※年齢操作(成人)/同棲



「ただいまー」

とんとん、うまく脱げない靴の踵を玄関の段差に引っ掻けて乱暴に脱ぎ捨てる。
歩きすぎたせいか、床を歩く足の裏がじんじんする。
もう寝ちゃったかな。
いや、でも明かりはついてる。
ふてくされてるかもしれない。
はぁー、深くため息をついてからリビングに足を踏み入れた。

「…あ。おかえり、なのだよ」

テレビのコメディアンの笑い声。
俺が買い置きしてた酎ハイの缶が一本、二本とテーブルにならんでいる。
カランコロンとご丁寧に丸い氷の入った空のコップを鳴らしながら、惚けた顔で真ちゃんは振り返った。

「あー…ただいま」

完全に出来上がってらっしゃる。
俺は苦笑いしてお土産のおしるこ缶を置いた。







真ちゃんにはちょっとした悪癖がある。
なにか気に入らないことがあるとすぐお酒を飲む。
そんなに強い訳じゃないし、いつもはすましてたしなむ程度なのだよって顔してるけど。
「そういう」時はもう、ペースなんて知ったことじゃないってくらいがんがんいく。
もうもんのすごい勢いで。
俺も結構ぐいぐいいく方だとは思うけど、正直やばくねって思うくらい。
まあ案の定ほったらかしたら最後、ひたすらトイレで介抱しなくちゃならなくなるんだけど。
それでうちの冷蔵庫にはあまりお酒の類はない。
…のだが、三日前くらいに買い置きしてたのをすっかり失念していた。
幸いまだ二本目には手を出してない。

「あーもー。それ俺のだから。勝手に飲んじゃ駄目っしょ」
「冷蔵庫にいれるのがわるい。そんなに言うならじぶんのへやにおいとけ」

小言を言う俺に、真ちゃんは微妙に明るい声で返す。
んな横暴な。
長い間つけっぱなしだったであろうテレビの音量を少しさげる。

「きょう、遅かったな。つかまったのか?」
「うーん…うん」

真ちゃんの質問に歯切れ悪く答える。
今日はサークル仲間と飲み会だから、とは伝えておいた。
家でゆっくりできると思ってたので、大方それが気に入らなくて真ちゃんは一人ふてくされていたのだろう。
真ちゃんは途端に不機嫌そうな顔をした。

「またはでな女にでも言いよられたのか。ばかみたいにほいほいついて行ったのではあるまいな」
「してないよ!なんだよ、真ちゃんだって同期の子に飲みに誘われたりメアド聞かれたりしまくってんだろ。俺、知ってんだかんな」

ちょっと苛ついて少し乱暴に言うと、真ちゃんはびっくりしたみたいに俺をみた。
なんだよ、そんな心外だ、みたいな顔。
そりゃあ勿論「結構です」って無愛想に断る真ちゃんも見てるけど。
苛々する。

「…なにかあったのか?」
「…別に」
「ないということはないだろう」

酔っぱらってる真ちゃんは、常に明るい。
怒るでもなく黙りこんだ俺の手を引っ張って、上目遣いに顔を覗きこんでくる。
真っ赤な顔をしながらあまり働いていないだろう頭で、いっちょまえに心配してくるのだから、本当に何といったらいいのやら。
もうなんとでもなれ。

「…同じサークルの子がさぁ。なんか月バスとか読む子でさぁ。真ちゃんのことカッコいい、とかなんとかいってて。つっても帝光時代のしか知らないみたいなんだけど。んで、俺と真ちゃんが知り合いだってわかった途端紹介してくれだの連絡先教えてだのさぁ。俺はいつからお前と仲良くなったんだっつって…。はぁー、かっこわりぃ」

なんだかいいながらいたたまれなくなって、真ちゃんの肩に頭を乗っけた。
真ちゃんは頬を擦り寄せてもしゃもしゃと頭を撫でた。
このご機嫌ちゃんめ。

「高校のかつやくを知らないなんてもったいない。たしか、お前ものってたな」
「真ちゃんのオマケだけどな」
「あのときは記念!とかなんとかいって二冊かってたな」
「なんで覚えてんだよ…」

ふふ、と耳元で笑われる。
わしゃわしゃ髪の毛を荒らしていた指先が、いつの間にかうなじあたりを撫でる。

「なんでもなにも、ぜんぶ覚えてるのだよ。あたりまえなのだよ」
「…さいですか」

ふふんと得意気な真ちゃんが可愛くて、なんだか馬鹿らしくなって俺も笑った。

「真ちゃんてば健気でかわいーね」

にやにや笑えば、真ちゃんは「なに?お前のほうがかわいいのだよ」とムッとした。
アルコールに溶けた声にはまったく説得力なんてない。

「いーや、真ちゃんがかわいいね。俺もう超上機嫌。真ちゃんはかわいい上に俺のこと超好きなんだもんねー」

調子にのってからから笑う。
と、急に襟首を引っ張られてひっぺがされた。
ぐえっとアホみたいな声が出る。
真ちゃんはむんずと俺の頭を掴んで、顔が近づく。
あ、これキスされんのかな。
と思ったら、むにゅっとした感触が鼻先に当たった。

「…真ちゃん。ずれてる、ずれてる」
「ん」

気にもとめずにむにむに唇を押し付けて、それからかぷっと甘く噛まれた。
地味に若干痛い。
それで満足したのか、真ちゃんは手を離した。

「鼻、あかいぞ」
「…誰のせいだ、誰の」

ちょっと軽く睨むと、真ちゃんはふにゃりと笑った。

「ほら。やっぱりかわいいのだよ、かずなり」

「かずなり」に含まれたたくさんの甘さに、真ちゃんが最高に可愛いと改めて思ったし俺って愛されてるなぁと盛大ににやけた。



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