テイルズ | ナノ


明日の出発に備えてグミなどのアイテムの買い出しに行った帰り道のこと。ナマエとエミルはすっかり暗くなった道を二人で歩いていた。マルタとしいな、リーガルにテネブラエは宿屋で待機している。

「エミルのあほ毛かわいい」
「あほ毛?」
「頭の上で跳ねてるそれのこと」
「…ああ、これ?そうかな?」
「うん、かわいい」

グミやボトル、食材の入った大きな紙袋を抱えたエミルにナマエが言った。エミルは片方の手であほ毛を触って首を傾げている。

「わたしにはないもんな〜」
「ナマエ、あほ毛ほしいの?」
「うん」
「僕のは生まれつきだからなぁ」
「へー」
「ナマエも作ってみるのはどうかな?」
「この前、ゼロスのワックス借りて作ろうとしたんだけどだめだった」
「そ、そうなんだ…」

しょぼんと少し落ち込みながら話すナマエを見てエミルは彼女がワックスで必死に髪の毛を固めている姿が容易に想像出来てしまい、苦笑した。

「男のくせにずるい」
「そ、そう言われても…」
「元々ってのが余計にむかつく」
「…え、う、ごめん…」
「何で謝るの?」
「あ…えと…何でだろ」

気弱なエミルは口癖のように謝ってしまい、それを指摘されてドキッと心臓が嫌な跳ね方をした。ナマエの次はエミルがしょぼくれたが束の間の沈黙はすぐに終わった。

「そのあほ毛、いつかむしってやる」
「えっ!?」
「…冗談だよ」
「……(いや、目が本気だった…)」
「どう?しょぼくれモードは直った?」
「しょぼくれモードって…」
「面白いじゃない。通常モード、ラタトスクモード、それにしょぼくれモード。3段階切り替え」
「ちょ、僕はおもちゃじゃないんだけど…!」
「あはは!」

エミルの突っ込みにナマエはケタケタと愉快そうに笑った。からかわれて少しモヤっとしていた心も彼女の笑顔を見るとどうでも良くなった気がして、エミルも小さく笑みを零した。

「………あ」
「どうしたの、ナマエ?」
「見て」
「え?」

笑っていたナマエが何やら見つけたようで声を洩らし、彼女が指差す方向を見るとそこには少し早いが綺麗に電飾を飾った家があった。冬らしく青や白の光を淡く放っていてそれは夜の景色にとても栄えていた。

「…イルミネーションって、カップルで見れたら素敵なんだろうなぁ」

ぽつりとつぶやかれた言葉に、エミルはこう返した。

「……今はまだカップルじゃないけど…僕は、ナマエとこれを見ることが出来てすごく嬉しいよ」

それは臆病で内気で、恥ずかしがり屋なエミルの精一杯の言葉。ナマエは自分より幾分か背の高い彼を見上げた。

「…今はまだって、どういう意味?」
「へっ!?…えと…ぁ…ぅ、」

ナマエに言われて自分が放った言葉を思い返すと、今更恥ずかしくなって顔を真っ赤にしてぶつぶつと小さな声を洩らすエミル。そんな彼がかわいくてルイは顎までかかっていたマフラーを少し下にずらすとつま先立ちをする。

「いつか、わたしをエミルの彼女にしてくれるの…待ってる」
「…っ!?」

意味深な言葉と共にちょんっと小鳥のようなかわいらしいキスをエミルの頬に落としたナマエは、今は暗くて表情がよく見えないがきっとほんのり頬を赤くしているはずだろう。エミルも顔を真っ赤にしてこの状況を整理しようと頭をフル回転させている。しかしそんなことをしたところで今は感情に邪魔され無駄なのだが。

「え…ナマエ…」
「ほら、みんな待ってるから帰ろ」
「あっ‥待ってよ〜!」

まだ熱が残る頬に軽く触れながらさっさと歩いて行くナマエの後をエミルは慌てて追った。


mae tugi 30 / 30

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