「そろそろヤマト来るから」と言ったら


爆豪勝己/プロヒ
久々に二人の休みが重なり、朝からお忍びデートを楽しんでいた。ふと腕時計を確認すると時刻は17時頃。「あ、もう17時だ。ヤマト来るから帰るね」勝己に言えば「あ"ぁ"?誰だその男」と目を更に釣り上げてこめかみには青筋を立て、バチバチにキレていた。名前が口を開くよりも早く「誰だって聞いてンだよ。堂々と浮気してます宣言か?あ?俺ンこと舐めとンか?」とものすごい剣幕で捲し立てて来るので「ちょ、待って、話聞いて!」と宥めようとするも一度沸いた怒りは簡単には収まらないらしく「そのクソモブにいっぺん会わせろ。人の女に手ェ出したこと後悔させたらァ」今にも手のひらから爆破させそうな勢いの勝己に「聞いてってば!!」と少し声を張る。「ヤマトって宅急便なんだけど!」そう言えば勝己は少しの間黙ってから「……ハァ!?てめ、紛らわしい言い方すンなや!」と理解すれば自分が早とちりしたことに気付いて先程までの勢いが萎んでいく。「話聞かない勝己のせいでしょ!」「ヤマトっつったら勘違いしちまうだろうが!」「なに、男だと思ってヤキモチ?」普段は勝己に言い負かされることが多いので今の状況を味方に付けてからかってみれば「一生一緒にいてェと思った女取られたかと思りゃそりゃあ焦ンだろ」とプロポーズとも取れる言葉を返され「え!一生?え、待って、どういう意味!?」「知らね」「ちょ、言い逃げ?ずるい!」「からかった仕返しだわ。悶え死んどけ」先々足早に歩く勝己の後を追い掛けながら彼に勝つのは100年早いと思い知らされた。


轟焦凍/プロヒ
焦凍の家でデートを楽しんでいたら時間はあっという間で、気付いたら外は薄暗くなって時計は17時半頃を指していた。「もうこんな時間。焦凍くん、そろそろヤマト来るから帰るね」そう言って立ち上がろうとしたら手首を掴まれて「ヤマト?誰だ、その男」と瞳に静かな嫉妬を宿して見つめられる。「あ、違うの、それは」「違う?何が?浮気してることをポロッと言っちまったことか?」「う、浮気じゃないよ!」「じゃあヤマトって誰だ?答えられねェのか?」「だ、だからっ…」「そのヤマトがどんな奴かは知らねェが、名前をみすみすそいつに渡すつもりはねェな。絶対帰さねェ」掴まれた手首を引かれて焦凍にキツく抱き締められる。「しょ、と、く……苦しッ、離して…!」「嫌だ。離したら名前はそいつのとこに行っちまうだろ?」絶対離すもんかと言わんばかりに抱き締められ、苦しさから掠れた声で「ッ、違う、ヤマトって、宅急便だよ…!」と言えば抱き締められる力が一気に緩んで名前の視界に焦凍の疑問に満ちた表情が映る。「宅急便…?もしかしてクロネコヤマトのことか…?」「そうだよ、浮気なんかじゃない」強く抱き締められていた苦しさから涙目で弁解すると焦凍も釣られて泣きそうな顔になって「悪い、俺、名前を取られるんじゃないかって焦って、勘違いしちまった…」「ううん、紛らわしい言い方してごめんね」「俺の方こそ悪かった。良かった、浮気じゃないんだな、本当に良かった」今度は弱々しく抱き締められるので名前も焦凍の背中に腕を回して「こんなに素敵な人がいるのに浮気なんてしないよ」と言えば「俺も名前じゃないと無理だ…」と擦り寄って来るので思わず小さい子どもをあやすように頭を撫でてしまった。


鷹見啓悟
名前の家で束の間の逢瀬中。スマホで時間を確認した名前が「あ、そろそろヤマト来る時間だ」と言った瞬間グイッと手首を引かれて「ソレ、誰です?」鋭い猛禽類の瞳に至近距離で睨まれる。あまりの近さにドキッとして戸惑っていると「俺という男がいながら浮気ですか?いい度胸してますね」と掴まれた手首に力が込められる。「ち、違、啓悟勘違いしてるっ…」「勘違いも何もないでしょ。あなたが誰のモノかってしっかりわからせないと」そのまま床に押し倒されて両手首を床に縫い付けられた。「ヤマトって男、この光景見たらどう思うんでしょうね?」と嫉妬と怒りに塗れた表情と視線を向けられて何も言えないでいるとタイミング良くインターホンが鳴る。啓悟の羽根が通話ボタンを押すと「ヤマト宅急便でーす!」と元気な宅配業者の声が。「……宅急便?」「そうだけど」「え?」普段は頭の回転が早い啓悟も状況がわからないとポカンと口を開けている。その隙に抜け出した名前が宅急便を受け取って宅配業者は帰って行った。「ヤマトって、宅急便のことやったと…?」「そうだよ。クロネコヤマトのことだよ」「え、もしかして俺の勘違い…?」「そう言うことになるね」「な、何で言ってくれんかったんですか!?」「言ったよ、勘違いしてるって」「あ"あ"あ"あ"ぁぁ…!」全ての合点が合って啓悟は膝から崩れ落ちた。「俺の早とちりで……すみません」借りてきた猫のように縮こまる啓悟に「気にしてないよ。勘違いしてる啓悟ちょっと怖かったけど面白かったし」とクスクス笑えば「浮気されても何されても名前んこと離しとうなかったんですぅぅ…!」と泣き真似をして抱き着かれたので「浮気なんてするはずないでしょ」と勘違いさせてしまったお詫びにちょんっと頬にキスをすれば「こっちより口がいいです」「んむッ!?」深い深いキスが返ってきてしまった。

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