「僕と結婚を前提に付き合ってくれないか」
そう、真剣な瞳で告げられたのは3日前のこと。ナマエは未だにその返事を出すことはなく、ただひたすらあの時のフレンの表情と言葉が脳内を過っていた。
魔導器がこの世界から無くなって早くも半年が過ぎた日のことだった。慣れない生活に四苦八苦しながらも人々は前を向いて新しい世界を歩んでいる最中、ナマエもそのうちの一人で下町の小さなカフェで仕事に勤しんでいる時、かつて旅を共にした現在騎士団長を務めるフレンが現れて皆がいる前で冒頭の台詞を言ったのだ。しかし返事を待ってもらったまま3日が過ぎてしまっていた。
「何で、わたしなんだろう」
フレンのことは以前から好きだが自分ではなくても他にも素敵な人がたくさんいるだろうと、ナマエはフレンに告白されたことに対しての劣等感とプレッシャーで今にも押し潰されそうだった。かつて旅を共にした仲間にも素敵な人はたくさんいたのにと。それなのに何故、エステリーゼのようなかわいらしさもない、リタのように賢くもない、ジュディスのようにグラマラスな体型でもない、パティのように明るく前向きな性格でもない自分をフレンは選んだのだろうかと。
「わたしなんかが、フレンに釣り合えるのかな」
ずっと悩んでばかりでは本当に気が滅入ってしまう。少し気分転換しようと窓を開けて顔を出した瞬間、神様とは何と意地悪なものか、外には巡回中かはたまた休憩中かのフレンがいた。ナマエの部屋は1階、フレンと目の高さはほとんど同じだ。
「ナマエ…」
「…っ!」
「待って!!」
「フレン…!?」
恥ずかしさと気まずさから窓を閉めようとするがそれはフレンによって遮られてしまう。普段あまり強引ではない彼だからナマエはそれ以上抵抗はしなかった。
「返事、考えてくれた?」
「………わたしは、」
「僕と君じゃ釣り合わない、とか思ってる?」
「?!」
ぴたりと心の内を読み当てられたナマエは動揺を隠せなかった。するとフレンは窓枠越しに彼女のことを抱き締めた。
「ナマエ、聞いて。人間誰だって完璧じゃない。僕も君も。それでも君のことが好きなんだ。君の笑顔が好きでそれを僕は守りたいんだ。ナマエが言う釣り合うとかじゃなくてお互いのないところをフォローし合うことが大切だと僕は思う。ナマエの足りないところは僕が埋めるし支えるから、ナマエは僕の足りないところを埋めてほしい。僕のことを一番近くで支えてほしいんだ」
何にも形容し難いフレンの優しい声と言葉。それを聞いてしまっては今まで押さえ込んでいた何かが一気に弾け飛び、それが涙となって溢れフレンの服を濡らす。
「っ…ふ、ふっ、ふれぇ…!」
「ナマエ…」
「わた、わたしも、フレンが好きです…!」
「ああ。僕も大好きだよ、ナマエ」
窓越しにようやく結ばれた2人は一部始終を見ていた下町の人たちから拍手が送られ、温かさに包まれた。
2019 0810
mae tugi 20 / 30