北風が更に冷たくなった冬のある日。ナマエとフレンは食材の買い出しの為に下町の小さな市場へと訪れていた。
「ごめんね。仕事終わりで疲れてるのに買い出しに付き合わせちゃって」
「今日の分の仕事はもう終わってるし、それに僕がナマエに付き添いたいんだから」
気にしないで、と笑うフレンにナマエはありがとうとお礼を伝える。下町出身だがその真面目で誠実な性格から人望も厚く騎士団長という立派な仕事に就く彼は今や市民から絶大な支持を得ている。更には妻を常に気遣う優しい夫でもあり期待を裏切らない。ナマエは自分の左手薬指に填められたプラチナリングを一つ撫でるとメモに落とした食材を籠に入れた。
「以上で3100ガルドだよ」
「はい」
「ぴったりだね、毎度ありー!」
「おばちゃんありがとう」
会計を済ませて食材が入った袋を抱える。バケットに豚肉、トマト、玉ねぎ、キャベツ半玉など結構買った割には紙袋1枚で収まったのがすごいと思いつつ店を出るとフレンがスッと無言で片手を出した。その行動にナマエは不思議に思いながら袋を抱えていない方の手でフレンの手を握ると彼は苦笑を浮かべた。
「いや、そうじゃなくてね」
「?」
「荷物持つよって意味だったんだけど」
苦笑からいつもの柔らかい笑みに変わり、繋いだ手はそのままにフレンは食材が入った袋をナマエから奪う。その動きがあまりにも自然すぎてナマエは少しの間ぽかんとフレンを見つめた。
「ナマエ、行くよ?」
「あっ、うん!」
繋いだ手を引っ張られ、そのまま家の方角に向けて歩き出す。フレンの優しさにドキドキと心臓を鳴らしながら並んで歩く。きっとフレンを好きになったのはこういう小さなところにも優しくしてくれるからだろうとナマエは口元を緩めた。時折北風が強く吹きつけるが今は手から感じる体温のおかげか、あまり寒いとは感じなかった。
「フレン、ありがとう」
「どういたしまして」
「今日はフレンの好きなもの、作るね」
「それは楽しみだな」
通い慣れた下町の道もこうして手を繋いで歩くだけでいつもと違うような気がして、このときめきがいつまでも続くようにとナマエは小さく願った。
「僕も手伝おうか?」
「ううん、大丈夫。フレンは座ってて」
「でもナマエだけに任せるのは…」
「いいんだってば!」
「本当に?」
「フレンは味音痴だからなぁ…」
「何か言った?」
「何でもない!」
mae tugi 24 / 30