小説おおぶり | ナノ


▽ 09:脅しには脅しで返す


「専用グラウンドあるんだ」

「すげぇな。流石私立」

「マネージャーいなくて男子ばっかっだって。むさそー」

「コラァッ!聞こえるだろーが!!」



バコン、と勢いよく腕を降り下ろす花井。もちろんその降り下ろされた腕は俺の頭へ垂直落下ですよねわかります。


鞄を置いて、グローブ類を取り出す。ふと隣を見ると、げっそりとしたような表情の三橋がグローブを持って座り込んでいた。



「三橋、大丈夫?」

「っ、北條、くん…。俺っ、だ、大丈夫…だ、よ」



そう言ってグローブを握りしめ、視線を逸らす三橋。

大分気が滅入ってそうだ。確かに俺でも逃げ出したくなると思う。

でも、逃げることは簡単だけど、それは三橋の為にはならない。



「三橋っ。大丈夫!杏より梅が安い!」

「っ!?」



俺らがついてっから!と三橋のグローブをしていない方の手をぎゅっと握って微笑んでから、ばちこーんと背中に一発入れて、自分もアップの為にグラウンドに向かった。

俺のおまじない、効いてくれるといいな。

それにしても最後の一発の時の三橋の表情が…!



「くふっ、ぷぷぷぷー」

「うわぁコイツにやけながら投げてんだけど」

「いいんじゃない?北條だし」

「それもそーだな」

「お前ら俺の扱い酷くね?」

『まあ当然だな』







*****








「三橋ーー」



アップの途中に三星学園の一年生チームが登場した瞬間脱兎のごとく飛び出した三橋を追ってin学園敷地内。モモカンが俺を止めなかったのは不思議だったけど、何故か追わなきゃって思った。



「おーい、みはしっしーれんれーん、どっこー。あ、なんかノってきた」

「緊張感くらいねぇのかよお前」

「阿部と二人でいる緊張感なら掃いてドブに捨てましたー」

「そーゆーことじゃねぇよ、馬鹿か」

「じゃあ何なんスか説明してくださいよ5文字以内であー阿部くんの頭では無理ですかそうですかしかし大丈夫です期待してませ…「ちょっと黙れ」はい黙ります」



だっていつもよりドスのきいた声で喋る上に口塞いできたんだよー黙るしかないじゃないそうじゃない。

黙れば、誰かの声が聞こえてきた。それは、低音で阿部くらいのドスがきいた声。俺は阿部と顔を見合わせてからその声がする所に向かった。



「腕折っときゃよかったか?」



聞いた瞬間、ゾッとした。
心臓が冷えた心地がして、その冷たさが手先にも浸透していくのが感覚で分かった。

近付いてみて、それは三星の捕手の人の声だった。そして、その目の前にいるのは怯えて縮こまった三橋で。


にゃろ…!と俺が取り乱したところ、 阿部が俺を制止した。厄介ごとになんのはまずい。普通に出れば良いだろ、と阿部が小声で俺に耳打ちしたので、仕方なく阿部に従うことにした。



「ちわ、こんなとこで何してんですか」

「「!」」



超絶にっこり笑顔を心掛けて阿部より先にでる。これくらいは許されるよね阿部?

阿部も俺に続いて登場し、俺の隣に並んだ。阿部が密かに肘で小突いてきたけど、俺はそれに気付かないふりをした。

だって俺結構怒り心頭よ?



「"うちの"三橋に何か用ですか。見たところ知り合いみたいですけど、勝手されちゃ困るんですよー"うちの"大事なピッチャーの三橋に」

「大事…?」



今の、カチンときたな。俺的に。

やたらうちのを強調しながら笑顔を緩めずにゆるゆるとその捕手に近付いた。

警告ぐらいはこっちだってさせてもらわなきゃ、ね。



「これ以上うちのピッチャーに手ぇ出したらタマ潰すぞ…?」

「っ!?」



耳元で囁いた刹那、すぅっとその捕手の顔色が冷えていくのを隣で見ていた俺はほくそえんだ。俺こんな低音も出せるんだね感動。

やめろ北條という阿部の静止の声にへーいとテキトウに返事をして、目の前のソイツにはいきなりごめんなさーいと間の抜けた謝罪をした。謝る気なんて更々ございませんし。


その時、三橋が畠くん、と呟くのが聞こえたから、彼は畠くんと言うのだろう。

畠ね、覚えたよ。



「じゃっ、じゃあ失礼しますっ…!じゃあな三橋」

「おーさいならー」

「お前は馬鹿か」

「違う北條だ」

「帰れ」



じゃあ帰りまーすと言った時の安部の顔といったらそれはそれは爆笑もんだった。

ホントに帰った俺も俺だけどね。きっと今頃阿部は物凄く悪態をついているだろう。あ、俺に、ね。




*****





グラウンドに戻ると、グラ整はほとんど終わっていて、トンボを片付けている所だった。俺は何事もなかったかのようにベンチに赴いていると余所見していたせいか三星の選手の一人と肩がぶつかってしまった。



「っ、すみません」

「すまんなぁ、余所見しとったみたいやわぁ」



関西弁?と思ってその選手を見ると、思った以上に背が高くて、思わずでか!と言ってしまった。



「?何か言うた?」

「あ、いや、でかいなーと」

「ああ、そりゃどーも!にしてもアンタちっさいなぁ!」

「ちっさい言うな!よけーなお世話だっての!」

「すまんすまん。つい口が滑ってもーたわ。アンタらの学校、女子マネおってえぇなぁ。ごっつ羨ましいわぁ」

「俺らのマネをイカガワシイ目で見てんじゃねーよ!」

「それは誤解と偏見やわ!!」



やんややんやと意外に話が盛り上がってしまう。基本俺がボケで前の人がツッコミで。俺のボケにこんなに的確につっこんでくれるなんて…!



「北條くーん?」

「織ー田ー?」

「やべっ監督が怖い!!俺もう行くわ!」

「自分もチームメイトが呼んどるで行くわ、またなちび助ー」

「ちび言うなちび!身長高いからって羨ましくなんか…羨ましいんじゃバカー!」



なんやそれ!と笑ってからヒラヒラと手を振ってベンチに戻っていくのっぽ氏。彼はいいツッコミだった…!

にやにやしながらベンチに帰れば、こわーい顔をした(いや正確には黒の笑顔、)モモカンが仁王立ちで立っていた。



(やだ監督顔が仁王像みたいな顔してますよあはははー)

(そーねどっかの誰かさんがグラ整サボって走ってった挙げ句に敵のチームの人とだべってたからねー)

(誰ですかねーえへへへー)

(北條ってさあ)

(ん?)

(スゲェよな)

(そうだな)

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