雪の街フラノール。しんしんと雪が降り積もる中、たまたま立ち寄ったこの街で一泊することになり夕飯までの時間はロイドやジーニアスの意見で自由行動になっていた。
「あ、ゼロス」
「ナマエちゃーん♪」
特にすることもないが街を散策していたナマエとゼロスは偶然にも宿屋に帰る時間が重なり、入り口手前で足を止める。露出した頬は真っ赤、吐息は真っ白で外の寒さを物語る。
「偶然だね。ゼロスも今帰り?」
「そーそー。俺さま寒いの苦手だしぃ」
「ふふ、鼻真っ赤だよ」
「じゃあ俺さまを温めてー!」
寒いのが苦手というのも本当なんだろうが、それ以上に下心丸出しで抱きつこうとして来るゼロスをナマエはひらりと華麗にかわす。
「残念でしたー」
「つれないねぇ。…ん?」
「え?」
「それ何かな〜って思って」
「あ、これね」
ゼロスが指差したのはナマエが持っていた小さな雪だるま。顔も木の枝でちゃんと描かれてありかわいらしい。
「雪、久しぶりだから作ったの。せっかくだしコレットやしいなに見せたくて」
「……ふーん、なかなか上手いんでないの。ナマエちゃんらしいし」
にこにこと嬉しそうに笑うナマエに対し、ゼロスはまゆ毛を下げて切なく笑う。それに気がついたナマエがどうしたの、と笑うのをやめて問う。
「…いや、な〜にも?それより早く暖まろうぜ」
先ほどの切ない表情は忘れてくれと言わんばかりにゼロスは宿屋の中に入ろうとナマエを促す。くるりと彼女に背を向けた瞬間、べしゃっという何かが潰れる音が響いた。
「…って、何やってんのよ!」
その音が気になって振り返れば、ナマエが雪だるまを地面に落としていたのだ。落ちた雪だるまは原型をギリギリ止めているが木の枝でせっかく描いていた顔はぐしゃぐしゃになっている。
「コレットちゃんやしいなに見せるって言ってたのに、どーしたのよ?」
「……ゼロスが、泣きそうな顔するから…だから壊したの」
「え…?」
二人の間を雪が吹き抜けて行く。ナマエの言葉にゼロスはぽかんと口を開けたまま返す言葉が見つからない。
「ゼロス、雪嫌いでしょ?」
「……何でそう思うわけ?」
「この街に着いたときも、雪だるま見たときも…泣きそうな顔してたから」
そう言えばゼロスは溜め息をつく。確かにゼロスは雪が嫌いだ。昔、母にあの残酷な言葉を言われた日もこうして雪が降っていたから。消したくても決して消えてはくれない残酷な過去は未だに彼を縛り続けている。
「…わたしね、ゼロスのことが好きだから。ゼロスのことは他の人よりはわかってるつもり」
真っ直ぐゼロスを見据えて告白したナマエは一歩踏み出して冷えきってしまっているゼロスの体を抱き締める。その踏み出したナマエの足が潰れた雪だるまをさらに潰すが、今の彼女はそんなもの関係なかった。
「ゼロスの辛い気持ちに比べたら、雪だるまを壊すなんてちっぽけなこと…躊躇わないよ」
「……ナマエ、ありがとな」
「ううん…気づくの遅くてごめんね」
ナマエの言葉はゼロスの心を温かく満たしていく。あの過去は消えなくともゼロスの重かった心は少しずつだが確実に軽くなっていくのを感じた。
「……ずっと、そばにいるからね」
そう言ってナマエは精一杯背伸びをして、ゼロスの唇を自分のそれで一瞬だけ塞いだ。
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