ひゅんっ


「ああっ!くやし〜!また外れた〜!」


ひゅんっ


「っ!…左に逸れたか」

人間の縁日は面白いものがたくさんある。
今、私とはじめ君が遊んでいるのは、おもちゃの矢で棚の上にある小さな的を射落とす『射的』という屋台。
賞品として飾ってあったうさぎの人形がほしくて挑戦を続けているのだけれど…。
見ている分には簡単そうな『射的』は遊んでみると意外と難しくて、五本で一組の矢はどれも的をかすりもしなかった。

「おじさん、矢、もう一組ちょうだい!」
「あいよ!お姉ちゃん、頑張るねぇ」
「店主、俺にももう一組頼む」
「おっ!そうこなくちゃ、お兄ちゃん!お姉ちゃんにいいところ見せねぇとな!」


ひゅんっ


「ああっ!」

追加で買った矢の一本目は的の僅か右をかすめた。

「惜しかったな」
「んもう!弓って苦手だわ。鉄砲なら自信があるのに!」

あーあ、不知火から借りた鉄砲、一丁持ってくれば良かったわ。
あれなら一発で的を落とせるのに。

「…鉄砲?あんたは鉄砲を使えるのか?」

訝るようなはじめ君の口調にハッとする。
つい口が滑ってしまったけれど、不審に思われた?うん、このはじめ君の顔、絶対不審に思われた!!
馬鹿馬鹿、なまえの馬鹿!普通の女子が鉄砲なんて打つはずないじゃない!
なんとか誤魔化さないと…。

「や、やだ!本物の鉄砲なんて使えないわ!アハハ。…み、みずでっぽう!水鉄砲なら自信があるっていう意味よ。アハ、アハハハ」
「…水鉄砲か。なるほどな」

背中に冷や汗が伝うのを感じながら必死に笑って誤魔化すと、はじめ君は納得した様子で頷いてくれた。

「俺は弓も水鉄砲もあまり得手ではない。俺が得意と言えるのは刀だけだ」

あ…。

今、胸がキュッとした。

はじめ君はたぶんすごく強い(人間にしては、ってことだけど)。さっきの虫けらみたいな男を退治してくれたときにそう感じた。
そのはじめ君が弓も水鉄砲も苦手、得意なのは刀だけ、なんて。
なんだか、その不器用な感じがすごく可愛いかも。

思わずぽーっと見ていたら、はじめ君は頬を赤くして、私から目を逸らすように視線を的に移し、きりりと弓を引いた。
おもちゃの弓を引いてこんなに凛々しく見える殿方なんて、鬼にも人間にもなかなかいないと思う。
横顔、綺麗だなぁ…。

「当たった」
「えっ?」

端正な横顔にすっかり見惚れていた私は、はじめ君が小さく息を飲み、ポツリと呟いた一言を聞き洩らしてしまった。

「当たった、と言ったのだ」
「ええっ!?本当に!?」

びっくりして確認すると、棚の上の的は見事に倒れている。

「すごい!!はじめ君、すごい!!」
「…褒められるほどの腕ではない。最後の一本で漸く当たったのだ」
「それでもすごいわ!私、一本も当たらなかったもの!」

照れくさそうに目を逸らして謙遜するはじめ君に、屋台のおじさんが賞品のうさぎの人形を手渡した。
はじめ君はその人形を見て少し誇らしげに微笑むと、それを無言で私に差し出してくる。

「えっ?…くれるの?」
「俺が持っていても仕方がないだろう。………あんたのために獲ったのだ」

はじめ君……、その台詞はずるいよ。
はじめ君の顔は耳まで真っ赤になっていた。私も頬がすごく熱いから、きっと同じように赤面してるんだと思う。
人形を受け取るとき、一瞬触れたはじめ君の指先はひやりと冷たかった。

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