雨宿り

ポツリ、と肌に冷たい感覚がしたと思えば、ザァッという雨音と共に雨足が強まった。


急いで鞄を胸に抱いて、何処か雨を凌げそうな所を探す。

走るとアスファルトで跳ねた水が足にかかって煩わしい。



調度良く雨宿り出来そうな屋根がある場所を見つけて急いでその下に潜り込んだ。



「雨とか最悪だー…」



呟きはザァアッという雨音に掻き消されて、直ぐに消えていった。

運悪くタオル等の濡れた部分を拭くものも持っていないこの状況にため息が出た。



仕方なくしゃがみ込んで雨が止むのを待つことにした。










「…イっ…オイ苗字!…」

「……アレ、坊主が…遂に私にもお迎えが来たの…」

「バカッ!!何寝ぼけてんだよ」



ポカリと頭を殴られてようやく頭がハッキリとしてきた。

どうやら眠っていたらしい。

声がする方向を見上げると、そこには見慣れた坊主頭が立っていた。

(やっぱり坊主じゃないの…)



「あー、花井?何でこんな所に居るの?雨と言う滝に打たれて精神修業??」



にへら、と私は花井に笑いかけたが、またもやポカリと殴られてしまった。

意外に痛いのに。



「うっせ。お前こそ、この雨のなか良く寝れんな。どんだけ神経図太いんだよ」

「なにおー。か弱い女の子が雨に打たれて疲れきって寝ちまっただけだろこのハゲー」

「ハゲじゃねぇ!か弱いって誰のこと言ってんだよ」



私だよ、と答えると馬鹿は休み休み言ってくれと返された。
なんだこのハゲは、女の子労らんかいなー!と脛を蹴ってやったらすごーく痛そうに悶える花井。


ざまーみろ、と盛大に笑ってやった。涙目の花井が新鮮だ。


もう一度その場に座り込んで、雨粒の行方を見遣った。

やっぱり先程とそんなに変わらないようすで降り続けている。どんよりと曇った空が陰湿さを醸し出しているようだった。



ヘクシュ、とくしゃみをして、また空を見上げた。


ついでに横目で花井を見遣ると、持っていた傘を畳んで私の隣にぼけーっと立っていた。


じーっと見つめる視線に気付いたらしい花井は一瞬キョドると、何かを思い付いたかのように鞄を漁った。



「お、あった」



ふぁさり、と肩に綿の感触がしたので肩を見ると、そこには大きめのタオルが掛かっていた。

タオルに次いで、花井を見上げると、顔を逸らして若干気まずそうに「…濡れてっから…」と言ってくれた。


花井の優しさに感謝してこのタオルは借りることにした。
若干寒いと感じていたのでこの気遣いはとても有り難かった。



「花井、ありがと」

「…おう」



照れ隠しでそっぽを向く花井。その顔を見てくすり、と笑った。な、笑うな!と言う花井がかわいくて。


どうやら一緒に雨宿りして雨があがるのを待っててくれるらしい花井の優しさにも嬉しくなって、つい顔がにやけた。



「ねーねー花井ー」

「なんだよ苗字…うわっ!」


ボサッと立っている花井の腕を掴んでぐい、と引っ張った。もちろんその衝撃でバランスが崩れた花井は、よろけてしゃがみ込んだ。



「何すんだよ!!」

「あー、あったかい」

「っ!!」



同じ高さになった花井にくっついてみた。花井は目を白黒させて私をみたが、そんなのお構い無しだ。

最初は花井もキョドっていたが、しばらくして諦めたのか大きく溜息をついてそのままにしておいてくれた。



「花井ってさー」

「ん」

「意外と優しいよね」



意外は余計だ、と花井は怒ったけど、顔が笑っていたのを私は知っている。


濡れた制服越しに伝わってくる花井の体温がとても心地好かった。


こうして花井の優しさを感じられるなら


雨でも悪くないかな。



「雨、いつ止むんだろーね」

「…さぁな」



…嘘。

本当は、"止まないといい"


でもいつかは

止んでしまうから



「今だけ、こうしてていい?」

「〜〜っ。好きにしろっ」



顔を真っ赤にして俯く花井に、私ははにかんだ。



雨宿り



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友達以上、恋人未満な
関係を書きたかったんです。

100721


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