テイルズ | ナノ


※学パロ



「あーあ、今日も雨かぁ…」
「さっきまで晴れていたのに残念です…」
「昨日も一昨日も雨だったのに!」
「春の天気は変わりやすいですからね」

時は4月。新たな年度を迎えたナマエは友人のエステルと共に空から降り注ぐ大量の雨を見て項垂れた。
受験戦争に打ち勝ち、晴れて高校生となった彼女たちだが幾日も雨が降り続き、ろくに遊びにもいけない日が続けていた。

「私、そろそろ生徒会へ行きますね」
「今日生徒会なんだね」
「一緒に帰れなくてごめんなさい」
「気にしないでよ」
「明日は一緒に帰りましょうね」
「うん。ほら早く行きなよ、彼が待ってるよ?」
「なっ?!!な、何を言うんですか!?」
「違うの?2年のフレン先輩」

例の彼、生徒会長のフレンというのは金髪でまさに王子様のような甘いマスクに甘い声の持ち主で更には性格も良いと評判の校内でトップに入るイケメン先輩のことである。生徒会に入った日からエステルは彼の話をよくする為ナマエはたまにこうして真っ赤になりながら慌てる彼女がかわいくてからかってしまうのだ。

「フレンとは、お、お友達です!」
「ふふふ、そうなんだ?」
「あ!ナマエったら信じてませんね!?」
「信じてるって。早くしないと遅れるよ」
「もう…!では行って来ますね」

パタパタと駆け足で教室を出た彼女を見送り、自分も家路に着こうと荷物をまとめて教室を出た。

昇降口へ出ると室内よりも雨が地面を叩く音が更に大きく聞こえ、また気分が沈んだ。雨が降るのは仕方がないと言い聞かせて運良く鞄の中に忍ばせていた折り畳みの傘を取り出した。

「何だ、結構降ってんなぁ」
「うっわ…!びっくりした…」
「おー、悪ぃな」

突然後ろから聞こえた声に驚いて振り返ると、艶のある綺麗な黒髪をお団子状にハーフアップに結い上げてブレザーはだらしなく開けた男子生徒が立っていた。

「もう。ユーリったらびっくりさせないでよ」
「だから悪かったって」

その言葉とは反し、あまり反省していないような態度の彼───ユーリは中学校の時からの知り合いであり先輩でもあり、そしてナマエの想い人である。
 
「ま、いいけど」
「今帰り?」
「そうだよ。エステルが生徒会だから」
「ぼっち下校か」
「そういうユーリだってぼっちじゃん」
「ははは、そうだな」

違いねぇ、と笑って見せるユーリにナマエの心はきゅんと締め付けられた。彼がこのヴェスペリア学園に進学したと聞いて自分も同じ学校に進学すべく、普段勉強などしない彼女が1年間の猛勉強の末、見事にユーリと同じ学校に合格し入学を果たしたのだ。想いはまだ告げられてはいないが、ユーリといられるだけでナマエは心が踊った。

「もう帰ろうよ、雨が強くなってきてるし」
「それは山々なんだが俺、傘忘れちまってよ」
「…傘に入れろと?」
「頼むぜナマエちゃん」
「わかった、入れるからちゃん付けしないで」
「やりぃ」

ベビーピンク色のかわいらしい折り畳みの傘をバサッと開けて、ユーリに入るように促せば傘を奪うように取られてしまった。

「傘、持ってやるよ」
「あ…ありがと」
「ほら、もっとこっち寄んねぇと濡れんぞ」
「わっ、わかってるよ!」

時折見せるユーリの優しさ。そんなだから日々惹かれてしまうのだとナマエは思う。折り畳みの傘だけあって普通の傘よりも小さい分、2人の肩は密着することを意味し、彼女の心臓はいつもより大きく鼓動を打っている。ナマエは恥ずかしさもあったが、大好きなユーリと相合い傘出来ることが嬉しくて雨に少し感謝した。

「…雨、止まないねぇ」
「そーだなぁ」
「予報じゃ明日もらしいよ」
「お、そりゃいいや」
「どうして?」
「ナマエと相合い傘出来るから」
「…っ!?」

他愛ない雑談のつもりが、まさかこんな展開になるとは思っていなかったナマエは返す言葉に戸惑った。ユーリは本気で言っているのか、はたまた冗談をかましているのか。ひょうひょうとした彼の言葉の真意はなかなか探れない。

「俺、明日も傘忘れるから」
「え…」
「明日も入れてくれよ?」
「…じゃあ明日も折り畳み傘にするね」
「そうだな。それがいい」
「うん」

傘を忘れるなんてどんな宣言なんだ、とは思わなかった。ユーリとこうしていられることが今は何よりも幸せだと、ナマエは自分からユーリにぴったりとくっついて歩いた。


mae tugi 12 / 30

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