小説おおぶり | ナノ


▽ 02:とある日常と変なフラグ


「湊音、湊音ってば!」

「うわぁっ!!ビックリしたっ。もー、驚かさないでよ唯ちゃん」

「湊音が眠そうだから起こしてあげた♪」



授業が終わっての休み時間、先生にばれないよう居眠りを行うという緊張感が無くなって心置きなくお昼寝をしていたのだけど、友達の唯ちゃんに起こされてしまった。

唯ちゃんはいたずらっぽく微笑むと、私の両頬をぺちり、と叩いた。彼女曰く、喝をいれるため、らしい。


痛いよー、と唯ちゃんに文句を言うと、猫のような目を孤にして笑った。



「湊音の反応が可愛くてつい!あー、この子かわいいわー」

「素直に喜べないんだけど」

「あら、喜ぶところよ一応!」

「えー」

「こら唯。あんまり湊音をいじめすぎるなよ?」



コツン、と唯ちゃんの頭を小突いて唯ちゃんの暴走を止めたのは柘榴ちゃん。クールな印象が強いんだけど意外に楽観的で面白い子だ。ちなみに唯ちゃんはそのまんま元気っ子って感じ。


二人とも高校で知り合って、友達になった。今ではすっかりいつものメンバー。

優しくて、二人とも大好き。



「そういえばさっきの課題なんだった??眠くて聞き取れなくて」

「湊音のことだろーから、と思ってメモしといた。ハイ」

「さっすが柘榴ちゃん!ありがとー!」

「お礼は購買のクリームデニッシュで」

「…はい」



柘榴ちゃんは意地悪そうにほくそ笑んでから、ぽんぽんと私の頭を叩いてじょーだん、と笑った。


やることがカッコイイのが柘榴ちゃんだ。



チャイムが鳴って、二人ともは席に着いた。


私も教科書類を取り出して、準備を完了させて先生を待った。もちろん、聞くつもりはさらさら無いのだけれど。社会科目とか眠い。無理。誰かが社会は寝るための時間だとか言ってたから良いよね。



「はい今日はP20から〜」



ああまた夢の世界にゴーイングかな。おやすみなさい。


そうして私は意識を手放した。






*****








居眠りのおかげでぽん、ぽんと午前中の授業が終わって、只今お昼休み。席をくっつけて、お待ちかねのお弁当をいただいた。

机の上には各自お弁当と、お菓子類がちょっと。高校生っぽいな、と思いながらも弁当一筋なのはかわらない。あ、から揚げ美味しい。


二人はかわいいお弁当箱だけれど、このあとの部活と自分のお腹の減り具合の関係で、大きさ重視のシンプルな自分のお弁当箱には女子高生らしさがない気がしてくる。


唯ちゃんが卵焼きをとっていったので私はかわりにミートボールを拝借した。あ!と言ってちょっと拗ねたように私をみる唯ちゃんがかわいい。


柘榴ちゃんはクールに黙々と食べているけれど、目が会うとにこ、としてくれる。柘榴ちゃんの笑顔は本当キュンキュンする。



「あー…これ天国だわ」

「何か言った?」

「ううん。かなり独り言」



何よ〜と肘で私を小突く唯ちゃん。なんでもないよ、と言ってお弁当を食べ進める。あと残り少なかったから、ごそっと口のなかに放り込んで、飲み込んだら二人に爆笑された。なんか恥ずかしい。



「ハハ、今のはハムスターみたいだったな」

「湊音かわいい!あーもうお持ち帰りしたいわー」

「うわー…恥ずかしい…」



かば、と机に伏せて顔のほてりがおさまるまで待った。きっと真っ赤だろうから。にしても、机冷たいなー…なんて考えていた。


コツン


頭に何かが当たる感覚がして、唯ちゃんかなーと思って顔を上げて当たった方を見ると、私は急激に体温が上がったような感じがした。



「当てちゃってごめん!大丈夫?」



そう言って目の前で(しかも近い)手を合わせて謝っているのはまさかの栄口(…くん)で、私は転げ落ちそうになった(してないけどね)


だ、大丈夫…と言って投げつけられたものを拾い上げた。

…うさ〇っち?


ちょっとニヒルというか、目が死んでるような(ごめんうさ〇っち)これは紛れも無いあのキャラクターで、手の平に乗る位の小さなぬいぐるみを栄口に返した。


ありがと!と言う栄口の笑顔が眩しくてなんだかいたたまれなくなった。


もちろん、私が野球部にいる男の(正確には男装だけど)北條湊音であることはモモカンとシガポ以外誰も知らない。つまり、"私"と男の"北條湊音"は別人だと思われているわけで…



「村井が投げたのが当たっちゃったみたいて、ホントごめん!許してやって?」



なんだか言葉が出なくて、ただその言葉に頷いた。それじゃ!と走っていく栄口を見送って、息を吐き出した。

ばれないようにしなきゃならないから、目立つのはNGだ。



そういえば栄口って同じクラスだったんだっけ。あ、じゃあ巣山も…って、かなりデッドゾーンでは。

つまり、私のクラスは1-1であり、二人の野球部員が…

あああ、前途多難かな。


そう思って顔を上げると、唯ちゃんがによによというような顔をして、私をみた。

え、何、と怪訝そうに聞くと、ガシッと肩を捕まえられて引き寄せられた。



「なになに!?湊音は栄口くんのことが好きだったわけ?なーんだ早く言ってくれれば応援したのに!!

「…は、え?」



ちょっと待った。

どこからその設定が誕生したんだ。

ほかんと口を開けて唯ちゃんを見ていると、もう、照れちゃって!!と言われた。ごめん照れてないです。



「確かに栄口くんはいい人そうだし」

「―…って違う違う!!そんなことあるわけないじゃない!!だってまだ4月終わってないんだよ!それに話したの今日初めてだし―…って聞いてる?!」



何やら私の話を盛大にスルーして、唯ちゃんは柘榴ちゃんと盛り上がり出した。ああもう今日は一体何なんだばかぁ!!と叫びたくなった(もちろん叫ばないけど)



「応援するから相談してよ!湊音ったら意外に早いのね!」



入学して早二週間

前途多難で、変なフラグまで立って、私はもう泣きそうです。

(野球の事は良いとして…ああもうなんで!)

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