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(※夫婦設定、捏造注意)




 快感と幸福感で満たされた体からゆったりと快感が溢れ出ていっても、その隙間を埋めるように幸福感はじわりじわりと増すばかりでした。心から慕う人に抱かれること。これ以上の幸せなんてないと思えるような、そんな幸せを彼は私に与えてくれるのです。二人分の荒い呼吸を閉じ込めるように唇を触れ合わせて、鼻の触れ合う距離でじっと見つめ合いました。目が合うだけで思わずこぼれる笑み。穏やかで優しい双眼に見つめられ、まるで男を知らぬ少女のように、とくんと胸が高鳴りました。近頃ようやく体を重ねることに慣れてきたと自分では思っているのに、まったく可笑しな話です。
 彼はそっと私の額にキスをして、それからゆっくりと体を横たえました。彼の重みで少しばかりへこむベッド。それにつられて少しだけ、私の体も彼の方へと傾きます。つい先程まで一つになっていたにも関わらず、絶えず増してゆく愛おしさと、それから少しの寂しさ。未だ余韻の残る気だるい体を叱咤し、彼の肩と背中へ腕をまわして、胸へと顔を埋めました。触れ合う素肌と優しく頭を撫でてくれる大きな手に安らぎを感じます。汗ばんでしっとりとした胸板におでこと鼻の頭をぴたりとくっつけ、すうっと息を吸うと、普段の彼とはまた少し違った香りがしました。それがまた情事後であることを感じさせ、なんとも言えない気持ちになります。そんな私の気持ちを見透かしたのか、頭の上で彼が小さく笑った声が聞こえたかと思うと、頭のてっぺんに唇が降ってきて、ゆったりした手つきで髪を梳かれました。それから頭をそっと抱え込むように抱きしめられ、彼の脚が私の脚に絡められ、より一層、体は密着しました。彼の腕に頭を預けながら、愛されていることを実感し、この上ないしあわせを感じました。
 もう一度、彼の香りを胸一杯に吸い込んで、幸せな溜息をつきながら顔をあげると、ぼんやりとした明かりに煌めく優しい金色と視線が交わりました。しばし見つめ合いましたが、なんとなく、くちびるが物寂しくなって、キスをしたくなって、キスを強請るように、背中にまわしていた手を彼の頬へと移動させました。すると、彼もまた髪を梳いていた手を私の頬へ添え、どちらともなく触れるだけの口づけを交わしました。すぐにくちびるは離れましたが、またすぐに、今度は少し角度を変えて触れ合います。けれど決して深い口づけにはならず、お互いの唇をはさんで、柔らかさを感じ、味わうような口づけを楽しみました。名残惜しさを残しつつ唇が離れると、ちゅっと可愛らしい音が響きました。
 それから、一体何度目になるのでしょうか。ふたたび近い距離で目があって、私たちはただ静かにじっと見つめ合いました。

「ななし」

 しばらくの間、呼吸と衣擦れの音しか存在しなかったこの空間に、じんわりと暖かな声が投げ入れられました。私はただ、彼を見つめ返すことでその返答とします。彼は分かったように柔らかく目を細め、私の頬を、耳を、いたずらに撫ぜて、こつんと優しく額と額をくっつけました。なんとなく嬉しくなって、小さな笑い声とともに唇が弧を描きます。間近で彼の笑った気配がしました。
 指と指を絡め、また軽くキスをして、なんと幸せな瞬間なのでしょうか。つないだ手をおなかのあたりへ導きます。神からの授かりものが宿ることを祈りながら下腹部へ彼の手を添え、その手を包むように私の手を重ね合わせました。私の手では包みきれないような大きな手。優しく、しかし時には私の内に潜む情欲を引き出しもする、暖かい手。その手が、赤子の頭を撫でる日が来るのを待ち遠しく思います。
 彼の名を呼んで、またひとつ口づけを。唇の触れ合わないぎりぎりの距離をしばし保って、もう一度口づけを。私はいま、最上級の幸せを感じていますが、それ以上の幸せがこの先には待っているのでしょう。重ねた手に、すこしだけ、力をこめました。