「なんだァ、なまえ。薙刀なんて古臭ェ得物持って来やがって。俺様が貸してやった銃、持ってこなかったのかよ?」
「フンッ。うるさいわね、不知火。良いのよ、私はこれで。鉄砲なんて打ったら、音で敵がぞろぞろ集まってきちゃうじゃない」
「フンッ。なかなか鋭いな、なまえ。流石は我が妹と褒めてやろう」

月の綺麗な夜、私は千景兄様達と一緒に人間の将軍が居るという城に忍び込んでいた。
今夜、ここに東の鬼の一族の娘、雪村千鶴が来るらしい。
彼女を捕えている新選組と共に。

「大丈夫ですか、なまえ?」

兄様や不知火には気付かれないように、天霧が私にそっと声を掛けてくれた。

「大丈夫よ」

何が大丈夫なのか、具体的に言わなくても伝わる。
天霧ははじめ君のことを兄様や不知火に黙っていてくれた。
苦手だった天霧が初めて見せた優しさが嬉しかった。
だけど、はじめ君が飴細工の屋台で私を気遣ってくれたときのように、嬉しいのに泣きたいような気持ちにはならなかった。

「現れたぞ」

兄様の声に我に返り、下を見ると男装をした女の子が目に入った。

「あの子が雪村千鶴?」

鬼にしては足も遅くて体力もなさそうで…、まるで人間みたいだと思った。
兄様達と私は雪村千鶴がひとりになるのを待った。

「私が行ってくるわ。怖い顔の男が行くより、女同士のほうが安心するでしょ?」
「なまえ、待たぬか!」

兄様が止めたのは聞こえていたけど、私は正直だいぶ焦っていた。
天霧が教えてくれたことが、ずっと頭を占めていたから。

『雪村千鶴は新選組の元にいます。そして斎藤一はその新選組の幹部です』

早く雪村千鶴を救出して、この場を離れたい。
はじめ君に鉢合わせしてしまわないうちに。

「あなたが雪村千鶴さん?」

塀の上からすとんと目の前に降り立った私を見て、雪村千鶴は怯えたような顔をした。

「あなたは何者なんですか?どうして私の名を?」
「初めまして。私は西国の鬼の頭領の妹、風間なまえ。あなたを助けに来たのよ」
「鬼?私を助けに?」
「ええ。さ、急いで」

雪村千鶴はなぜか混乱している様子だったけど、ぐずぐずしてたら新選組が来てしまう。

「いやっ!」
「えっ?」

「こっちよ」と手を引いて行こうとしたら、雪村千鶴はなぜか私の手を振り払った。

「どうして…?」
「それはこっちの台詞です!私を何処へ連れて行こうとしてるんですか?」

雪村千鶴は敵意をむき出しにして、腰の小太刀に手を掛けた。

あら?なんだか話が噛み合っていないようだけれど…?

「鬼違いじゃないわよね?あなた雪村千鶴さんでしょ?」
「そうですけど」
「じゃあ、新選組に捕まっているんでしょ?だから私はあなたを救出して鬼の里へ連れて行こうと…」
「何を言ってるんですか?私、捕まってなんていません。それにさっきから言ってる鬼って、何の事ですか?」

あら、あらあらあら?

「だから、待たぬかといったであろう」

雪村千鶴の背後に兄様が降り立った。

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