※30代後半〜40くらいのホークスとひと回り以上年下の夢主のお話です。
カーテンの隙間から洩れる朝日で目を覚ました。瞬きを何度か繰り返して少しずつ覚醒していく頭で、そう言えば昨日は彼氏である啓悟の家に初めてお泊まりしたんだったと思い出す。何も起こらず健全なお泊まりに安心したような少し残念なような。
「(って、何考えてんの…)」
首を横に振って少しだけ現れたモヤモヤを振り払う。上体を起こして隣に目をやると未だに夢の中の啓悟はすやすやと規則的な寝息を立てていて寝顔ですら整っていることが少し恨めしい。
「わたしももう一眠りしようかなぁ」
くあ、と大きな欠伸を一つ。ふともう一度眠る啓悟に目をやると逞しい手が布団から出ていて思わずそれに自分の手を重ねた。ヒーローとして、前線に立つことは以前より少なくなったもののそれでも彼の人気は衰えない。かつてはNo.2ヒーローとしてたくさんの人々を救って来た啓悟の手は眠っていてもかっこいいと感じる程で。いつかはこの手で抱かれるのだろうか、なんて考えてしまう。
「(もう、朝から何考えてんのってば…)」
先程振り払ったはずの気持ちがまた名前の頭、心をじわりじわりと埋めていく。
啓悟とのその先を今までも考えなかった訳ではない。恋人になって、手を繋いで、抱き締められて、キスもして。その先は───
「(いつか、ほんとに、来るのかな…)」
経験豊富であろう啓悟と未だにキスより先は未経験の名前。恋人として関係を続けるならば、その先があるのは当然だけれど一緒に過ごしていてそんな話をしたこともないし、そういう雰囲気になったこともない。
「(啓悟さんは、わたしとのその先を……考えてくれてる…?)」
一抹の不安。思わず啓悟の手に重ねた己の手に力がキュッとこもる。年の差、ジェネレーションギャップ、職業の違い、価値観の違い。啓悟が名前自身を大切にしてくれていることは理解しているが一度生まれた不安は簡単には消えてくれなくて。
「(言葉じゃなくても伝わればいいのに…)」
そう思ったと同時に啓悟の手がピクリと動く。起こしたか、なんて考える余裕はなくそのまま彼の手は名前のパジャマの中へするりと侵入し、横腹をゆるゆると撫でた。
「ひ、ぁ……ッ」
「俺ん手、握ってどうしたと?」
寂しくなった?なんて優しい表情で聞いて来る啓悟に名前は眉尻を下げ、頬を赤くしながらその顔を見ることしか出来ないでいた。無言でいる名前をいいことに横腹を撫でていた手はズボンの中へ。仰向けに寝ていた身体を名前の方に向けて太腿を撫で続ける。くすぐったくて、恥ずかしくて名前はぷるぷると小動物のように震えた。
「は、あの、ごめ……」
「謝らんで」
「ッ……」
「むしろ謝るんは俺の方」
「……え?」
手をズボンから出して上体を起こすとそのまま啓悟に抱き締められる形となった。幾つになっても分厚く鍛えられたままの胸板にそっと額をくっつけるように後頭部に手を添えられる。何も啓悟は悪くないのに、と言いたくても口が上手く動いてくれなかった。
「こげんこと言うたら引かれると思うけど、初めて名前ちゃんとお泊まりして、俺浮かれとったんよ」
「ぇ……」
「部屋も掃除して、わざわざシーツも新しいん買って、もしかしたらなんてゴムまで買ってさ」
「ご、む……?え、」
啓悟は名前を抱き締めたまま言葉を続ける。
「で、何も出来ず。これでも一応男やのに不甲斐なさすぎやろ」
「ぇ、あの、どういう……?」
「ダイレクトに言うと、俺、名前ちゃんこと抱きたくて仕方ないんよ」
「抱ッ…!?」
さらっと言われた言葉に名前は頭がパニックになりそうだった。自分も朝起きてそういうことを考えていただなんて絶対言えないと唇を軽く噛む。
「ずうっと我慢しとった。でも名前ちゃんこと大事にしたいけん、名前ちゃんの心の準備が出来るまでは待つつもりばい」
ここでようやく抱き締めていた腕が解かれて、啓悟の顔を見上げることが出来た。その表情はどこか切なくて、それでいて今まで名前が知らない男の顔をしていた。
「ははっ、名前ちゃん顔真っ赤」
「あの…わたし、まだその先を知らなくて、」
「うん」
「……その先は、やっぱり怖い?」
「ん。怖いし痛いと思うよ」
「ッ…!」
ぶる、と肩を震わせるとそれを宥めるように啓悟の手のひらが名前の背中を撫でる。言葉はなかったけれど、大丈夫?と聞かれた気がした。決して我慢強くはない啓悟なのに名前自身を本当に大切に思ってくれていて、待つと言ってくれたことが嬉しかった。だからそんな彼に応えてあげたいと思った。
「わたし、大丈夫。啓悟さんと、なら…」
「それ、本気?」
「……うん」
「じゃあ聞くけど、」
ふわっと剛翼が広がったと同時に啓悟の両手が名前の頬を包む。熟れたトマトのように顔が赤い名前と少しだけ余裕がなさそうな啓悟の視線が交わる。
「俺に恥ずかしいところ、全部見せれる?」
「う、うん…」
「気持ちいいも痛いも怖いも、全部委ねられる?」
「ッ……うん」
「俺の全部を、受け入れること出来る?」
アンバーイエローの瞳は熱を孕んでいて、名前の瞳を逃さない。初めて見る男としての啓悟に鼓動が早まっていくばかり。緊張と、不安と、期待と。名前の答えは───
「大丈夫」
名前も強い視線で啓悟を見つめる。すると啓悟は余裕のない表情から急に表情を綻ばせ、笑った。
「ははっ!そんだけ強く言えるなら大丈夫ったい」
名前の頬を包んでいた手が離れて、熱くなった頬にひんやりとした空気が触れて気持ちがいい。
「シたいと思っとるん、俺だけじゃなくて安心した」
「……一応、ちゃんと考えた、つもり」
「俺とのエッチを?」
「エッ…!?」
「ふはっ、いいねぇ、その初々しい反応!」
「も、もう!からかわないで!」
からかわれたことが気に入らない名前はぷりぷりと怒ってみせるが、啓悟は肩を竦めておどけている。その顔は年を重ねてもどこかあどけなさが残っていた。
「名前ちゃんの心の準備が出来るまで待つって言ったけど、やっぱりあれナシで」
「え…?」
「そげん可愛いこと言われたら我慢出来んって。そういう訳で…」
「ひッ…!?」
本日何度目の男の顔だろうか。気付けば名前はベッドに押し倒されていて、視界は啓悟と剛翼でうめつくされている。
「まぁ、流石に今すぐは可哀想やけん、名前ちゃんに選ばせてあげる」
「な、何を…?」
「今すぐ抱かれるか、今晩抱かれるか」
「ぁ…!」
つつつ、と啓悟の人差し指がパジャマの上から名前の下腹部をなぞる。思わず身を捩るが名前の甘い声を聞いて啓悟はぺろりと舌なめずりをした。
「どっちがいいと?」
「ぅ、あ、」
「ほら。答えて」
低い声で催促されて、羞恥心は限界に。名前は耐え切れずに言葉を零した。
「ッ、どっちでも、いい…!も、恥ずかしくてどうにかなっちゃうから…ッ」
「…!」
真っ赤な顔で涙を溜めて言われては啓悟のほんの僅かに残っていた理性もプツンと簡単に切れてしまった。
「煽ったんは名前ちゃんやけんね?」
そう言って手首を握られて、唇が重なった。
2022.0215
2022.0214 Twitter掲載
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