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休憩室へ入ろうと扉へ手をかけたところで、中からななしとスカイハイさんの声が聞こえてきた。

「わぁ、キースさんのおっきい」
「ん、そうかな?」
「だって私の手と比べるとこんなに大きいですよ」

ちょっとまって。なんの話をしてるの?
そんな、まさか、だって、ななしは僕の彼女だ。

「折紙、どうしたんだ?中入んないのか?」

後から来たタイガーさんに肩を叩かれたけど、彼の言葉にさらに良からぬことを想像して泣きそうになった。
タイガーさんをじっと見るとぎょっとした顔をされたけど、すぐに中に二人がいることに気付いたみたいだった。

「ん、ななし、その動きやめてもらえないかい」
「えーなんでですか?」
「なんていうか、くすぐったい、むずむずするよ」
「それは私のせいじゃないです。キースさんのが大きいから…」

その言葉を聞いてとうとう涙がじわじわと溢れてきた。ななしとキースさんがそんな関係だったなんて…。ななしは僕じゃ満足できてなかったんだ。
ずずっと鼻をすするとタイガーさんが気まずそうにこちらを見ていた。

「あー、なんだ、なんていうか、その……」
「……いいですよ、気を使わなくて」

今すぐに部屋に入って止めるなんてことは僕には無理だ。だって僕とするときと態度が違いすぎる。僕との時はあんなに楽しそうじゃないのに。

「そんなに大きいかな?彼のだって大きいだろう?」
「そうですね。確かにイワンくんのも大きいですけど、キースさんの方が大きいですよ」

そう言って、ふふっと笑う声がして、目の前が真っ暗になった。

「でもやっぱり、私はイワンくんのが一番好きです」

耐えられなくなって乱暴にドアを開いて部屋に入る。

「それならなんで……!!」

浮気なんか、と続くはずだった言葉は出てこなかった。
二人は手と手を合わせて、る、だけ?

「な、何してたの」
「え、手の大きさ比べっこして、こうしてただけだよ?」

ななしはスカイハイさんの指の中程までしか届いていない指先を曲げたり伸ばしたりした。
え、じゃあ……。
安心してぼろぼろと涙がこぼれてくる。

「い、イワンくん?なんで泣いて……」

ななしが駆け寄ってきて、小さな手で僕の頬をつつむ。
まっすぐに僕を見てくるその目に心臓は高鳴り、涙も自然とひっこんだ。

「よかったな、折紙」

ななしを抱きしめようと思ったらタイガーさんにぽんと肩を叩かれた。
タイガーさんはそのままななしの頭に手をのせるとがしがしと撫でた。

「ったくお前は紛らわしいんだよ!」
「うわ、ちょっと、虎徹さん!」

タイガーさんから解放されたななしは、髪を手で直しながら笑って言った。

「そういえば虎徹さんのも大きいですよね」

そういう意味ではないとわかってはいるけど、今の僕へのダメージは計り知れない。

「う、ななしのばか!!」

みっともなく泣きながら走り去る。馬鹿馬鹿馬鹿!僕の気持ちも知らないで!

「イワンくん!?」
「あ、おい、お前何言ってんだよ!追いかけろ!んで、あいつのもほめてやれ!」
「は、はい!イワンくん!」

後ろでそう言ってるのが聞こえたけど、知るもんか!だってななしがいけないんだ、ななしが、ななしが……!

「イワンくん!」

ななしが後ろから走ってきて僕にぎゅっと抱きついた。それだけで僕は嬉しくなってしまうけど、素直に喜ぶのはちょっと嫌で、何も返事は返さない。

「あのね、私イワンくんのが一番好き!大きくて、優しくて、あったかくて、ほっとするの」

お腹に巻き付いた腕をそっとはずして、ななしに向き直る。

「ほんとに?」
「うん、こうやって握るのはイワンくんのがいい!」

僕の両手をななしが握る。
今度ベッドでも同じことを言ってほしいな、なんて思いながら、握られた両手を少し引いて、やわらかな唇にキスをした。