テイルズ | ナノ


今日も青空が広がる帝都ザーフィアス。それを大きな窓の中から見つめる裾が地面に擦りそうなくらい長い白を基調としたドレスを纏ったピンク色の髪の毛がかわいらしい少女がいた。

「…今日もいい天気、」

ぽつりとつぶやいて肩より少し下まである髪の毛を耳にかける。そのとき扉が3回ノックする音が聞こえ、入って来たのはザーフィアス城で働くメイドだった。

「失礼いたします。ナマエ様、今日もよいお天気ですね」
「そうですね…お城の中にいるのがもったいないくらい」
「……お洗濯したお洋服でございます。それでは失礼いたしました」

メイドはナマエの言葉をはぐらかし、服を片づけるとそそくさと部屋を出て行くメイドに彼女は小さく溜め息をついた。

「私もエステリーゼも、外に一生出られないままなの…?」

悲しげにつぶやいた言葉は部屋の隅に溶けて消えた。
ナマエは19歳、そして1つ下にエステリーゼという素直で少し天然なかわいい妹がいる。しかし彼女もエステリーゼも生まれてから外に出たことはなく、外に出られない理由も曖昧なまま部屋の中から外を眺めるだけのつまらない日々。

「これが定められた私たちの運命?」

また悲しげにぽつりとつぶやいたあとに扉がノックされる音がした。どうせメイドだろうとナマエは外から目線を反らさないでいようとしたが、声を聞いた瞬間にパッと顔を外からその人物へ向ける。

「失礼いたします。ナマエ様、外を眺めていらっしゃったんですね」
「…フレンさん」

入って来たのはメイドではなく騎士団に属し下町出身でありながら小隊長を勤めるフレンだった。彼は時間があるときは必ずここへ顔を出しに来てくれるのでナマエにとってエステリーゼの次に心を開ける人物でもある。

「"さん"はつけなくて結構ですよ。私はナマエ様やエステリーゼ様たちをお守りする騎士の身ですので」

少し後ろに立ってそう言うフレンにナマエは軽い愛想笑いしか出来なかった。

「お庭の方にエステリーゼ様が出ていらっしゃいます。ナマエ様も出られてはいかがですか?」
「いえ、今はここで外を眺めていたいんです…」
「そう…ですか」

フレンがそう言ったあとに少しの沈黙が訪れる。数秒後、それを破ったのは意外にもナマエの方だった。

「……あの、フレンさん…」
「どうなさったんですか?」
「私、外に行ってみたいです」
「それは……」
「…! あ、ご、ごめんなさい…」

曇ったフレンの表情を見てナマエは自分がほとんど無意識で放った言葉を思い返して謝罪の言葉を述べた。悲しげに俯いてしまったナマエの肩をフレンは思わず掴む。これまでわがままを言ったことがない彼女の、唯一のわがままだったから。

「ナマエ様」
「へっ?」
「あ、し、失礼いたしました」
「い…いえ…別に」

騎士であるフレンが皇女のナマエに気安く触れるなど失礼に当たること。彼は慌てて掴んだ肩を離したが碧い瞳は彼女を捉えたまま。

「今のはナマエ様の心の声、ですよね」
「え、い、今のは…」
「もう少し待っていてください」
「え?」
「私がこの国を変えるまで」
「……」
「私がこの国を変えたそのとき、ナマエ様を必ず外へお連れいたします」

真っ直ぐ、はっきりと伝えられたフレンの言葉にナマエは反応の仕方がわからなかった。だが、冷静になって考えてみるとその言葉は彼女にとって希望の光でしかなくて。

「…本当ですか?」
「はい、必ず」

その返答に、嬉しさからパッと花が咲いたように笑うナマエ。

「ナマエ様は、今のように笑っていた方がかわいらしいですよ」
「えっ……あ、そんな、ことは…」

フレンに褒められてナマエは恥ずかしさを覚えてぽんっと顔を赤らめた。それを隠すように彼から顔を反らす。

「……フレンさん、本当に、ありがとうございます」
「いえ、私の方こそありがとうございます」

突然言われたお礼にナマエはゆっくりとフレンの顔を見た。彼は穏やかな、温かい笑顔を浮かべていた。

「どうしてフレンさんがお礼を言うんです?」
「さあ。どうしてでしょうね?」
「…?」

言葉の意味がわからず首を傾げるナマエにフレンは微笑みかける。

「ナマエ様に出会えたことに感謝しているのですよ」

その言葉に再びナマエが顔を赤くしたのは言うまでもなく。しかしその言葉によって彼女の中で止まっていた"何か"が動き出そうとしていた。



mae tugi 15 / 30

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