甘いマスクに甘い声に甘い匂い、そして誰もをとろけさせてしまうような笑顔。人間の7割は水分で出来ていると言うけれど彼だけは砂糖たっぷりの甘いお菓子で出来ているのではないかと疑う程、甘いオーラを放つ人物にナマエはうっとりと見入ってしまい無意識に隣で本を読む彼に近づいた。そして―――
がぶ。
「痛……何をしているんだい、ナマエ?」
腕に小さな痛みを感じて読んでいた本を机に置き、腕を噛んできた張本人の名を呼べば彼女は名残惜しそうに噛むのをやめて、てへっとでも言いたげな表情でフレンを見た。ナマエの腕には意外にくっきりと歯型が残っていた。
「フレンってさ、顔も声も何もかも甘いからひょっとして体全体がお菓子で構成されてるんじゃないかな〜なんて考えてたら、かじりたくなっちゃった」
語尾にハートマークがつきそうな言い方で特に反省等している様子は見られない。あまり痛くもなく歯型もすぐに消えるだろうし別段謝ってほしいだとかそういうことではないが、全部が甘いとかお菓子で構成されてるとか初めて言われたフレンはただ戸惑っていた。しかし次第に何か悪戯を思いついたような子どものように小さく笑う。
「じゃあ、ナマエも充分にお菓子で出来ている可能性があるよね?」
「え?え?ちょ…!」
小さな抵抗虚しくフレンはにこやかな甘い笑顔のままナマエの腕を掴んで離さず、唇を寄せ―――
がぶ。
「痛い…」
先程のナマエ同様に今度はフレンが彼女の腕を噛んだのだ。もちろん手加減はしていて歯型が残らない程度の強さにしたがナマエは痛いと訴えた。フレンは満足そうに笑って口を離すと彼女の頭をぽふぽふと撫でる。
「ごめんね。君の腕も充分に甘そうだったから」
「…フレンの方が絶対甘いもん」
「僕はナマエの方が甘いと思うな?」
端から見ればただのバカップルのような会話も今の二人には甘いエッセンスになり、ふわりとムードが漂う。
「ねぇ、ナマエ?」
「フレン?」
手首を掴まれてナマエの背中には柔らかなソファが当たり、上には天井と甘い毒のような笑みを浮かべたフレン。
「久しぶりの休暇だし、いいよね?」
「…優しくしてくれるなら」
「お安い御用だよ」
mae tugi 17 / 30