小説おおぶり | ナノ


▽ 06:山菜取りと危機一髪


掃除が終わってみんなで山菜取り。山菜取りなんて凄い自給自足!なんて感心しながら手元のゼンマイをちぎり、カゴに入れた。



「なーなー北條、これ食える?」

「おー、俺は食えないけど田島ならいけるって」

「そっか!!じゃあこれもいれとこー」

「ばっか田島!!それどう見ても毒キノコだろうが!北條も適当なこと言うな!」

「俺は食えないって言ったじゃんか花井のバカー!!」

「お前らうるせーって!」

「山はいくら騒いでも怒らないから大丈夫!」

「その前に俺が疲れる!」



知らん、とずんずん山道を登り進める。目の前に山菜図鑑と山菜らしき草とをにらめっこしている巣山に声をかけると、巣山が俺を見てこれどう思う?と首を傾げた。



「あー、それな、似てるから良く知らない人とか食べちゃうんだけど食べないほうがいいぜ。腹壊してもう大変」

「マジか。聞いて良かったー」

「こっちが食える方。この赤い部分がフェイクにはあって大体見落としちゃうんだよな」

「へーえ詳しいんだな」

「あ、それ俺も思った」

「俺こーゆーの大好き!つか俺昔は本の虫だったし」



北條が本の虫!!?と巣山と水谷が驚く。何だよ俺がただの野球馬鹿だとでも思ってたのか。



「だって自分で宣言してたじゃん」

「ぷっぷくぷー。言葉のあやだっつーの。一応人並みくらいには勉強できるかんな。…中学の時は」

「あれ、なんか不穏な一言が」

「とにかく!!山菜とんぞ山菜!」



晩飯少なかったらお前らがこまんだからな!と歩き出した俺が踏みしめたのは土や草じゃなくて空中で。

え、と思った瞬間には俺の体は下へと引っ張られていた。



「北條!」



来るべき運命に備えて目をつぶる余裕もなく、俺の視界はクリアなままだったけど、落下が止まったと言うことは混乱している俺の頭でも認識が出来た。

もう一度俺の名前を読んだのは花井で、それに続けて田島や水谷の声がする。

しっかりと握られたその腕の先はやっぱり花井で、引っ張りあげるから手伝ってくれ!と声を上げた。


引っ張り上げてもらった直後、「この馬鹿!!」と花井にお叱りを受けた。

この時の花井の表情は、怒りと心配と、安心が混ざったような、そんな表情をしていた。

それが余計に自分の罪悪感を駆り立てた。



「もしホントに落ちてたらどうすんだよ!!」

「ごめん…なさい」

「まあまあ花井!助かったんだし良かったじゃねーか」

「そうそう、ホントにビックリしたよー」



巣山と栄口が花井をたしなめる。今回は自分の不注意が巻き起こしたことだ。もし、本当に落ちてたら…。花井には感謝してもしきれない。

ずっと俯いたままの俺に、花井は少し戸惑いながら「お前が大丈夫なら良いんだ」と手を差し伸べた。俺は花井を見上げてから、くしゃりと笑ってその手を掴み返した。



「花井、ありがとな」

「お、おう」



ちょっと恥ずかしそうにこめかみを掻く花井を見て、俺はにぱっと笑った。

皆もマジでありがとな、と言うと、泉がボカッと俺の頭を殴った。いてー!と叫んで泉を睨むと「マジでビックリした。まあそれだけ叫べれば大丈夫だろ」とニヤリと笑った泉を見て俺もつられて笑う。


あぁ、本当に、良い仲間に巡り会えたと思うよ。



「にしても北條、お前軽いな。ちゃんと食ってんのかよ」

「まあこの身長だしなー、仕方なくね?てか花井がでかくてマッチョなんだよ」

「同感。確かにちっせーよな。160はあんだろ?」

「んー、多分」

「多分って…。筋肉質ではあるけど色々細っけーし。女みてーだよな」

「えっ、えー、花井くんそんな目で俺を見てたわけー?花井のスーケーベー」

「おま!助けてやったのにその言い種…!つか同性相手にそんな目でみっかアホ!」

「その辺は感謝してまーす!」



ピャーッと花井から逃げるように走る。待てコラァ!と青筋を浮かべてるからあー、捕まえられるのも時間の問題だよな、なんて思いながら俺の口端はやっぱり上がっていた。





*****





「山菜揚がったぜー!」

「おおお!!」

「じゃあ皆、そのままで良いから聞いてくれ」



先程取ってきた山菜が積まれた大皿を運ぼうとした所、田島が俺が持つー!!と皿をかっさらっていってしまった。アイツに持たせると不安なのに!と思ったのは俺だけじゃなかったようで、花井が監視役を務めてくれてるようだ。

料理の途中、シガポ…志賀先生がホルモン?の話を始めた。凄い知識だななんて感心しながら聞いていると、何やらそれは食事に関係があるようで、意味のわからないカタカナ単語のオンパレードの例らしい。俺の頭にはあんまり入ってこなかったけど、かいつまんでいうと…



「その3つのホルモンを出せるよーになれば俺たちは成功できるわけだな!」

「そ、その為に皆は一週間で食事の時反射でそのホルモンたちが出るように訓練してもらうんだ」

「やっと食べれる…!」



料理を作り終えてテーブルを囲んだ。シガポのうまそう!という言葉をキッカケに、部員たちがうまそう!と繰り返す。あ、今ホルモンでてんのかな。マジでうまそうになってきた。

田島にいたっては涎がね、うん、色々物語ってるよね。



「いただきます!」

「「「いただきます!!」」」



全員が関を切ったように山菜に群がっていく。俺はしたの方からガッツリと掴んで茶碗の上に乗っけた。俺は多分これだけで足りるけど、男子である皆は絶対に足りないだろう。
うめー!!と言いながら食いまくる食いまくる。見てるだけでお腹すいてくるかも。


10分もしないうちにすべての食器から中身が消えてしまった。美味しかったー!と腹を擦る部員たち。皆凄く満足そうだ。

流石だなと思ってシガポを見ると、やはりシガポはほくそ笑んでいた。




*****








「おなかいっぱーいだし、こんくらいが良い感じだよなー」



案の定少し冷えるが、そのうち気にならなくなるんだからと手袋をはめてバットを握る。

そう、毎日素振り100回が俺の日課。朝は起きられないから、夜に行っている。


ブン、ブンッという音が静かな庭に響き渡った。バットを握ってる時に幸せを感じるなんてやっぱり自分は相当野球馬鹿なんだと思った。



やっと掴めた、小さな希望。

例え叶わなくったって
野球ができるだけで私は幸せだ。

何度も諦めかけた夢

男子に追い付くために野球雑誌や文献を読み漁って、練習して練習して。女でも出来るよって認めて貰えるように。


でも性別の壁は思ったよりも高くて厚くて。





――湊音も甲子園行く!


――一緒に行こうね!






あの時の夢はやっぱり叶わないのかもしれないけど




素振りを終えて、手袋を取り、バットを持って部屋に戻ろうとした時、ス、とモモカンが現れた。

モモカンは私を見て、精が出るわね、と笑った。



「野球、好きですから」

「本当に、あなたみたいな選手が試合に出れないのが残念だわ」



私はなんと言えば良いのか分からなくて適当に笑顔を作ってその場を切り抜けた。


それは私自身が一番見に染みて感じてることだから。

どんなに努力しても、硬式野球は男子のものだった。



「でも、練試に出して貰えると言ってくださっただけで、十分です。いや、十分すぎる…」



私はぺこり、とお辞儀をして、その場を後にした。モモカンがその時、どんな表情をしてたかなんて、私には分からないけど。


十分、と呟いた言葉は、風にさらわれて消えてしまった。





―@風呂に入る前の出来事―


「ぎゃあ冷たー!でも気持ちいー!!」

泉「練習の後だから尚更っつーか!」

田「オレ頭からかぶりたいー!!」

巣「俺も俺も!!」

「坊主陣髪洗うの楽そー」

巣「お前らも髪切れば良いのに」

水「いやー、遠慮しとく」

「ちょ田島!俺にまで頭に水かけんなバカ!!俺は脚とかだけでいーんだから!服濡れるー!」

田「でもきもちーぞー!」

阿「別に此れから風呂だし良くねーか?」

「俺服張り付くのキライ!」

栄「確かに分かるかも」

花「お前ら元気だなぁ」

「そんな花井にビッシャー!!」

花「北條テメー!!」

「あ、シガポが読んでるー!BYE-BYE!!」

栄「あ、逃げた」



この後北條は皆が風呂に入り終わるまで待ってから入り、帰りました。

ちなみにうまい具合にシガポが言い訳しといてくれました。流石数学教師。



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