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ソファに座ってテレビを見ていると、玄関のドアの開く音がした。どうやら彼が遊びに来たようだ。

「おつかれさま」

彼は私の言葉には答えず黙ったままテレビを消すと、リモコンをテーブルに叩きつけた。
それから向き直った彼は怒りを湛えた瞳で私を睨み付ける。

「また、見てたの?」
「うん」

私が頷くと彼の顔が苦しそうに歪んだ。彼は私がHERO TVを見るのを嫌がる。
彼は勢いよく私の襟首をつかむと、感情のままに揺さぶり、怒鳴り散らした。

「なんで! どうして! 見ないでって言ってるのに!」
「……私が見たいから」

舌を噛まないように彼の動きが収まったのを見計らって答えると、彼の手はゆるゆると私の首へと移動した。そしてそのまま軽く力を込められる。

「どうして! 僕は、僕はヒーローじゃない!ヒーローになるべきじゃなかったんだ! それは君だって知ってるだろ!」
「でもそれは…」
「うるさい! エドワードのことだけじゃない! 今だって、こうして、君のこと、傷つけて、」

ぐっと力を入れられて呼吸が苦しくなる。
彼の顔は興奮しているのかほんのり紅潮しているのに、瞳はただ悲しみに染まっていた。
しかしそれも一瞬のことで、首が解放され、今度は肩を痛いくらいにつかまれ体重をかけられたときには、私を威圧しようとする目に変わっていた。

「ヒーローはこんなことしない。自分の大切な人を傷付けたり、ねえ、そうでしょななし!」
「…そうだね。今はヒーローじゃなくてもいいんじゃない? イワン」

そう言うと、彼は一変して私をぎゅっと抱きしめる。そして肩口に顔を埋めて何度も何度も私の名前を呼んだ。

「ななし、ななし、ななし」

そんな彼の頭を撫でてあげることしか私にはできない。
いつも一緒にいたのに、あの日だけ一緒にいなかった私を彼は責めない。
ヒーローにならなかった私を彼は責めない。
だから私は彼を責めることはできないし、赦しを求める彼にそれを与えることしかできないのだ。