こんな事ってあるんだね。世間は狭いだ何だって良く言われるけれど、ホントにその通りだと思うよ。

「でもOLさん変わらないよな〜、どうせ今でも飲んだくれて道路とかで寝てんだろ?」
「寝てないっ!!!道路は無い!流石にこの年で道路で寝てたら笑えない!」
「でもお前良く朝に電話して来て、迎えに来いとか言ってたじゃん」
「だってわたしあんたの事タクシーだと思ってたし」
「ひでぇ!」

今日は沖田さんに誘われて、会社の後で近所の飲み屋へと集っていた。
参加するメンバーは会社でも同じ顔ぶれで、既にべろべろになっている永倉さんと原田さんと藤堂くん。そして沖田さんが何故か目の前でぶすっとしていて、その隣りでは斎藤さんがジッと机の上にあるツマミを凝視している。序に言うと土方さんは今日はお仕事があるからと会社に残った。お疲れ様です部長。
わたしはと言うと、通されたテーブルの真後ろに居た大学時代の友人と昔話に華を咲かせていた。

「しかし…ちゃんとOLやってんだ、偉いじゃん」
「まあねぇ、ほらわたし結構やる時はやってたじゃない」
「ああ、サボりまくって徹夜でレポート仕上げなきゃいけないって時もちゃんと仕上げてたしな」
「…あの日は、今直ぐ世界が滅亡して欲しいからってレポートやりながら流れ星探してた」

「ははは、あったあった!」と膝を叩きながら笑うこの男は大学時代のわたしを知っている。というか一番よく酒を飲み交わしたというまさに戦友的ポジションの奴だ。凄くいい奴だとわたしは今でも思ってる。
偶に連絡が来るけれど、お互いに社会人になってからは時間が合わず遊べなかった。勿論こいつの他にもグループには人が居たけれど、どうやら奴も奴で会社の飲み会があって此処に来たらしい。


「…………」
「…………」

そして、目の前でずーっと無言を貫いている斎藤さんと沖田さん。
どうしたんだろう。確かにいつも余り喋る方じゃない斎藤さんはさて置き、いつもいつもわたしをからかい倒してくる沖田さんに居たっては、纏うオーラが若干恐い。
気にしないように後ろを向いて(ここは座敷)話していたんだけれど、背中に刺さる視線がそろそろ痛くなってきたので、そーっと振り返ると。

「ねぇ、OLさんちゃん」
「へい!親分!どうしたんですか!?もう酔っちゃいました?立ち上がる殺気の色が真っ黒だぞ☆」
「僕がこれくらいのお酒で酔う訳ないでしょ?バカじゃない?…そうじゃないよ。其れ、誰なの?そろそろ僕にも紹介してくれていいんじゃない?」
「あ、あ、すみませんっ!バカですみませんっ!」

にっこりと笑って言った沖田さんは、そのまま踏ん反り返って後ろに身体を傾ける。ああ、あれですね。所謂見下し目線ですね。どうしよう…超似合う…じゃない、凄く恐い!
やっぱり飲み会の席でもネクタイを締めたままそんな黒さを前面に押し出してくる沖田さんとは対照的に、ここまでずーーーっとお酒を無言で飲み続けている斎藤さんは無反応のままだった。少しネクタイが緩められているし、上着も隣りに綺麗に畳まれていると言う事は、斎藤さんは結構酔って来ているんだと理解する。するけど…

やっぱり、ジッと机の上のツマミを食べるわけでも無くただ凝視しているだけだった。

「あ、すんません。名乗り遅れました!オレ、こいつとは大学一緒で、良く飲みに言ってたんスよー!所謂悪友ってヤツです!」
「へえ、大学時代のお友達なんだ。僕は沖田って言うんだけど、OLさんちゃんの部署の先輩みたいなものかなぁ」
「親分はね、すっごいドエスなんだよ、」
「何か言った?」
「へいっ!親分!わたし黙りますねっ!」

奴が、ペコリと頭を下げたのを見た沖田さんはやっぱり踏ん反り返ったまま「よろしくね」といつもより数段低い声でニッと笑った。店の薄暗い照明も相まってその影りの着いた笑顔は、まさに大魔王と言った感じ。
でも、こうして大学時代の同級生を見て思ったのは、目の前の二人…いや、ここにいるイケメンバー陣がどれだけエリートかって事。
沖田さんがビールの瓶を掴んだ左手に光る腕時計や、斎藤さんのネクタイピンとか見ていると、やっぱり同級生が見につけている物とは一味も二味も違う。こりゃ、女子社員が方って置かない訳だね。うん。

「でもOLさんって酔うと面倒くさく無いですか?昔からほんっとこいつの酒癖が酷いって仲間内でも評判で」
「おい、止めろ!わたしの過去の失敗談を酒の肴にしないでよっ!」
「どうせこの人達にも、既にあの醜態晒してるんだろ〜?」
「さ!!!晒して……ないし、」
「僕はあんまり見た事ないかな。今まで見た中では新八さん…あ、あっちで暴れてる筋肉ダルマみたいな人ね…の方がまだ厄介だよ」
「ほらね!ほらね!わたしだって日々成長してるんだから!」

こういう時に避けなくてはいけないのは、わたしの昔ながらの仲間内で語り継がれてきた「みょうじOLさんの失敗談(酒限定)」だ。今までも集れば集るだけそのネタは周りから勝手に披露されてきた。その度に死にたくなるくらいの醜態を晒されて半ばキレながら「やめろぉおおおおっ!!!」とこいつ等を血祭りに上げてきたのだ。
それを…今、この場で!しかも斎藤さんの前でするとか勘弁して下さいっ!本当に、中ジョッキ一杯奢るから!!!

慌てて見ても、するすると動く友達の口は止らない。
例えば、帰り道に自販機に抱きついて「わたしを愛してよぉお!」と号泣した事とか、居酒屋で暴れて出禁…所謂出入り禁止になった店が何個もあるとか。テキーラ一気飲みして急性アルコール中毒で救急車呼ばれたとか…。

そしてその話を聞いていた沖田さんは大爆笑。
片手で目元を押さえてばんばんと畳を殴っていた。どんなプレイだこれぇええ!!!

と、その時。
今まで沈黙を保っていた斎藤さんが突然口を開いた。

「それとか、あとはー、」
「やめてぇええええ!!!」


「その程度か、」


ぴたりと止る時間。
室内にはわいわいと盛り上がっている三馬鹿…失礼。お三方や友達の会社の方々も居たからそこ等彼処から楽しそうな声が聞こえてはいるけれど、この辺り…というか斎藤さんを中心とした一角からわたしと友達までの空間で、確かに時が止まったのだ。


「え、斎藤さ、」
「OLさんの酒での失態だと?そんな程度ならまだマシな方だと言っている」
「え、ちょ、え、」
「先月、俺と飲んだ時に、手洗いに立った筈のOLさんがいつまで立っても戻らぬ故、探しに出たら店先にあった狸の置物に説教をしていた…」

「え、」
「は、」
「ぶっ!」


突然話し出したと思ったら、ここ最近飲みに行った時にわたしがした(らしい)珍プレイを語りだした斎藤さん。
その重そうな瞼は、わたしじゃなくてその友達に向けられていて。更に睨む様な…いや、若干据わっている様にも見える瞳が真っ直ぐに表していた色は…

「あげればまだまだある。それに対応出来なければOLさんと酒を飲む等…出来ぬだろうな、」
「え…、は、はあ」
「張り合ってる張り合ってる…はじめ君それじゃあまるで威嚇…ぶふっ!!!」

ふ、と鼻で笑って見せた斎藤さんはまるで友人と張り合う様に机に肘を置きグラスを傾けて見せた。そして一方的に目から火花を散らしている斎藤さんを目の当たりにした友人は当然ポカンと口を開けている。それを見て楽しそうな沖田さん。そして…


わたしはというと。


「わたし…そんな、そんな恥ずかしい事を…斎藤さんの、前で、え、ちょっと待って、記憶に無いんですけど…え、?狸と会話…?料理場に殴りこみ…?え?何、斎藤さんなんて言った…?」

その場に両手を着きだらだらと冷や汗をかいていた。

「OLさん、この人すげぇ恐い…んだけど、おい、ねえ聞いてる?」
「待って、わたしそれ所じゃないの…、え、わたし死ぬべき…?」

斎藤さんが、未だ止らぬ口で「OLさんは更に家に着くと鍵と間違え裂けるチーズを…」とか言ってるのが遠くで聞こえるけど、それって斎藤さんの話しじゃなかったっけ。とか考えるだけでわたしは何も言えなかった。

そこでずっと爆笑していた沖田さんが薄っすらと涙を浮かべて締めに掛かる。

「まぁそう言う事でさ、約一名がヤキモチ妬いちゃうから、キミあっちで大人しく飲んでてね、僕はとばっちりなんてごめんだよ」
「は、はい!じゃ、じゃあまたな、OLさん!酒も程ほどにしろよ!」

ついに斎藤さんのマシンガントークに滅入って来たらしい友達がくるりと身体を返しあちらの賑わいに逃げたところで、わたしは身体を起こし目の前で半分飲みになっていた自分のグラスを仰ぎ、それを机に叩き付けた。顔は、真っ赤だ。これが酔いから来ているのか、羞恥からきているのか分からない。


「OLさん。いいか、あんたは飲みすぎだ。俺があれほど控えろと言っただろう。そもそもあんたは異性に対して無防備過ぎる、例え昔馴染みと言えどもいつまで学生気分で居るつもりだ、もう俺達は己の行動ひとつひとつに責任を持って…」
「ささささ、斎藤さん、わたし…なんてご迷惑を、」

何故か、わたしの珍プレイ晒しからただの説教へと変わっている斎藤さんの言葉を遮り慌てた様に頭を下げる。


「いや…」


しかし、斎藤さんはゆっくりと身体を乗りだし、そんなわたしの頭に手を伸ばした。


「それでも、あんたと飲む酒はどの席で振舞われる酒より旨く感じるのだ…。いつも楽しませて貰ってる。礼を言う。ありがとう」
「さ、斎藤さん…、」

ふわりと撫でられた頭と、顔を上げた時に見えた斎藤さんの笑顔で一気に酔いが回ってしまった。

「あーあ、結局僕がとばっちり…」

隣りの沖田さんがやっぱり詰らなさそうにお酒を飲んで小さくごちた。





珍プレイ好プレイ

(でも一つ言わせて頂くと、裂けるチーズネタは斎藤さんですよ、)
(俺がその様な失態を犯す筈が無いだろう、あんたがした事だ)
(いやいや、そこだけは違いますって、)
(断じて無い!)

(どっちにしろ…同じ穴のムジナじゃない…)


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