それは突然だった。
「俺、お前の彼氏辞めるわ」
お互いの休みがやっと一致した、久しぶりに二人きりで過ごす休日。特にどこかへ出掛ける用事もなくユーリの部屋でまったりとしていた時に突然冒頭の言葉が飛んできた。ナマエは最初こそ意味を理解出来ずにぽかんとしていたが、よく考えてみると彼女にとってその言葉は絶望でしかなくて。
「え…どう、して?」
やっとのことで絞り出した声も震えて、掠れて、覇気が感じられなかった。
「………」
「っ、わたし、納得してないし…!」
「………」
「ユーリの重荷になるようなことした?」
「………」
無言のまま何かを考え込むユーリから次に出てくるであろう言葉を聞くのが、すごく怖かった。知らないうちに自分はユーリを苦しめていたのかも知れないと、自由を好む彼を縛っていたのかも知れないと突然すぎる展開にナマエはただ溢れて来そうな涙を堪える為に唇を噛み締めた。
「俺、そろそろ彼氏辞めてお前の旦那になりたいんだけど。だめ?」
「へ…?」
どんな別れの言葉を紡がれるのかと思っていた矢先にユーリから紡がれたのはナマエが思っていたようなものではなく、真反対の言葉。状況が読めず溢れかけていた涙は止まり再びぽかんと口を開けた。
「何つー顔してんだよ」
「だって、意味、わかんない…」
小さく言葉を返せばユーリは溜息をついて綺麗な前髪をガシガシと乱暴に掻き上げた。俯いてしっかり確認は出来ないが下に垂れた髪の隙間から見える横顔はどこか照れているように見えた。不覚にもナマエはその仕草と表情に見入ってしまう。
「これでも考えたんだぜ?俺、どっかの誰かさんみたいな真面目なの似合わねぇし」
きっと、どっかの誰かさんはフレンだろうとナマエは思いつつユーリの言葉に耳を傾け続ける。するとユーリは顔を上げ、二人の視線が絡んだ瞬間照れくさそうにポケットからネイビーの小箱を取り出した。
「ナマエ、俺の嫁になってくれ」
「…っ!!」
プロポーズの言葉と共に開かれた小箱の中には、小さなダイヤモンドが埋め込まれたシルバーリングだった。ナマエは言葉が出ない代わりに涙を流し何度も大きく縦に首を振った。
「いろいろ回りくどく考えてたけど、ストレートに言うのが一番だな。俺には似合わねぇけど」
「そんなことない。ユーリがわたしの為にたくさん悩んで考えてくれた気持ち、ちゃんと伝わったよ」
まだ溢れる涙を服の袖で拭きながらはナマエ精一杯の言葉で自分の気持ちを伝える。ユーリはふっと緩く笑うとシルバーリングを彼女の左手をとって薬指にそっと填めた。
「ユーリ。わたし、ユーリのお嫁さんになれて嬉しいよ。これからもよろしくね?」
「ああ、俺の方こそよろしくな」
mae tugi 4 / 30