「全員揃うなんて、久し振りだよね」

後部座席から身を乗り出すと、両サイドから笑い声。
右を見れば、最近また車の内装で沢山お金を使ったと言っていた左之さんが「確かに全員っつーのは久し振りだな」なんて笑ってる。
それにうんうんと頷きながら左を見ると、新八さんが相も変わらず趣味の悪いバンダナを巻いてニヤニヤ腕組み。

「しっかしよぉ、俺ぁいつも暇だっつってんのに、忙しい忙しいって言ってるのは大体なまえちゃんじゃねえか」
「違うって、新八さんがタイミング悪いんだって!」
「この間も競馬誘ったのに、先約があるとか無いとか、」
「あ、それ左之さん左之さん、」
「あー、先週の日曜だろ。俺だな、」
「んなあああっっ!!??」

オーバーリアクションで仰け反った新八さんのお陰で、腕を乗せていた助手席の座席がガクンと揺れる。それを見て「おい、新八!壊すなよお前!」と真剣に怒っていた左之さん。ううう、このノリ。この空気。この掛け合い!どうしよう、すっごくワクワクしてきた。
二人の横顔を見ながらニヤニヤしていると「なんだよ、嬉しそうじゃねえか」と、同じくニヤニヤ顔の新八さんと、運転しながら「ほら、ちゃんと座ってろよなまえ」と気を使ってくれる左之さん。「楽しみだね!」と笑い返すと、「そうだな」と歯を出して笑う二人は、わたしの大学時代の先輩。もうみんなとっくに卒業しているけれど、当時仲が良くて暇があれば集っていたメンバーの二人だ。
連絡が来たのは、つい先日の事。仕事が終わりくたくたになりながら電車を降り駅に出た所で、左之さんからの着信。パッと疲れを肩から放り投げ電話に出ると「全員集るぞっ!」の第一声に「きゃあああ!!!」と叫んだのは言うまでもない。外で…だ。

「そう言えば、左之さん。迎えに来てくれてありがとう」
「いや、急だったし。お前も友達放っといて良かったのかよ」
「ううん、ちゃんと今日は迎えが来たら帰るって言ってあったし。みんなビックリしてたね!左之さんカッコいいねって言ってたよ」
「左之は囲まれてたもんなー。…俺は、俺は、」
「あ、マッチョフェチのミカちゃんが新八さんカッコいいって言ってたよ!筋肉が!」
「き、筋肉だけか…、」

がっくりと肩を落とした新八さんと、ハンドルを綺麗な動作で操る左之さん。今日は二人に迎えにきてもらった。さっきまでお友達と遊んでたんだけど、カフェの真ん前に車を止めて歩いてきた二人に、わたしの友達は興奮して珈琲噴出してた。そりゃ、背も高くて目立つ二人だから、他のお客さんも見入っちゃって。左之さんなんて囲まれてたんだけど、明らかに知らない人までいたんだもん。わたしの方が慌てちゃったよ。まるで芸能人が来たみたいにあたりは騒然。でもちょっとだけ鼻が高かったかな。

今は、そんな左之さんの車で居酒屋に向かっている途中。昔よくみんなが集った時に行っていた所なんだけど、もう皆は着いてるかなあ。
別に皆に会うのが久し振りって訳じゃない。それぞれからお誘いがあって時間が空いていれば勿論遊んでる。仕事が忙しくて、まだ新入社員のわたしを元気付けてくれるのか、代わる代わる遊びに連れて行ってくれる人達が、わたしは大好き。

「もう着くぞー、っておい新八。お前携帯鳴ってんぞ」
「お、はいはい」

スルスルと難なく車線変更をした左之さんが入っていったのは、目的地である居酒屋の駐車場。土曜って事もあってか結構混んでるみたい。あ、あの入り口で立ってるのって!!

「土方さんだーっ!」
「おー、あっちの方が早かったか、」

店の外にある灰皿の前、スーツ姿で煙草を吸っているのは同じく大学の先輩の土方さん。左之さんの車に気付いたのか、煙草を持っている右手を上げてご挨拶。わたしも手を振り替えして、左之さんが短くクラクションで応える。と携帯を丁度耳に当てた新八さんも「おう、」と電話相手に返事をしながら手を上げた。
「なまえ、先に降りてろ。車止めてくるからよ」と土方さんの前で車を止めてくれた左之さんに礼を言って、ドアを開ける。びゅうびゅうと吹く風が冷たかったけど、それ以上に楽しみが勝っているから苦じゃない。
駐車場のコンクリートに脚をつけると、そのまま真っ直ぐ土方さんの元へと駆け寄った。

「土方さーん!お疲れ様ですーっ!」
「おー、なんだお前、原田に足やらせたのかよ」
「足ってなんですか、人聞きの悪い…。左之さんが新八さん拾う序に同じく拾ってくれたんですよっ!…って、スーツって事は、土方さん今日お仕事だったの?」
「あー、まあな。大体土曜は仕事だ。前にも言っただろうが」
「えっ!先週の土曜日映画連れてってくれたじゃないですか、」
「お前の守りは仕事みてえなもんだよ…」

スーッと肺に煙を取り込んで横を向いた土方さんは、どこか気まずそうに舌打ちをした。その反動で、ぽん…と煙が唇を割ってその白い靄を空へと吐き出す。土方さんは大学を出て直ぐに大手会社に入社したから、本当に毎日忙しそうって誰かが言ってたな。と、そんな事を考えてたその時、バタンと居酒屋の扉が開いて「なまえ!!」と元気な声でわたしの名前を呼んだのは。

「平ちゃんっ!もう来てたんだっ!」
「おお!こっから会社近いからな!土方さんと終わってから直行したんだっ!待ちくたびれちまったぜっ!遅っせえよお前!」
「うわーーっ!」

店から飛び出して来たのは、わたしと同じ年であり、土方さんと同じくスーツ姿の平ちゃん。大学でも同じ学部だった事からいつも一緒に居た男の子。すっごく元気で、いつもわたしを引っ張ってくれて、彼のお陰で大学生活が楽しかったのは勿論。土方さん達とめぐり合わせて貰えたのも彼のお陰。
ぐしゃぐしゃとわたしの頭を撫で回しながら笑っている平ちゃんは、はっと何かに気付くと土方さんに「もう席作ってくれたってさ!」と言っていた。それに頷いた土方さんは、左手にある高そうな腕時計を見下ろしながら「あと二人か、」と眉間に皺を寄せていた。

そして車を止めたのか、左之さんと新八さんも無事合流。
まだ揃ってないからかみんなは寒い中、店内の待合室に行くわけでもなく、外で灰皿を囲んでいた。お店に入っていく人皆が見るもんだから少し恥ずかしいけど、これだけ人の目線を動かしてしまう彼等も只者ではないと知る。わたしは、慣れちゃったからなー。
きゃーきゃーと女の子達の視線を総取りしている彼等は、さして気にして居ない様子で、気付けば真ん中に陣取ってしまったわたしは肩を竦めながら会話を聞いていた。

「今電話があってよ。もう少しで着くと、」
「なんだよ、ほんっと時間にルーズだよなあ。つってもまあ、約一名か」
「あいつが付いてるっつーのに、どうせまた口喧嘩しながら来るんだろ」
「ったく、しょうがねえなあ…っ」
「あ!!ねえ皆っ!あれじゃないっ!あの車!」

両サイドに大きな身体があるから、風避けになっているとは言え、やっぱりまだまだ寒いこの季節。悴んだ指でさしたのは、ウインカーを出して駐車場に滑り込んでくる一台の黒い車。左之さんのスポーツカーとはまた違った格好良さがある。間違いない。この間乗らせてもらったから見間違わないよ。





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