「―――ええー、ンン゛ッ!!!…只今司会者ニゴ紹介頂キマシタ土方歳三でゴザイマス。皆様、本日ハゴ多用中ノナカヲ、ワ、ワザワザゴ臨席下サイマシテ、誠にありがとう、ございます…」

「ブッ!!!!!」

「お、おい総司!やめろよっ噴くなって!釣られちまうだろ!」

「「……………」」


しん、と静まり返った式場内に、汗をだっらだら流しながら目を白黒させている我等が部長土方さんと、耐えてはいたが耐え切れず、思い切り友人席で噴出した沖田さんの唾が飛ぶ音が響いていた。同じく堪えていたらしい藤堂くんのそんな突っ込みにも思い切り混じっている笑いは綺麗に伝線し、先ほどまで緊張と感動に包まれていた空気がマイクのハウリングと共に反響して消えた。

わたしとはじめ君は、新郎新婦席で白目をむいていた。



あの後、仲人の土方さん、そしてわたし達主役と担当者さんを交えて軽い打ち合わせの後、両家の控え室に挨拶に行き、会場の準備が整い出席者も出揃ったところで、結婚式本番を無事迎えた。堅苦しい流れを初々しくこなしたわたしとはじめ君は、一度退出し、披露宴へと席を移していた。
お色直しであのスタッフさんが「凄くいい式でしたね」と言ってくれたのは、とても嬉しい。

そして、退出してから、再び入場するまでガチガチに緊張していたはじめ君だったけど、今の土方さんには敵わないだろう。
実際、今時の結婚式で仲人を立てるかどうかは迷いに迷った。しかし、出席者には会社関係の人間が多く、はじめ君が敬愛している土方さんに是非、との事でご迷惑ながらお願いした。「注目を浴びるのは苦手なんだが、お前らの為だ…ひと肌脱いでやる」と、凄くカッコ良い事を言ってくれたくせに、アレだぜおい。
あんな汗で濡れ鼠になっている土方さんを面白そうにロックオンしてる永倉さんが「いいぞー!よっ鬼部長ー!」と野次を飛ばして「うるせぇ!新八!!」なんて会場を盛り上げる。…う、うん。盛り上がってる…んだよね?


「はじめ君…、わたし達もしかして、土方さんに恥掻かせてないですか…?」

「い、いや…、そんな馬鹿な事があっては困る」

「でも、ほら。あの土方さんが、赤通り越して青くなってますよ…」

「だ、大丈夫、大丈夫だ。…土方さんならやってくださる」


はじめ君側が招待したのは、殆どが社内の人間だから「ぷぷー土方さんぷぷー!」な一部を除いて、何だかんだ和やかムードなのは分かる。だが、わたし側…実は大学の頃の友人とか誘っていたから、置いていかれてやしないか不安だった。
控え室にも着てくれた仲良しグループに、揃って「あんたがねぇ!あんなねぇ!イケメンをねぇ!!よかったねぇ!!」と、泣きながらカタコト語でお祝いされた。「ありがとう、わたし幸せになるー!」とこっちも貰い無きしている所で「で?あの新郎側のご友人の紹介なんぞをして頂けるかしら?」なんて、大学の友人すらハイエナに豹変したり。おい、子持ちもいるだろうお前等。

ちらり、と友人席を見ると杞憂だったらしく、そんなあたふたと挨拶を続けている土方さんの美男っぷりに頬を染めていた。なんて奴等だ。

はじめ君は「土方さん…っ!」なんて言いながら拳を握り締めている。それは、エールですか?
いつも会議でボードの前に凛と立っている姿とは想像出来ないくらいの青大根…いや、うろたえっぷりの土方さんだったけど、友人席からの野次も相俟って、段々いつもの余裕を取り戻してきたみたいだった。


「―――…あー、言葉は悪いですが。何せ、新婦のなまえさんはうちの部署でも結構トラブルメーカーと言うか、なんつーか…、飲みの席で俺の口にビール流し込むわ、絡むわで…、そういった面じゃあ、大分騒がしい日次を過ごさせていただきました…わけでございます」

「…土方さん、」

「―――まぁ、ご両親の前で言うのもなんですが、そんなお転婆娘だったこいつに、良くしていたのが斎藤で…、あ、いや、ウチの斎藤くんで。彼はなんていうか、誠実に誠実をまた足した様な男で。仕事を任せたら、斎藤くん以上に安心できる人間はいないと言っても過言ではなかったわけで…。くっ付いたって聞いたときにゃ、とんでもねぇ組み合わせが出来たな、とそう思いました次第でして、」

「っ、」

「はじめ君、わたし泣いていいよね…?」


いや、事実なんだけど…土方さん、わたしの立場…わたしの立場は?
でも挨拶が続くにつれて、この人はいつも興味なさそうで、はじめ君以上の仕事人間だったけど、よく見ていたんだな、と思った。
最初飛んでいた野次も無くなって、スポットライトをあてられみんなの注目を浴びている土方さんは、いつの間にかいつも通りの土方さんで。
以前、はじめ君と擦れ違って途方に暮れていた時、背中を乱暴に押してくれた時と同じ声音がわたしの心を擽った。
まぁ、両親には「会社では結構優等生ナンダヨ☆」とか大法螺吹いていたから、ちょっと気まずくはあるけど、それ以上に土方さんの眼差しが優しくて、ちょっと…本当にちょっとだけ、泣きそうになった。…はじめ君は目真っ赤にしてるからみて見ぬふりをしておこう。


「―――俺は、こんな立場の人間だから、心を鬼にして厳しいことも言ってきた筈だ。…でもな、人に教えるつもりが、逆に教えられるってどうなんだ…。なあ斎藤、俺の背中を見てきたお前が、今じゃ俺より幸せそうな目をしてやがる。俺はな、それが何よりも喜ばしいとそう思う」


カンニングペーパーなしで、ここまで大いに語りきった土方さんは、最後にこちらを振り返り、スタンドに挿してあったマイクをハウリングと共にもぎ取ると、よく仕事がうまく出来た時に「よくやったな」と言ってくれた時の様な表情を浮かべて、締めに入った。


「―――おい、お前等。いいか、これは上司命令だ。ちゃんと幸せになれ。…背いた奴は切腹だ」

「はい、ありがとうございます。土方さん」

「ううー、ありがとうございますーーーっ!SEPPUKU!FUUUUUU!」


挨拶に余計な返事をするな、と事前の打ち合わせ時に言われていたのに、感極まったわたしとはじめ君は、場内の端に聞こえる位の物騒な返事をしてしまった。
これはもう身に染み付いた習慣みたいなモンだ。我等が鬼部長土方さん。彼が誰からも慕われ、尊敬されるのが今なら手に取る様に分かるから不思議だ。あの土方殺法を喰らった時はチビるかと思ったけど、それ等があって今のわたしとはじめ君がいる。


「―――途中、不適切な失言もあったと思いますが、長くなるとじっとしていられない部下がおりますので、この辺で。えー、皆さま方におかれましても、この前途有望なお二人に、今後ともよろしくご指導、ご厚誼のほどをお願いし、私、媒酌の役を勤めさせて頂きました土方歳三の本日の挨拶とさせて頂きます」


ペコリとお辞儀をした、漢・土方さんの見事な挨拶が終り、場内は拍手に包まれた。


「よっ!やる時はやる男!!!」

「土方さんやっぱかーっくいー!」

「俺のカメラワークも相俟って、こりゃ涙流さねぇ方がおかしいぜっ、ううう〜!!」


お酒が入って既にべっろんべっろんになっている原田さんと藤堂くんと永倉さん。ずびずびと泣きながら鼻を啜っている永倉さんが回しているビデオを後日見せて貰ったら、殆ど鼻を啜る音で土方さんの声が聞えなかった。というのはまた別の話にして。


「あーあ、あの土方さんが恥かくところ、期待してたのに…。あの人はいつもずるいよね」

「そう言ってやるなよ、沖田。祝いの席だろ、今日くらいは素直になったらどうだ?」

「あれ?下っ端のキミがそんな事言っていいの?井吹君」

「ち、違うっ!俺はただ、常識的な意味でだなぁ!」


そういいつつも、なんだか嬉しそうな沖田さんと、わたしと入れ替わりに移動してきた井吹くんが手を打つ。もうあんだけ馴染んだんだ!可愛い顔してたから、もう立派なイケメンバーだね☆
危うく黒い涙になりそうだったそれを指で救って、主賓の祝辞が開始。そして、それが終わればいよいよ、アレだ。アレがくる。乾杯からの…


「次は、ケーキ入刀だったか」

「あ、そうですね。一度でいいからあんなウェディングケーキを一人で食べてみたいです。女子の夢ですよねぇ…」

「胸焼けしそうだが、」

「もう、はじめ君はわかって無いですね…」

「…っ、これからは努力する」


なんて、こそこそ内緒話をしていたわたし達の前で、スタッフさんが慌しく準備を始めた。その時だった。それは突然現れた。


「土方ァ!何だ今の腑抜けたスピーチは!!!」


バターン。と思い切り開け放たれた両開き扉の先にいたのは、


「か、風間!?」

「リッチさん!!!」


毎度お馴染、風間・リッチ・千景さんでした。




鬼の土方と天敵登場


(ふははははは!この俺がわざわざ着てやったのだ、礼を述べろ斎藤とやら)

(あんたを呼んだ覚えは無いが…)

(あ、すんまっせん。わたしが招待状だしました)

(……なまえ、)

(仲間外れはいけません)




2014.12.15

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