そして今宵は月の無い夜・・・朔。


月に一度のこの日は神社の周りの雰囲気がいつもと違う。


決定的な事は草木も眠る丑三つ刻・・神社の裏山にどこからともなく現れるのか多くの猫達。


その中央にいるのが涼しげな絽の着物姿のはじめさん・・いや今宵はにゃじめくんと呼ぶのが相応しい。


姿形は人間のままなのに、纏っているオーラのせいなのだろうか・・取り巻いている猫達・・特にメス猫達がうっとりしているように見える・・気に入らないけどね。


日頃は私も近づくことや見る事さえ許されていないのだが、今宵だけは神社の奥の部屋からこっそりなら眺めてる事を許された。


「では今夜も集会を始める。」


にゃじめくんの一言でざわめきはさっと消え、猫達はじっとにゃじめくんを見ている。


「最初に、佐々木さん家の三毛・・この間の話は本当に役に立ったぞ。改めて礼を言う。」


「はい、お役に立てて嬉しいにゃん。あのじいさんは口では偉そうなことばかり言うくせに、ケチでご飯も猫まんまだけなんでしゅ・・たまには目刺しの一匹くらいくれてもいいのにって思ってましたから・・奥さんに隠れて女を二丁目のマンションに囲っているとお知らせしたわけでしゅ。」


「ああ、散々嫌味を聞かされた後・・・ところで二丁目の○×マンションでお見かけしましたが〜って言ってやったら真っ青になって・・それから何も言わなくなったからな。」


「島田家のたまもご苦労。」


「ふふふ、あのおやじは糖尿なのに奥さんに隠れて甘い物を食べてるにゃん。お家では奥さんがきちんとカロリー計算をした食事をしているけど・・コンビニで買い食いしたり、コーヒーにお砂糖を大匙5杯以上は入れてるにゃん。」


「他にも何かあったら言ってくれ。」


「にゃ〜い」


一斉に肉球くっきりの手が上がった。






佐々木さん達が急に態度を変えたのって・・これか・・。


確かに近隣のにゃんこたちを従えてるにゃじめくんは最強だわ。


それから今度は猫達のお悩み相談を優しい眼差しを向けながら真剣に受けているにゃじめくん


そんな中、にゃじめくんが座り込んでいるせいで乱れた着物の裾から見えている足に突然、何匹もの猫達がすり寄って来て舐めあげた。


ビク〜ン・・髪は薄紫に・・ぴょんと立った耳・・ふさふさの尻尾・・本来の姿になって行くにゃじめくん。


その姿はこの集会の長としては相応しいのでしょうけど・・未だメス猫を侍らせている事が耐えられなくて私はその場を離れて、部屋へ戻ってしまいました。


しばらくしてそっと布団に潜り込んでくるはじめさん・・。

「なまえ、どうだった?」


私はどうしてもメス猫にベタベタされていたはじめさんの姿がちらついて寝たふりを決め込んだ。


「なんだ寝てしまったのか・・。」


そう言いながらもしゅるしゅる・・・ん?着物を脱いでるし・・。


真っ先に首元にあてられたざらざら・・下から舐めあげられると・・


「あ・・。」


思わず声がでちゃった。


「やっぱり起きてるにゃん。」


得意げに肉球で胸元に触れるあなた・・鋭い爪をしっかり隠してそっとそっと傷つけないように。


「だって・・メス猫ちゃん達が・・。」


「やはりな。いつもは寄り付かないようにさせているのだが・・今宵はあんたが見ていたから・・わざとだった・・・予想通り妬きもちを焼くあんたが見られて大満足だ。」


「嘘・・それにしては嬉しそうだったじゃない、本来の姿に戻ってたし・・。」


「まさか、あんた以外の女などまるで興味などはない。見て見ろ・・こうしてあんたに触れるだけで・・ほら。」


黒光りした尻尾がいつもより膨れて私の身体に巻き付いて来る。


いつの間にか私も着物を脱がされ素肌にも触れたもふもふ感は、さしずめ女優さんが裸の上にミンクとかの高級コートを羽織ったような感覚とでも言おうかしら・・ゴージャス。


でもそこは生きている毛皮ですからね・・しっとり濡れそぼって・・じゃ香のような香りに包まれる。


「はじめさん、これから夏場にかけてこのままでは暑くないの?」


ずっと聞いてみたかった素朴な質問をぶつけてみると


「大丈夫だ、俺は普通の猫とは違って身体の熱を上手くコントロール出来るんだ。」


「へえ〜、それは便利ね・・安心した。」


「いや安心するのは早いぞ・・熱を下げるにはこうして・こうして・・。


わあ〜・・・・聞くんじゃなかった・・。


次の朝、すっかり熱をエネルギーに変えて暴れまくった猫又様は、早朝からそれは涼しい顔で境内を掃いておりましたとさ。





(終り&予告) []


戻る