「斎藤くん!おはよう!」

「あぁ、おはよう」




どんなに時間よ止まれと願っても、明日というのは必ずやって来るもので。

俺は、今まで生きてきた中で一番と言っても過言ではないほどまでに重くなった足を引きずるように登校した。

そんな俺の気持ちとは裏腹に、今日もいつもと変わらぬ明るい声で俺のところへやって来るみょうじ。

俺は…本当に今日、この気持ちをみょうじに伝えることができるのだろうか。

昨日、色々と頭の中でシュミレーションしてみたりはしたものの、本人を目の前にするとやはり何も言えなくなってしまう。


しかも、だ。


想いを告げた後でその後はどうするというのだ。

たとえ俺のこの想いが万が一にも通じることができたとして、結局は距離が離れてしまうのだし、お互いに辛くなるだけなのではと思ってしまう。




うじうじといつまで経っても考えが纏まらず、『伝える』『伝えない』の二つの選択肢の中をあっちへこっちへと彷徨っていれば、いつの間にか時間は昼になっていた。




「斎藤くん、今日は元気ないみたいね。具合でも悪いの?」



今日は俺のおかずからアスパラのベーコン巻きを取って、自分のおかずからタコの形に切ったウィンナーを渡して来るみょうじ。

アスパラのベーコン巻きを咀嚼しながら、俺の様子がいつもと違うことに気が付いたみょうじは、心配そうに俺の顔を覗きこんで来た。




「……いや、そんなことはない」




見つめられると、いつもは恋心ゆえに恥ずかしいと思ったりもしているのだが、今日は後ろめたさしかない。

俺はみょうじにそう返事をすると、気まずくなって俯きながら弁当のおかずを口に運んだ。



そして、いつもよりも沈黙が多かった昼休みも終わり、いつの間にか放課後になって。



別れ。



その時間は刻一刻と俺の元へ近づいて来ていた。



帰りHRが終わり、今日も図書室に寄るのだろうかとみょうじの席に視線をやる。

すれば、そこにみょうじの姿はなく、俺はすぐに教室全体を見渡してみた。



そうしてすぐに見つけた、掃除用具入れの前。

背の高い茶髪の男と何やら楽し気に会話をしているみょうじの姿がそこにはあった。



ズキリ。



例えでもなんでもなく、本当に胸がそんな音を立てて痛む。


いつも俺に向けられているあの笑顔も、蓋を開けてみればなんともない、誰にでも向けられているみょうじの普段の顔なのだ。

それと同時に、やはり特別な感情を抱いているのは俺だけのようだったのだなと、心の中で自分を嘲笑した。

みょうじがその笑顔を向けるのは俺だけだ、などと。そんなわけあるはずがないというのに。





そして俺は、キシキシと痛む胸を抑えながら一人で図書室へ向かった。

このとき既に、俺の心の中で答えは決まっていたのかもしれない。




この恋心は、誰にも伝えずにこの地に置いて行くことにしようと。















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