一秒でも、どんな時でも
君の側にいたくて ―――――
「蒼破刃!!」
ユーリの声が森の中に響き渡る。対峙する魔物は全部で6体。ウルフが4匹とエッグベアが2体。フィールドに立っているのはユーリとレイヴン、ナマエについ最近旅に同行するようになったフレンだ。
「くっ…!」
「ナマエ!!」
決して強い相手ではないが思いの外ウルフの動きが早く、魔法の詠唱をしている隙をつかれてしまった。何とか防御体勢には入れたものの、爪が掠ったところからは血が出ていた。
「ナマエちゃん、おっさんに――」
任せて、とレイヴンが言い終わるよりも先にナマエの元へ駆けていく金髪。レイヴンが弓を構える動作はそこでぴたりと止まった。
「守護方陣!」
ナマエの隣にぴったりと寄り添い、ガッと強く剣を地面に突き刺せば、魔法陣が現れて温かな光が彼女の傷を癒す。
「大丈夫かい?」
「うん、ありがと」
「よかった」
ナマエの無事を己の碧い瞳で確認したフレンは剣を地面から抜き、また魔物に向かって行く。それからは息の合った剣捌きでユーリとフレンが魔物を斬っていき、レイヴンとナマエは後方から魔法での援護を行い戦闘は終了した。
「お疲れ様です。ナマエ、怪我したところは大丈夫です?」
「うん、フレンがすぐに来てくれて守護方陣で癒してくれたよ」
「ナマエちゃーん!」
戦闘終了後にエステルとナマエが話していると、茶々を入れるようにレイヴンが話に割って入る。
「おっさんがせっかくナマエちゃんを癒してあげようと思ってたのに!」
「あはは……気持ちだけもらっておくね。ありがとう、レイヴン」
「ふふふ。フレンは本当にナマエの事が大好きなんですね」
唇を尖らせるレイヴンにくすくすと可愛らしく笑うエステル、ナマエは少し頬を赤らめながら恥ずかしいよ、などと談笑を楽しんでいた。
「おっさん、もうそのへんにしといた方がいいと思うぜ?」
ふらっと現れたユーリが呆れたように言う。その意味がいまいち理解出来なかったエステルとレイヴンが首を傾げていると、金属の擦れる音と共にフレンがこちらへやって来た。
「やぁ、ナマエ。怪我はもう大丈夫かい?」
「うん。すぐにフレンが来てくれたから」
「そっか、それならよかったよ」
「あー!フレンちゃんずるいー!」
綺麗な笑顔を浮かべるフレンはナマエの手を握る。その自然すぎる動作を見たエステルは手を合わせて嬉しそうに笑い、レイヴンは悔しそうに叫ぶ。しかしただならぬフレンの様子に気がついたユーリは苦笑を浮かべた。
「レイヴンさん。たとえあなたでも僕のナマエを口説こうものなら容赦はしないですよ」
綺麗に笑ったままだが碧い瞳にはどす黒い感情が透けて見えるような気がした。それはフレンなりの牽制だった。その言葉を聞いたレイヴンの顔からは一気に血の気が引き、冗談よ、と言うしか出来なかった。そのままフレンはナマエの手を引いて歩いていく。
「ほらな、言ったろ。ああ見えてあいつだいぶと嫉妬深いから」
「……おっかないのが増えたね、ここ」
レイヴンは二度とナマエを口説く事は辞めようと誓うのだった。
2018 1231
mae tugi 18 / 30