鬼灯の冷徹 | ナノ


「おや?」
「あ」
「名前さんじゃないですか」
「鬼灯様、お久しぶりです」

鬼灯が用事の為に訪れていた衆合地獄で偶然鉢合わせた相手はこの地獄に勤める鬼・名前だった。鳥頭やお香たちと同じく教え処からの知り合いで付き合いもかなり長い。そんな彼女と久しぶりに会えた為鬼灯も足を止めた。

「お久しぶりです。元気そうで何より」
「鬼灯様も相変わらずですね。ここへは視察ですか?」
「そんなところです。お会いするのは半年ぶりくらいでしょうか」
「ですね。わたしも鬼灯様も仕事に追われて忙しい身ですから」

ふんわり笑う名前は以前と変わらずで、安心した鬼灯は懐中時計で時間を確認した。

「久々の再会で積もる話もありますよね。名前さんの都合さえ良ければそこの甘味処でお茶でも如何ですか?」
「わ、いいですね!わたしも仕事が落ち着いたところですので是非ご一緒させてください」

二人で甘味処へ入り席へ着く。鬼灯は我ながら、らしくない誘い方をしたと自分を情けなく思うが仕方がない。かれこれ何百年と彼女に恋をしているのだから。幼い頃から一緒に過ごしてきたが、恋だと自覚したのはかなり遅かった為結局告白などするタイミングを見失って今に至る。名前も名前で鈍感な一面がある為鬼灯のアピールに気づいていない可能性が高い。

「どれも美味しそうですね」
「好きなもの頼んでいいですよ。奢ります」
「やった、それじゃ遠慮なく!」

鬼灯は珈琲、名前は白玉ぜんざいを注文した。少しして注文した物が届くと名前は元気な声で食事の挨拶をし、まんまるでつるつるの白玉を一つ口の中に放り込んだ。

「んー、美味しい!」
「それはよかったです」

白玉を頬張る名前を鬼灯は気づかれぬように盗み見る。本当は彼女を自分の側に置いておきたい、彼女を独り占めしたいが、その独りよがりや独占欲がいいことを生まないのは理解しているつもりなのだ。こうした半年ぶりの再会もすぐに終わってしまい次はいつになるのかと考えるだけで鬼ながらに寂しいと思う。

「あれ。鬼灯さん?」
「桃太郎さん」
「鬼灯様のお知り合いですか?」
「まあ、そんなところです」

偶然、天国から衆合地獄の花街に来ていた桃太郎が鬼灯に気づいて声をかけ、挨拶を交わす。もしかすると彼の因縁の相手でもあり決して会いたくない神獣もいるのかと一瞬目つきが鋭くなったが、嫌な気配は感じられなかった。桃太郎はその一瞬の鬼灯の表情を見て何やら邪魔をしてしまったのではないかと顔を青くした。

「あ、もしかして俺お邪魔でした…?すみません、せっかくの彼女さんとのデートを」
「へっ?」
「え」

思ってもみなかった言葉に鳩が豆鉄砲をくらったような顔をする名前と思わず少しだけ目を見開いてしまった鬼灯。彼女はぽん、と顔を赤くして持っていたスプーンを机に落とした。

「鬼灯さんに彼女がいるなんて、初耳でしたよー。俺はこれで…」
「待っ…!えっ、いや、あの、わたしたち、そんな関係では…!」
「今は私の片想いで、まだそういう関係ではありませんが、近いうちに恋人となる予定です」
「え?」
「え…?」

いたたまれなくなった桃太郎はへこへこ笑いながらこの場を去ろうとするが名前は恥ずかしくなって慌てて否定に入る。そんな中鬼灯は落ち着いた面持ちで言い放ったのだ。

「名前さん、行きましょう」
「ほ、鬼灯様!?」

ぐい、と手を引かれて甘味処を後にする。そのまま無言でずんずん進んでいく鬼灯に会計はと聞くが返事は返ってこない。甘味処を出る時に後ろから俺が払うのかよ!?と小さく聞こえた気がしたがまさかの、そのまさかだろう。初対面の桃太郎に心の中で謝った。

「あの、どこまで行くのです?」
「2人きりになれるところ、ですかね」
「え、鬼灯様…?」
「その反応、イエスと捉えてもいいんですよね」
「っ…!」

振り返らぬままそう告げてきた鬼灯に名前は更に顔を真っ赤にして、小さく肯定の言葉を口にした。
本当はこのタイミングで、こんな場所で、伝えるつもりではなかったが鬼灯は自分の想いと名前の想いが一緒なことを知ると誰にも見られぬよう怪しく微笑んだのだった。


mae tugi 4 / 13

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