小説おおぶり | ナノ


▽ 03:意気込みと内緒


「なんで人生って上手くいかねーのかな。ボールみたいに真っ直ぐ思った通り飛んでくれれば楽なのに」

「うわっ北條がネガティブとかキモイ!!」

「死ね水谷、豆腐の角で頭ぶつけて」

「とりあえずお前らはうっさいから黙れ」



ぴしゃり、と阿部が睨みを聞かせながら言い放つ。まあ黙らないのが俺たちなんだけど、監督のモモカンがいれば話は別で、そんなことも言ってられない。

だってあの人に睨まれて恐縮しない人なんて基本的にいなさそうだし。



「で、北條くん。聞いてた?」

「あ、はい聞いてましたよ。ゴールデンウィークに合宿するんスよね」

「そ!合宿!」



モモカンはパチン、と両手を合わせてにっ、と笑みを作った。

そしておもむろに紙を取り出すと、皆に回し始めた。受け取って見てみると合宿の要項が端的かつしっかりと書いてある。多分、モモカン手作りだろうと思われる。

それよりも自分の目を引いたのは別の文字だった



「三星学園と練習試合…!?」



思わずモモカンの顔を見るとモモカンは俺の目を見て無言で首を縦に振った。

これはもしかして、もしかしてもしかして。期待しても良い、ということだろうか。テンションあがっちまうじゃないか。



「んふ、んふふふふ…!」

「北條が笑い出した!」

「テンション下がったり上がったり忙しい奴だな」

「こっちでテンション下がりまくってこの世の終わりみたいな顔してる奴もいるけどね…」



栄口が苦笑いしながら指差す方向には、魂が抜けて顔面蒼白でまさしくこの世の終わりみたいな顔の三橋がいた。

俺はそんな三橋を見て、一目し、ずんずんと三橋に寄っていって、深呼吸を一回してから、勢いをつけて三橋の背中をバチコーンと叩いた。

ものすごい音がして、皆は唖然愕然茫然で此方を見ていて、被害者の三橋はと言うとヒリヒリと痛む背中を頑張って擦りながら涙目で俺を見た。俺は構わず三橋の両肩を掴むと無遠慮に揺さぶった。



「三橋ィっ!!これはチャンスだぞっ!!お前の力を見せ付けて三星の皆を見返してやろうぜ!!俺がぜってーに点いれてやんよ!だからお前は一生懸命投げろ!」

「っ…北條…くん」

「お前の凄さは俺たちが知ってっからよ!自信持てって!」



な、阿部!!と阿部の肩を組むと、何で俺に振るんだよ馬鹿、と頭を叩かれた。「ハイハイ!俺も点いれる!ゲンミツに!!」という田島の声が背中の方で聞こえた。

阿部くん、今ので俺の脳細胞100万個死にましたよ。



「いや、北條の脳細胞なんて大したことないんじゃねーの?」

「これ以上俺が野球馬鹿になっても困るっしょ?」

「「確かに」」

「頼むそこ否定してくれ」



声を合わせて肯定する花井と阿部に軽く殺意が湧いた。

あとで絶対殴る。



「ハイハイ!!じゃあ皆理解したね?さて練習に戻りましょうか!」



モモカンの一言で、はいっ!!と言うと、野球部員たちは散り散りに各場所へと散っていく。

ああもう、合宿が楽しみだ!






*****






「北條〜。じゃーなー」

「おう!またなー」



野球メンバーたちと別れて、すっかり暗くなった家路を急ぐ。田島みたいにすぐではないが、自分の家もそこそこ近い。

見覚えのある家々を辿りながら我が家に着くと、腹ペコの自分にとっては至福の薫りが鼻を掠めた。


「おかーさんただいま!!いーにおいーっ。あ、私ゴールデンウィーク合宿行くからー!」

「あらそうなのー?ソフトも早くから大変ねぇ」

「あははー。まあねー」



ひょっこりとキッチンから顔を覗かせた母をちゃんと見れずに、若干顔を反らして通り過ぎる。

弟が、「またネェちゃん男みたいなカッコしてるー」と痛いところを指摘したけど、笑って「姉ちゃんはこのカッコが気に入ってるの。わかるー?わかんないかー」と誤魔化すと、大抵弟は「俺にだってそれぐらいわかっしー!」と頬を膨らませるのだ。だから大抵その先は追究されない。

小学生なだけあって、弟は扱いやすい。そこがかわいいのだけれど。



「合宿費用とかまたちゃんと言いなさいね!あ、洗濯物はソコ!」
「りょーかい。ご飯直ぐ食べれる?」

「勿論。早く食べちゃいなさい」



はーい、と素直に返事してダイニングテーブルに腰掛ける。沢山の料理を片っ端から口に放りこんで食べ進める。


家族にも、自分が硬式野球をやっていることを教えていない。

教えたらまたややこしいことになるだろうし。

けれども、いつかは必ず伝えるつもりだ。いつまでも隠し通せるほど、人生甘くない。


難しい顔をしていたのだろう、弟が寄ってきて「具合悪いの?」と心配そうに聞いてくる。

大丈夫だよ、と髪をクシャッと撫でてやると弟は目を細めて笑った。



「後で姉ちゃんとキャッチボールしよっか!リトル入るんだもんね!」

「うん!!俺も姉ちゃんみたいに頑張る!!」

「おっしゃ。じゃああと5分待って!」



わしゃわしゃっとご飯を掻き込んだらお母さんにあんたも女の子なんだからそんなことしないの!と叱責されたが、私には何処吹く風。ごめんなさーいっと適当に流してエナメルバッグの中のグローブを漁った。



「ホントに最近男の子みたいねぇ…母さんちょっと心配」



なんて母が呟いていたなんて私は知る由もなかった。








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原作では合宿中に
発表なのですが忘れてて
書いてしまったので
この話が出来上がりました。

混乱された方すみませんでしたorz

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