そして、俺とみょうじが出会ってから三ヶ月が経った今。



「はぁ、寒いね」

「そうだな」




放課後、いつものように図書室で二人並んで読書をした後、どちらからともなく一緒に図書室を出る。

そうして校門を潜り抜けた後は、これもまたいつものように、並んで家まで歩く俺とみょうじ。




「斎藤くんのマフラー暖かそう…貸して?」

「またか。なにゆえ自分のマフラーを巻いてこないのだ」



その途中でみょうじが俺の巻いているマフラーを貸せと強請るようになったのも、最近ではよく見る光景だ。

俺は貸せと言われる度に、自分のマフラーを巻いてこいと嗜めるのだが、みょうじは一向に自分のマフラーを巻いて来る気配がない。

しかし、結局最後には己の首からマフラーを外してみょうじに巻いてやる俺は、どうやら相当みょうじに惚れこんでしまっているらしい。



「えへへ、あったかーい」

「はぁ…まったくあんたは…明日こそは自分のものを巻いて来るのだぞ、いいな?」

「りょうかーい!」



分かったと返事をしながらも、どうせまた明日もマフラーを巻いてこないのだろうと、俺は小さく笑ってしまう。

自分の首元が多少寒くなるものの、みょうじの笑顔を見ているとそんなことすらどうでもいいと思えてしまうのだ。




「それじゃ、また明日ね」

「あぁ。気を付けて帰るのだぞ」

「斎藤くんもね!」



そう言って別れた後、俺はみょうじから返してもらったマフラーを巻き直しながら自分の家まで一人歩く。

さっきまでは寒かった首元も、ほんのり残っているみょうじのぬくもりで二倍暖かくなるのだからこういうのも悪くない。

そんなことを思ってしまう俺は、所謂女々しいというやつなのだろうか。






「ただいま」



学校からさして遠くはない距離にあるマンション。俺はそこに住んでいる。

いつもならば一番最初に帰って来るのは俺なのだが、今日は何故だかリビングのほうがバタバタと騒がしかった。




「あ、はじめ!おかえり!突然で悪いんだけど、お父さんに辞令が出てまた引っ越すことになったの!それも出発は明日の夜!」

「な……母さん、それは本当か」

「こんなことで嘘吐くわけないじゃない!ほら、今から荷物まとめちゃってよ!学校にはさっき連絡入れたから」

「………」




突然のことで、俺は声が出せなかった。

いつもならば、一つの地に少なくとも半年は滞在しているゆえに、この時期に引っ越すことになることなど想定していなかったのだ。

母の言葉を聞いて茫然と立ち尽くしている俺の頭に過るのは、他でもなくみょうじの顔。



いつもならば、引っ越すことになってもそのことを学校の誰にも告げることはない俺。

伝えるべきなのか…そんなことを考える。



しかし、伝えてどうするのだ、などと思う自分もどこかにいる。



こんな時に携帯電話を持っていれば。初めてそんなことを後悔している自分がいた。

母や姉にはすぐに連絡が取れないのは不便だから持てと、散々言われ続けてきたのだが、そういうものを使いこなせる気がしなかったし必要もないと思っていた俺は、携帯電話を持つことを拒んでいたのだ。

いつだったか、みょうじに連絡先を聞かれたあのときにでも携帯電話を買っていれば…と思ってももう遅い。




そして、突然のことに考えることがありすぎて呆然と立ち尽くしている俺にも、これだけははっきりと分かった。




みょうじへのこの想いを伝えるならば、もう明日しかチャンスはないのだと。










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