雪がしんしんと降る街───フラノール。ゼロスとナマエは宿屋のロビーにある暖炉の前で冷え切った身体を温めていた。
「あれゼロス、今日は外に行かないの?珍しいね」
「ナマエちゃんと2人きりになれたのに行くわけないでしょーよ」
「そう言えば、ゼロスと2人になるのって何気に初めてだね」
「うんうん。俺さま、ナマエちゃんのこと好きだし嬉し〜」
「わたしもゼロスのこと好きだよ。いいお友達が出来て嬉しい」
「…いや、そーじゃなくてね」
「?」
暖炉にかざした手のひらからじんわりと徐々に身体が温まっていくのを感じていた。他愛もない話だがゼロスは残念そうに項垂れる。
ロイドやコレットの子どもたちは寒さに負けず元気に外で雪遊び、リフィルやリーガルの大人組みは明日の出発に備えてのアイテムの買い出しに行っていて今は2人きりなのだ。絶好のチャンスなのに伝わらないことが残念だとゼロスは自分の髪の毛を指でくるくる弄びながら思う。
「…がきんちょ共は元気だなぁ」
「ほんと。ちょっとうらやましい」
「そうかぁ?俺さまはゴメンだね」
「…あ、雪合戦してる」
ふと、窓から外の様子を伺うと雪合戦をしているようだった。張り切っているロイドはコレットが作った雪玉をジーニアスに向かって投げる。彼も負けじとプレセアが作った雪玉を投げて応戦していた。しいなはロイド側についているらしく3vs2。
「……あっ」
「ん?どーしたの、ナマエちゃん」
何かに気づいたナマエは声を洩らし、それにゼロスが反応する。どうやら不利な状況にあるジーニアス側の雪玉にプレセアがこっそり石を入れたところを目撃してしまったのだ。そんなことを知る由もなく石入り雪玉をジーニアスが力いっぱい投げればそれは綺麗に曲線を描いて飛んで行った。
「あ、当たった……ロイド痛そう…」
「ロイドくんはタフだし大丈夫だろ」
「ロイドの反撃にジーニアスが怒った」
石入り雪玉をくらったロイドは額を赤く腫れさせながらも負けじと大量の雪玉で猛反撃。それに怒ったジーニアスが雪玉ではなくアイシクルレインを発動してもはや雪合戦とは別のものになってしまっている。コレットは上手く壁に隠れていたが魔術を諸にくらったロイドと巻き添えを食らったしいな。
「あー……しいなも怒った」
「ナマエちゃん、そんなに外ばっかり見てて楽しいわけ?」
「え、うん、楽しいよ。みんながすごく楽しそうだから」
「…今のあれが楽しそうには見えないんだけど俺さま」
ロイドたちばかりを見るナマエにゼロスがぶすっと拗ねた表情で言う。しかしナマエの視線は変わらず窓の外だ。例え仲間と言えど今彼女の瞳に男が映っているのは気に食わず痺れを切らしたゼロスは身を乗り出すようにしてナマエへ近づいた。
「こっちも見ろよ」
「え…」
手を顎に添えてぐいっと無理矢理こちらを向かせれば鼻と鼻が当たりそうなほど近く、自然と目も合って恋人のような雰囲気が漂う。それでもナマエはきょとんとして言った。
「ゼロスどうしたの?わたしの顔に何かついてた?」
「っはぁ〜……ほんっっっとーにナマエちゃんは鈍感だなぁ」
盛大に溜息をつき、ナマエの顎に添えられていた手が離れる。これだけ伝えても気持ちは全く伝わっていないのか、このヤキモキする複雑な感情がゼロスの心をぎゅっと締め付けた。
「俺さま、ナマエちゃんのことが好きなんだけど」
「それさっきも聞いたよ?わたしもゼロスのこと好きって言った」
「それは"友達"として、だろ?俺さまの好きは違うの!"恋愛"!」
もう遠回しではだめだと思ったゼロスはストレートに言う。するとようやく全ての意味を理解したナマエは顔を赤くして目はキョロキョロといろんなところに泳がせる。
「こーんなにナマエのことが好きなのに、ナマエは俺のことを友達としてしか見てくれないんだもんなぁ」
「ッ…」
急に呼び捨てにされ、不覚にもドキリとしてしまう。しかも一人称も変えてまるで主人に捨てられた子猫のような寂しそうな声で囁かれては、ナマエも意識しないわけがなかった。
「…………ロス、が……」
「え?」
「……ゼロスが…一途になってくれる、なら……わたしもゼロスに応える、から…」
小さく小さく紡がれた言葉に、ゼロスは目を丸める。
「…ッ」
「ナマエ」
真っ赤な顔を手で覆いながらナマエはこの場を立ち去ろうとするが、ゼロスが名前を呼んでそれを制した。その声はいつになく真剣そのものでナマエは振り返りはしないが立ち止まる。
「………好きだ」
「………」
ナマエはその言葉を聞いても振り返ることなく2階の部屋まで駆け込んで行ってしまった。結局答えを聞くことは叶わずに一人ロビーに残されたゼロスは髪の毛をガシガシ掻き乱しながら暖炉の前でぽつりと呟いた。
「……もうお前しか見れないっつーの」
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