「っくく…やっぱり笑える…。」
斎「笑うな!」
笑うなって無理だよ。
だってさっきの斎藤君の顔。
私が付き合ってと言った後、斎藤君は目を丸くさせて固まっていた。
斎藤君のあんな表情誰が見たことがあるだろう?
彼の表情を十分堪能した後に勉強を教えてくれたお礼に何か奢るからと告げた私は多分いい笑顔だったと思う。
斎藤君は口を少し開いたまま何も言えず、目だけをきょろきょろとさせて黙って立ちあがった。
そして私達は自動販売機が置いてある場所まで移動してきたのだ。
ジュースを買って渡すと近くに設置されている椅子に並んで座った。
「うそうそ。笑わないです。怒らないで。」
斎「怒ってなどいない。」
「ふーん?」
斎「…。」
「あはは。斎藤君っておもしろいんだね。」
斎「あんたは意外と意地悪なのだな。」
「へへ。よく言われる。」
ジュースを一口飲んでテーブルに置いた。
両手を頭の上に伸ばして体をストレッチする。勉強後の体には気持ちいい。
「でも本当に助かった。ありがとう斎藤君。」
斎「いや、たいしたことはしていない。あんたは理解が早かったから本来俺は必要ないだろう。」
「ううん。そんなことない。やっぱり一緒に勉強するっていいもんだよ。」
斎「そ…そうか?」
「でも斎藤君って苦手科目ないよね。解けない問題なんてなさそう。」
もう一度ジュースに手を伸ばし口をつけると今度は斎藤君が缶をテーブルに置いた。
その音に思わず彼の方を見ると彼もこちらを見ていてばちりと目が合う。
何だろう。
よくわからないけど逸らせない。
そのまま固まっていると斎藤君が少しだけ視線をずらした。
まるで魔法から解けたかのように私の体も自由になる。
斎「俺にもわからないことぐらいある。」
「え?何何?教えてよ。」
斎「こういう時、どんな会話をすればいいのか。」
「へ?」
斎「どうすればあんたを楽しませることができて、どうすればあんたに近づくことができるのか。」
「斎藤君?」
斎「俺にはあんたの心はわからない。」
私は斎藤君が何を言っているのかがわからな…くないかも?
これって、少なくとも斎藤君は私と楽しくお話がしたいってことだし、えっと、そのつまり。
斎「あんたの心はあんたにしかわからないからだ。」
「それは…。」
斎「なまえ。」
突然呼ばれた名前。
私の名前知ってたんだ。
斎「またこうして…話をしてくれるだろうか?」
「うん。」
斎「そうか。」
そう言って笑った彼に胸がはねた。
まだそれが好きかどうかはわからないけど、でも私ももっと話したい。
もっともっと知りたい。
「斎藤君…。」
斎「何だろうか?」
「テストまで、こうして放課後勉強を教えてくれないかな?」
斎「俺でよければ。」
「テストが終わったら、二人でどこかに遊びにいきませんか?」
斎「っ!」
それまで視線をずらしていた斎藤君が再び私の目を捉える。
吸い込まれるような綺麗な青だった。
斎「…俺はこういうことに慣れていない。どこへ行くかは相談してもいいだろうか?」
「もちろん。」
飲み終わったジュースの缶を捨て、私達は教室へと戻った。
一人じゃない帰り道はなんだかくすぐったくて、だけどあったかかった。
学年一位の秀才君はこれから解けなかった問題にとりかかるらしい。
私自身もよくわかっていないんだけど、きっと斎藤君なら解けるんじゃないかなって思って。
私は少し前を歩く彼のシャツの裾を掴んで微笑んだ。
――解答は二人の未来にある――
斎(!!)
(どうしたの?)
斎(…そんなとこ掴むな。こっちにしておけ。)
(!!手…繋いだ!!!)
終
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