つい最近のことだ。フレンとナマエは幼馴染みという壁を乗り越えて晴れて恋人となったのは。
「好きだよ、ナマエ」
「‥わ、わたし‥‥もっ‥、」
「"わたしも"…何?」
「そ、それを言えと?」
「言わなきゃわからないだろう」
幼馴染みだった頃はいつもからかい合ったり、ふざけ合ったりしていたのに恋人になってからはナマエは恥ずかしさからよく赤面するようになった。それはきっと『恋人』という肩書きのせいだろう。幼馴染みとしての付き合いが長かった分改まって好きだとかそういう類いの言葉を伝えるのはとても勇気がいる行為なのだと身をもって知った。
「だって…恥ずかしい、」
「僕はナマエの口から聞きたいな」
「で、でも…」
「それともナマエは‥‥」
僕が嫌いかい?────そう、フレンは言った。告げられた言葉はとても冷たく感じて、ナマエは今にも泣きそうな表情になって激しく首を横に振った。
「…嫌い、なわけ…ない。ただ、恥ずかしいだけなの…」
ナマエはフレンの手を握り、震える唇でそう紡いだ。そんなこと、わかりきっていることだけれどフレンは嬉しくて思わず口元が緩んでしまった。
「‥‥もう少し時間ちょうだい?いつかきっと…ううん、なるべく早く‥‥言えるようにがんばるから」
ナマエなりにフレンを想い、伝えてくれようとしていることが伝わり、ぷるぷる震える愛おしい彼女をそっと抱き締めた。
「ありがとう、ナマエ」
「ううん…ごめんね、フレン」
「どうして謝るんだい?」
「…その、ずっと待たせちゃって」
「いいよ。僕はずっと待ってる」
別に急がなくたっていい、とフレンは思う。先程は恥ずかしがって照れるナマエを少しいじめてみたくなったから、あぁいう意地悪なことを言ってしまったけれど。
「じゃあ、ナマエに一つ魔法をかけてあげるよ」
「え、魔法…?」
「うん。僕のことをもっと好きになる魔法」
「ッ…!」
ナマエの顎に手を添え、少しだけ上を向かせて綺麗なピンク色をしている唇に自分のそれをそっと重ねた。触れるだけのそれはナマエの心臓を早く動かすのには充分で、既に彼女の頭の中はフレンで溢れていた。
「ふ、れ……」
「どうだい?僕で頭がいっぱいになった?」
ぴたりと言い当てられたナマエは恥ずかしくて堪らず、目を閉じて言った。
「……今よりも好きになったら、わたしの心臓潰れちゃう、」
そんな可愛いことを言うナマエに更に悪戯心が擽られたフレンは再度キスを落として、慌てる彼女を見て笑ってやった。今はキスだけでいい───少しずつ2人のペースで新しい関係を築いていこうとフレンは湧き上がる欲望に今だけはそっと蓋をした。
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