チョコレートブルーに沁みたい



※夢主は名前のみの登場です。




『ナマエを孕ませたんだって?』

数日前、ハンジはリヴァイの元へ来るなり祝いの言葉と共にそんな言葉を口にした。その時はいつものように悪態をついてやったが後になって彼の言葉がぐるぐると脳内を低回して離れない。

「クソ……」

茶化されることが嫌で安定期に入るまではナマエが捻挫しただの、風邪を引いただのといろいろな理由を付けて何とか凌いだけれど妊娠を公表しても茶化されることはなかった。ハンジの『孕ませた』という言葉は気に入らなかったがよくよく考えてみれば自分はもしかしたらとんでもないことをしたのかもしれないと、思う。

「俺はまだしも、ナマエは18……」

18歳という若さでナマエを妊娠させてしまったこと。壁に囲まれたこの国の平均出産年齢は地下街を除いてわりと高いとどこかで聞いたことがある。貴族の娘ならば18やそこらで妊娠、出産していてもおかしくはないがナマエは貴族の娘ではなく、一般人。特別なことを上げるならば彼女は調査兵団に所属しているということだけ。

「早かったか……?」

机に肘をついて頭を抱えた。いやナマエとはそんな軽い気持ちで付き合っていた訳ではない。本気で愛しているしいずれは結婚して子どもを授かれたらいい、と考えていたが正直こんなにも早く考えていたことが現実になるとは思わなかった。

『人類最強がなんだ。希望がなんだ。ナマエとガキを失うくらいならそんな肩書きなんざクソ喰らえってんだ』

なんてナマエの前では豪語したことを思い出す。不安になる彼女を自分が腹にいる子ども丸ごと守ってやらなければと思って発言した言葉。もちろん嘘ではない。本気だからこそ、大切にしたいと思っているからこそ、男の自分が強くあらねばならないというリヴァイの決意。その決意とナマエへの愛があったから指輪も贈った、二人で住む部屋も用意した。完璧だと思っていたのに何故こんなにも悩む必要があるのか。

「俺は……」

ふらり、と立ち上がって部屋を出た。向かった先は今頃書庫で書類整理をしているナマエの元ではなく、エルヴィンがいる団長室だった。3回ノックをすれば、入れと中から彼の声がして扉を開けた。

「誰かと思えばリヴァイか」

目を通していた資料を机上に置き、どこか窶れたように見えるリヴァイに視線を送る。

「……エルヴィン。今から話す内容はすぐに忘れてくれ」
「?」

リヴァイは扉を閉めると入り口から一歩も動かないまま話をした。ナマエを妊娠させてしまったこと、18歳という年齢での妊娠、妊娠が彼女の描いていた未来を奪うのではないか、ナマエと子どもを守りたいこと、等一方的に話をした。とにかく誰かに聞いてもらいたかった。リヴァイにとっては極々珍しい行動だが人選の判断は当たりだった。エルヴィンは黙ったままくだらない話を聞き続けてくれた。

しばらくして部屋に沈黙が訪れる。一通り、悩んでいたことを話し終えたリヴァイも話を聞いていたエルヴィンも表情に何ら変わりはない。

「……一方的に話して悪かった。今の話は全て忘れてくれ」

いつの日か、調査兵の女性たちが話していたことをふと思い出す。女は男と違って悩みや愚痴を話して誰かに聞いてもらえるだけでいいと。男の自分に女心が理解出来るものかとその時はひねくれた考えしか持っていなかったが、今ならその女性たちが話していたことが身に染みて理解出来た。答えを貰わずとも悩みを打ち明けるだけで心に掛かったモヤモヤが半分近くなくなるなんて思ってもみなかった。リヴァイは残りのモヤモヤは押し込めてしまうしかないと踵を返した時。

「……お前は今は答えを求めてないかもしれないが聞け。俺は生半可な覚悟なら子どもを作るべきではないと思っている。早いだの何だのと言うならばきちんと避妊を行えば良かっただけの話だ」
「……」
「が、どんな形にしろタイミングにしろ授かった子どもを、お前たちを責めるつもりは毛頭ない。あのリヴァイがナマエを通して変わっていく姿を俺は素直に嬉しいと思うよ」

背中越しにしっかり聞き届けたエルヴィンの言葉。リヴァイは振り返ることはせずにドアノブを捻って扉を開いた。

「……さっきの話は忘れろ」
「善処するよ」
「…………」

そのままリヴァイは部屋を後にした。去り際にありがとうと感謝の一言を残して。

団長室からしばらく歩いたリヴァイの表情はどこか穏やかだった。先程まで悩んでいた自分が馬鹿らしくなったのだ。もしかしたら妊娠は早かったかも知れない───けれど現実を受け止めなければ。ナマエも少しずつ受け入れて母親になろうとしているのだから。ナマエと子どもを守るのは自分しかいないのだから。

「……楽しみだな」

今はまだ小さすぎる我が子がもう少し大きくなって会える日を。愛するナマエとの新しい命が早すぎるなんてことはない。偶然、このタイミングで二人の元へ来てくれた、そういう運命、ただそれだけ。

「(いつからこんなメルヘン思考になっちまったんだろうな……)」

自分で自分にツッコミを入れながらもリヴァイの薄い唇は綺麗な弧を描いていた。無性にナマエの顔を見たくなって、書庫に歩みを進めた。


2021 0207

※人類最強を悩ませてみたかったんです。


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