「リヴァイさんッ、あの、シャワー…!」
「悪いがもう待てねぇ」
「んぁ…ッ!」

早々に上服を取っ払われ、下着も外される。露わになった誰色にも染まったことのない白い肌にリヴァイは生唾を飲んだ。ナマエはというと行為自体の僅かな知識はあるもののまだ未経験であり、これから自分がどうされるのか不安で堪らず少しだけ震えていた。けれど好きな人と一つになれるのならと覚悟を決める。

「綺麗だ……」
「ッ…」

外気に触れたことでピンと存在を示すかのように立っている頂きのそれに触れようと手を伸ばしたところで、リヴァイの動きは止まった。

「………」
「…?」

純粋で、素直で、誰にも触れられたことのない真っ白い身体。リヴァイの理性を崩壊させることは容易だった───が、綺麗すぎるそれは逆にリヴァイの罪悪感を煽った。

生まれついたその日から地下街で過ごし、生き抜く為に盗みも人殺しもした。犯罪に犯罪を重ねて生きて来てエルヴィンとの取引がなければ地下街で更に罪を重ねていたか、投獄されて処刑にでもなっていただろう真っ黒な自分と、眩し過ぎるくらい白いナマエ。歩んだ人生が違いすぎるとその肌に触れるのがどうしても怖くなった。キスしておいて今更触れるのが怖いだなんて、汚すのが怖いだなんて、矛盾していると思いながらも一度そう思うともう手は伸ばせない。

「リヴァイさん…?」
「!」
「…どうされました?」

上体を起こし、シーツで身体を隠しながら心配するナマエ。リヴァイは手を引っ込めるとベッドの縁に座り直す。

「……悪い、がっつきすぎた」
「いえ…」

リヴァイはナマエに背を向ける態勢となり、左手で額を覆うようにして俯いた。
ずっと触れたいと焦がれていたナマエを前に勃たなかった訳じゃない。むしろ今でも触れたくて己の手でめちゃくちゃにしたくて堪らないのに、罪を重ねた汚い手で綺麗な彼女を触ることは出来なかった。欲と罪悪感がリヴァイを襲い、苦しませた。

「…なぁ、ナマエ」
「はい…」
「お前から見て、俺はいい奴か?」

質問を投げ掛ければナマエは押し黙る。想いは同じとは言え強引に事に及ぼうとした男なんて、未経験の女からすれば怖いもの。そんなこと聞かなくてもわかっているのに、ナマエはリヴァイの過去を知りもしないのに、何を言っているのかと自分で自分がわからなくなった。少ししてからようやくナマエが口を開く。

「……リヴァイさんはいい人、です」
「……どうしてそう思う」
「ッ、最初は、わたしを助けてくれました。それから……お花をプレゼントをくれたり、こうやって食事に誘ってくれたり、いつでもわたしのことを考えてくれてます。今だってわたしが震えていたから、止めてくれたんですよね…?」

ナマエは素直だ。嘘なんて吐いたことなんてないからその言葉が本物だということはわかるが、最後の一文は盛大に勘違いをしている。リヴァイは決して彼女が震えていたから手を止めたのではない。

「……俺はお前が思ってる程、いい奴じゃねぇよ」
「リヴァイさん…?」
「悪い。忘れてくれ」

そう言ってリヴァイは剥ぎ取ったナマエの衣服を手渡すと湯浴みをしに浴室へと消えて行った。残されたナマエはただ悲しそうに俯くだけだった。




次の日。気まずい空気のまま一夜を明かした2人は軽く身支度を整えて宿屋を後にする。清々しい朝日が今は鬱陶しく思える程、リヴァイの心は沈んでいた。

「こっから一人で帰れるか」
「はい」
「……じゃあな」
「ッ…!」

ナマエを途中まで見送り、さっさと本部へ戻ろうと踵を返して歩き出すリヴァイ。それをか細い手が彼の服の裾を掴んで制した。

「ナマエ…?」
「……昨日、好きだって言ってくれたのは、あなたの本心ですか?それとも……一時の気の迷い、ですか…?」

リヴァイの服の裾を掴み、俯いたままそう言葉を紡ぐナマエ。本当は今すぐ抱き締めてやりたいがそうする資格なんて今の自分にはないと、リヴァイは振り返りもしないままだ。

「…ナマエのことは好きだけどな、汚い俺がお前を汚したくねぇんだ」
「リヴァイさんは汚くなんてないです…!わたし、嬉しかったのに!」
「……悪い。また店に行く」

ナマエの手をそっと離してやり、最後に一言そう告げると寂しげに去って行く背中。ナマエは瞳に涙を溜めて、小さくなっていく背中を見届けた。

「わたしだって……好きなのに…ッ!リヴァイさんになら、何されてもいいのに…!」

叫ぶように紡いだ言葉はリヴァイに届くはずもなかった。


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