別れを告げずにこっそりと出て行こうとする話


爆豪勝己/プロヒ
別れたいの言葉を告げるのが怖くて、ひっそりと家を出ようと勝己が寝ている隙を狙っていそいそと身支度を整える。ドアノブに手を掛けたところで「どこ行く」と寝ているはずの勝己の声がして、背中に冷や汗が流れた。「勝己……起きて…、」「俺が起きてたら都合悪いンか」「…ッ」振り返った先には冷たい表情をした勝己がいて、赤い瞳に催眠術をかけられたように身体が動かなくなる。何か言い訳を考えなければ、と働かない頭を必死に働かせようとしているとガンッ!と名前の顔の横に勝己の拳が叩きつけられ、思わず目を瞑った。「逃げんのかよ、この俺から」「……」「なァ、名前」「ッ…!」勝己の両手が名前の両頬を包む。勝己と名前の顔は鼻先が触れ合いそうなくらい近くて、勝己からは僅かにニトロが香る。「逃げられると思っとンか」「そんな、こと、いッ…!」がぶり、とキスではなく首元に噛み付かれて痛みから顔を顰めた。首元についた綺麗な歯型をぺろりと舐めた勝己は口元だけ笑って「逃がす訳ねェだろ、バァカ」と今度は唇に噛み付いてキスをした。そうして、キスでドロドロになった名前を担ぎ寝室へ。その扉は静かに閉められた。


轟焦凍/プロヒ
この日を待っていた。焦凍は泊まり込みの任務で家にはいない。最低限の荷物を纏めて、キャップとマスクを付けて、昼より暗い夜を選んで、いざ扉を開ける。「ッ!?」完璧な計画だったはずなのに何故か扉を開けた先には任務中であるはずの焦凍が立っていて、思わず喉がヒュッと鳴った。「やっぱり、嫌な予感がしたんだ」「な、何…」「最近、名前がコソコソしてるから。休憩もらって抜けて来て正解だった」「ッ…」深く被ったキャップとマスクを取られて床に落とされ、焦凍に家へと押し込まれて逆戻り。「逃げるつもり、だったんだよな」「……」答えないでいると「答えろよ」と普段より強い口調で言われて小さく頷くと、焦凍は溜息をついた。「俺、もうすぐ戻らねェといけないんだ」「……」「名前」「なッ…!?」手首を掴まれて「このまま氷漬けにされるのと、逃げずにここにいるの、どっちがいい?」と低い声で問われた。名前は逃げると固く決意したはずなのにその冷たい声、瞳、右から漏れる冷気が怖くて震える唇で「逃げないから……氷漬けはやだ」と伝えた。すると焦凍は口元を緩ませて「そう言うと思った」と軽いキスを一つ落として仕事へ戻って行った。名前はそのまま座り込み。握られた手首に僅かについた氷を口へ含んで、ガリッと噛みながら涙を流した。


鷹見啓悟
深夜3時に最低限の荷物を纏め靴を履く。連日の勤務で疲れ果てている日を狙い、啓悟が熟睡している寝室の方をチラリと見る。これでいい、とドアノブを捻る手には汗。剛翼という感知に優れている個性は厄介、音を立てぬよう家を出た。しばらく歩きながら周囲を警戒するが深紅の羽根は見当たらない。家を出る前に服も荷物の中も確認した。このままバレぬようどこか遠くへ、と考え漫画喫茶で時間を潰して始発の電車に乗り込む。ようやく張り詰めていた緊張の糸が切れて溜息をついて安堵する。そうして電車に揺られて見知らぬ駅で降りてみると「お出かけ、楽しかったです?」上から降ってきた声に身体が硬直した。「け、ご……何で」上手く声が出せない名前の前に啓悟がゆっくりと降り立ち、彼の右手がするりと名前の頬を撫ぜる。「何でって、この俺が逃がす訳ないでしょ」そう言ってにっこり笑う啓悟の琥珀色の瞳には光はない。「わざと泳がせてあげたの、気付いてないんですか?」「ひっ…!」「もう逃げるとか考えない方がいいですよ。名前は絶対俺からは逃げられない」そう言って啓悟は名前を抱き上げ空へ。名前は絶望に打ちひしがれ、二度と帰らないと思った家へ帰路につくことになった。

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