射的の屋台を離れた私とはじめ君が次に足を止めたのは、『飴細工』という、飴で動物や人間の形を作ってくれる屋台だった。
うさぎの人形を獲ってくれたお礼に私が飴をおごると言ったのに、はじめ君が「男子たるもの女子に奢らせるわけにはいかぬ……と友に教えられた」と言ったので、結局私がはじめ君におごってもらうことになってしまった。

「いらっしゃい、お客さん。何を作りましょうか?どんなものでも作れますよ」
「本当!?どんなものでも!?」
「ええ。犬でも猫でも鳥でもうさぎでもお姫さまでも、なんでも作れますよ。作れないものなんてありません」

飴職人のおじさんがエヘンと胸を張り、私は少し考え込んだ。
なんでも作れると言われると迷ってしまうけれど、何にしようかしら…?
そうだわ!

「じゃあ、鬼を作って」
「「鬼?」」

愛想よくニコニコ笑っていたおじさんの顔が怪訝な表情に変わり、はじめ君まで眉をひそめた。

「鬼、ですか?」
「ええ。作れないの?」
「い、いやぁ。作れますけど。お客さん、変わってますね。ハハハ」

私、そんなに変な事言ったかしら?と首を傾げていると、飴職人のおじさんははじめ君に「そちらのお客さんは何にします?」と尋ねた。
はじめ君は私の顔をチラリと見ると、「では、俺も鬼で頼む」と注文した。

飴職人のおじさんは鮮やかなハサミさばきで飴の鬼を作っていった。
手足の指や髪の毛など細かいところまで作り込まれ、綺麗に色付けされたそれは、食べないでずっと飾っておきたいと思うほど見事な飴細工だった。
ただの飴とハサミだけでこんな素晴らしいものを作りだせる人間の技は称賛に値すると思う。
だけど…

「…お、お客さん?どこか気に入らない所でもありましたか?」

出来あがった鬼を見て顔を歪めた私を見て、飴職人のおじさんは恐る恐るといった様子で尋ねてきた。

…どこか気に入らない所でもあったか、ですって?
フンッ。全部よ、全部!
真っ青な肌色とか、太い眉とかぎょろっとした目とか、大きな鼻の穴とか牙の生えた口とか……

「フンッ。どうして人間が思い描く鬼って、こうも醜いのかしら?」
「は?はぁ…」
「本当の鬼は人間なんかよりずっと美しいってこと、まるで知らないのね」
「…あんたは本物の鬼を見たことがあるのか?」

嘆かわしい、と首を横に振っていた私は、はじめ君の問いに「またやってしまった!」と気付いた。

.

[]


戻る