▽ 07:一緒に寝た仲だろ!
「ただいまー」
「北條おっせーぞ。どこいってたんだよ」
「軽く用事的なー。あーいとぅいまてーん」
「果てしなくうざい!」
「誉め言葉誉め言葉」
部屋に戻ると、リラックスタイムの部員たちが畳の上でケータイをいじったりだの明日の荷物の整理だのといったフリーダム空間が作り上げられていた。流石男子、と思って自分も適当に寛ごうと荷物を鞄に投げ入れると、シガポが襖を開けて登場した。
いきなりの先生の登場に、皆は一気に佇まいを直す。
「さあ寝よう寝よう。寝るときはその日良かったことを考えながら寝るとドーパミンが出るからね」
「せんせー。人数分布団がしけそうに無いです」
「ん、ああ。そうかそうだったね。まだ君達にはわからないだろうけど…」
うーん、と腕を組んで感慨深い表情をしたシガポが言った言葉はとんでもないものだった。
「男女の仲は寝て初めて深くなるんだよね」
『っっ!!』
「だから皆には合宿中は二人で同じ布団で寝てもらおうと思って」
『は、はぁあああ!?』
皆の声が重なって響き渡った。そりゃ、むさ苦しい男子同士で一緒に寝るなんて嫌だわな。俺だって嫌だ。てか俺的にはそれ以前の問題なんだけど。
「このヤロー!」
「やっちまえ!」
一斉にシガポに枕を投げつける俺と花井。インチキ教師が!!
そこからシガポが花井にやり返して全員で枕投げに発展していった。てか、お約束だと思う。意外にシガポがノリノリで参戦してるのが逆に怖いけども、今日くらい無礼講でいいんじゃないかな、うん。
日頃の怨み辛みをこめて思いっきりぶん投げる。一定の人に、しかも何度も。
「阿部!死ね!天に召されろ!」
「何で俺なんだよ!」
「日頃の恨みとか恨みとか恨みとか恨みとか」
「余所見してんなよ北條!」
「ぎゃああ泉に水谷同盟組むなばかぁあ!!」
「ざまーみろ北條!」
「花井ママ助けてHelp me!」
「誰がママだアホ!!」
花井が怒って俺に枕をぶつける。俺はそれを避けて水谷から投げられたものを受けて逆に投げつけた(しかも頭に)ぐはっと言いながら倒れこむ水谷に俺は勝利を確信した。
後ろを狙う阿部、前にいる泉、横で怒ってる花井。あれ、俺もしかして四面楚歌!?
「わぁあマジゴメンって落ち着け!!」
「無理に決まってんだろ!」
*****
「いってー…マジあいつら容赦ねぇ…」
「まあ身から出た錆じゃねぇの?」
「え、巣山酷い」
「まあまあ。多分皆色々ストレス溜まってたんだって」
ぎゅうぎゅうに敷き詰められた布団の上で栄口に愚痴を溢していると巣山にビシッと言われてしまった(一応気にしてたのに)
結局、敷き布団一枚を共有して誰かと一緒に寝ることになったのだが…一日目は…
「北條ー!!寝よーぜ!」
「お前かよ田島ぁ!」
何だよー、俺と寝るのがそんなに嫌なのか?(その言い方かなり語弊があんだけど)とぶすりと言われてしまうと、仔犬みたいで何とも否定が出来なくなってしまう。
べ、別にそんなこと無いけどさ、と言うと、田島はぱぁっと顔を耀かせて早速布団に潜り込み、べしべしと自分の隣を叩いた。
「やっぱり田島やだぁあ!!巣山替わって是非替わって!!」
「俺だってやだよ!!」
「お前らヒデェエエ!!別にいいじゃねーかよ!シンボクを深めるために一緒に寝んだろ?男同士だしいーじゃねーかー!」
「田島、俺たち超ナカヨシじゃねーか。イマサラ親睦を深めあっても意味ねぇってうん」
「何でカタコト」
めそめそする田島を見兼ねて栄口が田島を励ますという微笑ましい光景をみられたけど、やっぱり田島じゃあ些か不安が残る。
一応こんなナリだけども、俺だってまあ………女だし。
「西広!お願い隣入れて!」
ずい、と身を乗り出して西広に頼み込む。近くにいた沖や花井がぎょ、と身を引いたのはどういうことだコノヤロウ。
「別にいいけどさ、もう決まったことだし…ごちゃごちゃするのも面倒じゃない?」
「じゃあ西広は田島と寝たい?」
「えー、別にそーゆーことじゃなくて…」
「お前田島の何が嫌なんだよ!?」
「何がってナニ…「そういうことじゃねーよ田島」
「え、何かやだ」
「はい田島と寝るのけってー」
「泉のアホぉおう!!」
ぺいっと泉に田島の布団に投げられる。べ、別に嫌じゃないんだけど、嫌じゃないんだけど…
「さぁ寝ようぜ!」
「何か爽やか過ぎていやだぁあああ!」
いい笑顔過ぎる田島が恐すぎるんですはい。
「田島狭い!!寄ってくれよ」
「しかたねーだろ狭いんだから」
布団の中でいちゃもんをつけあうと、周りから五月蝿い!と怒鳴り声が聞こえた。声からして花井だろうけど、お前明日田島と寝ろよマジで。
あー、マジで壁際でよかったと思う。壁にひっつけれるし、他の男子と離れられるし。
落ち着いてから暫くすると、隣からすー、すー、といった田島の寝息が聞こえてきた。くるりと田島の方を向くと気持ち良さそうに眠っている田島の顔が見えた。
「なんか悪ぃことしちまったなぁ…」
女だから、かもしれないが感情に左右された言動で田島を傷つけてしまったかもしれないと思うと、少し心が痛んだ。
頭に手をおいて撫でてみると、むずっと体を捩る田島がかわいくてつい保護者のような感覚が湧いた。
「(いーやつ、なんだけど)」
俺の防衛本能がコイツを拒んだと言っても過言じゃない、と、思う多分。
気付けば花井の上に折り重なって寝ている水谷。うわ、花井重そう、と思ったが、自分にもとばっちりが来そうな気がして、田島から離れて壁と仲良くした。
暫く九の字で寝転がっていると、モゾモゾと動く隣に気付いて隣をみれば、田島の顔がかなり至近距離にあって心臓が飛び上がった。え、マジ?と思ったのも束の間、にょき、と生えた腕が私の腰に回ってきたからさあ大変。
「〜〜っ!!」
夜中だから叫び声をあげるわけにはいかない。そうしている間にも田島は更に接近してぎゅーっと私を絞め始めた。ちょ、コアラじゃないんだから!なんてツッコミをしても意味はないわけで。
「(あーもうっ!だから田島の隣はやなんだよぉおお!!)」
いつもより速い心臓の鼓動と赤くなる自分の顔が気になってその日はちゃんと眠れなかった。
「(明日は絶対西広の隣にしよ…)」
やっと薄れかけてきた意識の中で私はそう誓った。
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