鬼灯の冷徹 | ナノ


毎日のように目まぐるしく働く獄卒たち。今日も今日とて亡者への容赦ない呵責を与え続けている。鬼灯は視察の為にいくつかの刑場を回っていた。

「ふむ……ここも特に異常なし、と」

確認し終え、書類に落としていく。次の刑場へ向かおうと足を動かし出した時、前方に綺麗に袴を着付けた見覚えのある後ろ姿を見つけた。

「あの方は確か……名前さん?」

唐瓜や茄子たちと同期の獄卒だが、大人しい性格なのか職場ではあまり目立たない彼女。鬼灯も名前の顔と名前は知っていたが関わったことはほとんどなく普段は閻魔殿で主に事務を担当している彼女が何故ここにいるのかはわからない。行く方向は同じだが声をかける程でもないだろうと再び歩み出そうとした時。

「誰かー!その亡者を捕まえてくれーー!!」
「!」

右方向から逃げ出したと思われる亡者とそれを追う獄卒が現れる。亡者は女である名前を目掛けて走っていく。人質にでもするつもりだろうか。鬼灯は素早く反応し金棒で仕留めに行こうと足が動くが、それよりも早く動いたのは―――

「捕まってたまるかッ!」
「名前さん!!」
「!」
「なっ!?」
「おらぁああ!!」

名前は襲いかかろうとする亡者の腕を掴んだかと思うと、一気にひねり上げ、そのまま雄叫びと共に男の亡者を軽々と背負い投げた。鬼といえど女にこんな仕打ちを受けると夢にも思わなかった亡者は油断しきっており、固くてゴツゴツした地面に容赦なく叩きつけられた。

「いってぇ!?」
「亡者のくせに生意気よ」
「グアッ!?」

仰向けになった亡者の顔面を袴用ブーツのヒールでこれまた容赦なく踏み潰した。綺麗な袴には返り血がこびり付く。そうして動かなくなった亡者は追いかけてきた獄卒により回収されていった。

「ふう」
「お見事です、名前さん」
「鬼灯様」

一部始終を見ていた鬼灯が名前に話しかけると、照れたような表情でついやってしまいましたと返した。

「いえ、とても素晴らしかったです。事務仕事なのがもったいないくらいですよ」
「いやいや……わたしこう見えて空手だけはいっちょ前で。お役に立てました?」
「それはもちろんです。名前さんの戦う姿を見て惚れてしまいましたよ」
「え、ほ、ほれ…??」

さらりと言われた言葉に名前は目をぱちくりさせるが鬼灯は至って真面目に話を続ける。

「あの瞬間、私は貴女に恋をしました。貴女が、名前さんがほしい」
「え!?そんな……ほしいだなんて、カ〇ナシじゃないんだから。千ほしい、なんちゃって……」

現世のアニメネタで笑って返すが鬼灯の表情は変わらない。鬼もこんなに簡単に恋に落ちるのかと名前はどうしていいかわからなくなる。

「今すぐ付き合えとは言いません」
「で、ですよね…」
「でもいずれは落としますので覚悟していてください」

バリトンボイスで呟かれたあと、額に触れるだけのキスを残していった鬼灯。名前はただその場に立ち尽くすしかなかった。
そしてその日を境に鬼灯の猛アタックが開始されたのは言うまでもない。


2018 0930


mae tugi 6 / 13

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